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続・東方伊吹伝  作者: 大根
続・伊吹
2/6

ぷろろーぐ・中

 まずは東風谷さんに、今彼女が置かれているを把握させてあげないと駄目だろう。目が覚めた時に魔理沙がおおまかな説明は済ませているとは思うけど、確認のためにもう一度説明したほうがいいだろう。


「東風谷さん。自分が何処に居るか理解できてる?」

「はい。ここは"愛と欲望が渦巻くとっても不思議な幻想郷" です!」

「……ごめん東風谷さん。馬鹿弟子に任せた僕の責任だ」

「ええ!?」

「取り合えず座るといいわ。紅茶でいいかしら?」

「あ、はい。えっと」

「アリス・マーガトロイド。アリスでいいわ。じゃあ上海、あと二人分お願い」

『シャンハーイ』

「人形が……あっ、ありがとうございます、アリスさん」


 アリスに促され、東風谷さんが椅子に腰かける。

 アリスは一人暮らしなのでテーブルも大きくなければ、椅子もよく遊びに訪れる僕と魔理沙の分を含めた3つしかない。

 僕、アリス、そして東風谷さん。この三人座れば魔理沙の座る椅子は無くなるわけで。椅子が無くなって手持ち無沙汰になった魔理沙が、どうしたものかと突っ立っている。 


「なあ師匠、退いてくれよ」

「弟子が師匠より贅沢してどうするんだ。立ってろ」

「私は看病で疲れたんだぜ? 師匠の命令を果たしたんだから、その褒美くらいくれてもいいじゃないか」

「ご、ごめんなさい! 私すぐに退きます!」

「ああもう魔理沙……東風谷さんも退かなくていいから。お客さんだし、何より病人だから」


 馬鹿魔理沙、病人に変な気を使わせるんじゃない。

 そうやった意味も込めて視線を送るが本人はどこ吹く風。だったら師匠が退けばいいじゃないかとでも言いたげなように見てくる。

 まあ、それも無理もないことかもしれない。

 早朝から身体作りをさせていたからか、その表情には疲労の色が濃い。

 普段は初対面の人がいると少し遠慮がちになるはずが、初対面でしかも病人の東風谷さん相手にも遠慮が無くなっている。

 考えることが難しいほど疲れているからだろう。瞼も若干重たくなっているようで、大きな欠伸を手で隠すこともなく見せてくれている。


 ――――あ、また欠伸。相当疲れているみたいだね。


 僕もああして師匠に疲れたということをアピールしていた時期があったんだよね。

 だから気持ちが分からないでもないけど、ここで甘やかすと後々のことがなぁ……。


『シャンハーイ』


 そうやっている間にも、上海が二人分の紅茶を淹れて帰って来た。

 東風谷さんは小さな人形が動いていることに驚いたり、僕と魔理沙の何時も通りの剣呑な雰囲気にあたふたしたりと、どこか落ち着きが足りないような印象を受ける。

 けど初対面の相手に気を配ったり、病み上がりの身体を推して感謝したりと、とても真面目な子だという印象の方が大きい。適当な人の多い幻想郷とは違って、外の世界はなにかと厳しい規律があるからそのせいなんだろう。

 それは置いておいて。

 椅子の取り合いについて考えよう。

 魔理沙は疲れが溜まっている。家主を立たせるなんてことは言語道断。東風谷さんも右に同じ。消去法で僕が立つことになるのは必然になるわけだ。

 仕方が無い。東風谷さんがまた声を上げそうになるのに先んじて、僕は椅子から立ち上がった。


「魔理沙、交代しよう。疲れてるんだろ?」

「いいのか!?」

「あの、やっぱり私が……」

「いいからいいから、東風谷さんは座ってて。弟子の教育にも飴と鞭が必要だし、僕も男だからね」

「流石師匠、話が解るぜ」

「その代わりと言っちゃなんだけど、今日の宴会までしっかり修行するように」

「そりゃないぜ……」


 喜びが一変、しゅんとして座り込む魔理沙。

 修行しろ修行しろなんて言うけど、僕なんてまだ甘い方だ。僕の弟子時代の時なんて、疲れ切った後の座学だったからね。なんでも眠たい時に憶えたことは忘れないとかなんとか。見る夢は魔法式が流れていく悪夢だった。

 出来ればそこまで追い詰めた修行をしたいけど、生憎と師匠みたいに生かしたまま殺すなんて絶妙な手加減は出来る気がしない。目の前で魔理沙の身体がパーンッ! ってなると目覚めが悪いし。


 それにわざわざ僕が退いたのは、外の世界からやってきた東風谷さんを驚かしてあげたいと言うのが大きいかな。


「東風谷さんは魔法を見たことがある?」

「魔法、ですか? いえ、魔法は見たこと無いです」

「うーん……やっぱり魔女狩りの影響かな?」

「あの、伊吹君?」

「あ、ごめんごめん。少し昔を思い出して」


 この様子じゃ、外の世界に魔法文化は残ってないんだろう。下手をすれば陰陽道も失われているかもしれない。

 嘗て大陸で一世を風靡した魔法文化が影も形も残ってないというのは、悲しいを通り越して虚しく、それでいて寂しく感じる。

 大陸に居た時に協力関係だった聖堂騎士団も、魔女狩りの影響で名前すら残っていないのだろう。何せ団長自身が、自分達が歴史から消え去ることが運命だと言っていたのだから。

 そう思うと、なんだか僕らの全てが否定されているようにすら感じられる。こうして生きていること自体、何かの間違いなんかじゃないのかって。

 ――――幻想郷と外界。

 紫さんから相容れないものだとは教えられたけど、こうして実感してみるとよく理解出来る。外の世界は、もう僕の知っている世界とは違うんだと言うことが。


 ――――まあ、だからこそ脅かしがいがあるんだけどね!


「今から、何もない空間から椅子を創り出しまーす」

「え?」

「いきますよー? 3、2、1 ……はい!」


 想像するのは3人が座っているものと全く変わらない椅子。

 その設計図を頭の中で組み立て、魔法を発動するための式へ代入していく。それに必要な分だけの魔力を使い、魔法発動の全工程は終了。

 

「伊吹大和作、アリス家の椅子です! ……ドヤ?」


 幻術系高等魔法"有幻覚" によって創り出した椅子。

 うん、最近忙しさから使ってなかった割には中々の出来じゃないか。

 完全再現された椅子はもちろん座ることが出来る。もっとも、それほど本格的に魔力を込めて作ってないから、強い衝撃を受けたら霧散するけど。

 それでも人一人分の重さくらいは十分耐えられる。

 自前の椅子に腰を下ろし、話の輪の中に再び入る。


「これが幻術魔法ってんだから驚きだよな」

「物質化の魔法って便利よね。私も習ってみようかしら?」

「今日の宴会用に結構ネタ仕込んでるからね」


 HAHAHA! もっと褒めてくれていいんだよ?


「どうかな、東風谷さん。結構凄い部類の魔法なんだけど……?」


 外には魔法がないだけに、東風谷さんも驚いてくれているはず。

 そう、例えば『キャー伊吹君スゴーイ!』 なんて言ってくれるのだと思い、キランと歯を光らせて振り返って見る。

 しかし、そこには予想外の反応を示している東風谷さんがいた。


「――――――」


 無表情。

 いや、無よりも更に深い。まるで何かに畏れを抱いているような目をしていた。


「東風谷さん?」

「―――――すっ、凄いです! 伊吹君は魔法使いだったんですね!」


 それはほんの僅かの間だけだった。

 瞬きするほど僅かの時間だったのか、ともすれば僕の見間違いだったのかもしれない。それでも僕が今まで抱いていたイメージとはかけ離れた変化だった。

 しかし、アリスと魔理沙は東風谷さんのその僅かな変化に気付いていない。


 ――――見間違いかな?


 すぐ元に戻った東風谷さんを見て、そう思い直すことにした。


「ちなみに、この家の中に居る人は全員魔法使いだよ」

「そうなんですか!? ―――――ハッ!?」

「うん? どうかした?」

「と言うことは、私も魔法使いだったのですね!」

「「「ねーよ」」」

「ええ!? 違うんですか!?」


 あたふたとする東風谷さん。何この子凄い馬鹿可愛いんですけど。これが噂の天然ってやつですか。

 どう考えても今さっきのは僕の勘違いです、どうもありがとうございました。


「このお馬鹿さんはもう放っておいて大丈夫ね。そう言えば大和、貴方宴会の買い出しに行かなくていいの?」

「いま何時?」

「二時過ぎ。それにこの子はどうするつもり?」

「博麗神社から外に帰させてあげるつもり。一応聞いておくけど、東風谷さんは帰りたい?」

「はい、もちろん」

「じゃあ魔理沙」

「ガス欠だぜ。とてもじゃないが二人で空は飛べないな」

「アリスは――――」

「さーて、今日はどのワインを持って行きましょうか」


 アリスはワインの選別に忙しいから仕方ない!

 それに比べて魔理沙、お前はもう少しガッツが欲しい所だ。魔力が無い時にこそ、肉体派魔法使いが本当の力を引き出せることが出来るんだからさ。


「あの、今すぐにとは言わないので、都合の付く時で結構です?」

「いいの?」

「はい。皆さんにも都合があると思うので」

「……分かった。じゃあ今夜、日が変わる時に外への扉を開く。その時でいいね?」

「はい!」

「じゃあその代わりと言ったらなんだけど……」

「…?」


「不肖の二代目が、責任を持って幻想郷を教えてあげよう。買い出しから宴会まで!」 


 勢いよく立ち上がって東風谷さんの手を取る。

 作った椅子の魔力を霧散させて、きらきらと光りながら消えて行く様を見てから扉へと歩き出す。

 さあ、いざ行かん買い出しへ!

 ちなみに料理も神社で僕がすることになっている。集まって来るメンバーも色々と持ち合わせてくるだろうけど、それでもホストは忙しいのだ。パシリと言ってもいいくらいに働く、もとい働かされる! でも霊夢からお願いされて断ることが出来ようか!? いや、出来ない!


「じゃあ行こうか! 旅は道連れ世は情け、この出会いを大切にしよう!」

「え? え!?」

「頑張れ早苗。師匠はやると言ったらやる奴だ」

「セクハラされないように注意しなさい」

「アリスは一言多いんだよ! でもありがとう。また来るね」

「はいはい、次はお土産でも持って来て頂戴」


 その言葉に苦笑しながら、東風谷さんの手を取って家の外へ出る。


 目の前に広がるのは緑豊かな魔法の森。一番明るい時間帯とあってか、照りつける太陽が少し眩しい。

 これから訪れる空を見上げて調子を見る。

 風なし。雲なし。雨の気配もこれっぽちもない。これなら気持ちのいい空の旅が出来そうだ。


「東風谷さんは空を飛んだ経験はないよね」

「飛行機ですか? 残念ながらないんです。何時か乗ってみたいとは思っているんですけど」

「ひこうき……? よく解らないけど、ないんだったらそれでいいや。――――いい? 魔力で全体を包むけど、僕の手をしっかり掴んでいてね」

「伊吹君、何を言って――――――!?」


 ふわりと、重力とは真逆に浮かぶ身体。

 地面から足が離れていく瞬間を、東風谷さんは目をパチパチさせながら驚いている。

 自分の身体が地面から浮いていくのを感じているのだろう。口をポカンと開け、声も出さずにただただ目を丸くしている。


「いい?」


 僕の言葉に、小さく無言で頷いた。

 ただ少し怖いのか、握る強さが少しずつ強くなってくる。

 僕は怖がらせないようにゆっくり、ゆっくりと空を目指す。

 除々に上昇して行くと、だんだんと木ばかりの風景から遮るもののない大空へと視界が映り変わっていく。

 木を越え、水平線に見えるのはやや丸く見える幻想郷の景色。


「じゃあ行くよ!」


 目の前の景色に圧倒されている東風谷さんを尻目に、僕は飛行魔法を行使した。




      ◇




「おう、大和の兄ちゃんじゃねえか! いい肉が手に入ったぜ! 今夜博麗の巫女様と一緒にどうだ?」

「おいおい肉屋の糞旦那、馬鹿言っちゃいけねえよ。漸く冬が終わった今日の夕食は、今が旬の魚で決まりだろう! 何時もお世話になってる大和の旦那には特別価格! どうだい、安くしとくよ!」

「大和坊主じゃないですか。どうです、この品揃え。儂の八百屋もまだまだ捨てたもんじゃないでしょう? 好きなものは……ああ、仰らないで。芋でしょう? 芋がお好きなんでしょう」

「あらあら、お久しぶりです大和さん。お昼はまだですか? なら是非とも家のお蕎麦を食べて行って下さい」

「おじさん達、肉も野菜も今日一番良い物を貰えるかな。あとお爺さん、芋もいいけど野菜も下さい。お題は全部八雲に付けておいていいですから。

 ――――ええ、あの八雲です。え? 怖くて言えない?

 馬鹿言っちゃいけませんよ。あの人だって鬼じゃないんですからちゃんと払ってくれます。あ、鬼がお代を払わないわけじゃないですよ?

 大丈夫大丈夫、駄目なら僕の方からも言っておくので。慧音さんにだけは迷惑をかけないようにお願いします。

 あとおばさん、今日は宴会だからお昼は空けてるんだ。また今度寄らせて貰うね」


 人里に降り立った途端、我先にと大和に声を掛けてくる大人たち。

 筋肉ムキムキマッチョマンの肉屋に、付いてる所は付いてある細マッチョな魚屋の親父達。呆けているのか、他の野菜があるにも拘わらず芋だけを売り付けるお爺さん。更に蕎麦屋や団子屋、その他多くの商店の人達が大和が通るたびに寄ってけ持ってけと声を掛ける。


「あー! 兄ちゃんがまた別の女連れてるー!」

「ボク知ってるよ。これ不倫って言うんだろー?」

「不潔ー」

「えーと、巫女様に刀のお姉ちゃんに、金髪のお姉ちゃんに館のお姉ちゃんと目の前のお姉ちゃんで……五股?」

「こら! いけませんよ貴方達! 大和さんが女性に気が多いからって、例え本当だとしてもそんなこと言わないの! ――――すいません大和さん、子供たちが変なこと言って」

「謝ることないですよ奥さん。勘違いだなんて言っても無駄だと解ってますから、はい。別に男友達が皆無なことに泣いたりしませんから、ええ。この伊吹大和、この程度じゃもう泣きませんとも」


 買い物を終えると、足下には子供たちが纏わりついて来る。

 子供の親たちが止めようとするが、本気で止めようとする人は誰一人いない。

 両腕が荷物で塞がっている大和は追い払うことも出来ず、ただ群がって来る子供に顔は笑って心で泣いた。




「伊吹君、大丈夫?」

「もう慣れたよ」


 買い物をしながら里を練り歩くこと数時間。漸く人ごみから解放された大和を労るように、早苗が声を掛けた。


「伊吹君は人気者なんですね。ここに来ると何時もこうなんですか?」

「だいたいこんな感じかな。正直嬉しさ半分、戸惑い半分かな。ゴシップ好きの天狗がね、『立て続けに起る異変を解決した魔法使い! その名も伊吹大和!!』 なんて捏造塗れの新聞をばら撒いたせいでこうなったんだ」

「異変と言うのは……?」

「ん? ああ、流石にそこまでは知らないよね。説明するよ」


 大和は早苗に紅霧異変、春雪異変について説明した。

 もちろん異変の核心となることは伏せ、概要と自分、そして博麗の巫女である霊夢が行った異変解決について大まかなことを話した。


「幻想郷って不思議なところなんですね~。春まで雪が続くなんて、ちょっぴり嬉しかったりします」

「案外大変なことなんだよ? 農作物は育たないし、動物たちも冬が続いたせいで感覚が狂ったりしたみたいだし」

「それを解決した大和さんを、ここにいる皆さんは尊敬しているんですね」

「僕よりも霊夢にその尊敬を向けて欲しいんだけどね……。この称賛が霊夢に向くように努力するのが、今の僕の目標かな」


 もちろん話を広めた文文。新聞にも、大和だけでなく霊夢の記事もしっかりと載ってあった。

 しかし、記事の内容と一面の写真が大和だっただけに、大和への関心が深まってしまったのも確かだ。

 大和本人は霊夢へ関心を向けて欲しかったのだが、天狗の新聞は以外と読者が多い。妖怪も面白半分に読む新聞で大和を宣伝するために、紫が裏で手を回していたのは言うまでも無い。文自身もノリノリでその話を受けた結果、このようなことになった。大和本人は何も知らされていないが。


「天狗の新聞ですか……。流石は幻想郷、何でもありですね」

「何でだろう。東風谷さんの言葉にそこはかとない違和感を感じるのは」

「常識に囚われてはならないと言うことなんでしょうか……。なら憧れの巨大ロボも…ブツブツ」

「おーい東風谷さーん、帰ってきてよー」

「―――――あ、すいません。ときどき自分の世界に入り込むことがあるんですよね」

「うん解る。凄く解る」


 一人ブツブツと呟いていた早苗に、大和は何度もうなづいて見せた。

 清楚でお淑やか、真面目で少し影があるのかと思いきや"巨大ロボ" なんて斜め上の発想を捻りだす少女に大和は苦笑を隠せない。あと、河童と接触させるのは危険だとも秘かに思った。


「さて、じゃあ最後は酒屋に――――って、これじゃあ碌にお酒も選べないか」

「お酒ですか? 駄目ですよ。大和さんはまだ未成年じゃないですか」

「元服は過ぎてるよ?」

「外の法律じゃあ、お酒は二十歳になってからなんです。身体に悪いから駄目ですよ。めっ! です」

「あはは、大丈夫大丈夫。もう千年近く生きてるから」

「もう! そんな冗談言っても駄目ですよ!」

「冗談じゃないんだけどなぁ。ま、別にいいよね。自己責任、自己責任」


 誤魔化したようにからからと笑う大和だが、嘘は言っていないのだから仕方が無い。

 早苗は何度も飲酒が身体に及ぼす悪影響について訴えているが、二十歳など等に超えている大和はどこ吹く風。

 そもそも種族が人間から魔法使いに変わっているのだから、お酒どうこうと言う問題でもなくなってしまっているのだが。

 もっとも、外の常識がそのままの早苗には理解すること自体不可能なのだから、この早苗の反応は当然といえば当然のことだった。


「じゃあ今日のお酒は皆が持ち寄って来る分に任せるよ。東風谷さんが僕の身体を心配してくれているんだし」

「宴会でも飲酒は禁止です! 私、ずっと見張ってますからね!」

「困った、それじゃあアリスの美味しいワインが飲めないや。今まで何度も飲ませて貰ってたんだけどなぁ」

「いーぶーきーくーんー!?」


 詰め寄って来る早苗をするりと躱す大和。

 傍から見れば仲の良い二人に見えているのだろう。周りからは"やっちまえお嬢ちゃん!" "大和の旦那、捕まるのも甲斐性ですぜ!" なんて声も聞こえてくる。

 長い間その攻防を繰り広げていたが、早苗も漸く周囲の様子に気付いたのか。追いかけるのを止め、周りを見渡した顔は羞恥心から真っ赤になってしまっていた。


「さて、料理の下準備もしないといけないし、そろそろ博麗神社に向かおうか」

「……」

「でも両腕は塞がってるし、どうしようかな?」

「……」

「おんぶしようか?」

「……伊吹君は意地悪です」


 しゃがむ大和に覆いかぶさるようにして、早苗が身体を寄せた。そのまま首に手を回して、落ちないようにしっかりと身体を支えられていることを確認した大和が立ち上がる。


「背後から来るこの圧倒的感覚……プライスレス…っ!」

「…? どうかしましたか?」

「ナンデモナイヨ。シッカリオシテ……ツカマッテテネ?」

「はい!」


 最近の辛い激務の中、漸く廻って来た役得を噛み締める大和。

 背中に掛る柔らかい感触に涙しつつ、再び空へと舞った。



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