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五話:石盤に運営と刻まれていた件!

皆様、お待たせいたしました。第五話です。


 ここまで、我らがモモ(桃太郎)は「隠居」という名の合格通知を目指して、赤ん坊の皮を被りながら計算高く生きてきました。


 しかし、平和な日常の裏側には、常に「違和感」が潜んでいます。


 今回は、その違和感の正体が、最悪の形でモモの前に姿を現します。


 「知らぬが仏」という言葉がありますが……果たして知ってしまった彼は、この先どう動くのか。


 不穏な空気を纏い始めた第五話、どうぞお楽しみください。

 計算と努力で「平穏な隠居生活」という名の合格通知を掴み取ってやる。


 ……と、意気込んでみたものの。


 あれから数日が経った。


 日常生活がスタートしても、俺の意識は彼女の背後――部屋の隅にあるあの『石盤』へと吸い寄せられていた。


 (気にしない。絶対に見ない方が良い。完全にあれはキーアイテムだよな!)


 そう自分に言い聞かせてきたが、どうしても気になってしまう。


 現状を把握するのは受験生の基本。あそこに何が書いてあるのか……。


 (見よう……いや、でも……)


 (気になるっていうか、怖いのに目が離せない。

 なんでだ……この“違和感”は、前世の俺のどこかを刺激してる気がする)


 結局、石盤の文字は一文字も読めないまま、俺はそのまま『フェアリーキープ』へと登園させられることになった。


 別れ際、リミバァは俺に一冊の「本のレプリカ」を手渡した。


「桃太郎、今日はこの本で遊びなさい。あんたなら、きっと気に入るはずだよ」


 そう言って微笑む彼女の目は、孫を愛でるおばあちゃんのそれだが、手渡された本の装丁は、明らかに異質だった。


(……おいおい、なんだこの本は!)


 表紙にはタイトルすらない。ただ、銀色の縁取りが幾何学的なラインを描いている。


(グフフ……新しい魔法書か? これで俺の最強隠居プランに磨きがかかるかもな)


 一瞬、知的好奇心が頭をもたげたが、すぐに俺は首を振った。


(……いや、今日はやめとくかぁ。この間の事もあるし、下手に手を出すとまた計算外の威力がぶっ飛んじまうからな)


 だが、中身を確認するだけなら問題ないはずだ。

 そう思ってパラパラと捲ってみたのだが……。


「…………?」


 そこに記されていたのは、詠唱文でもなければ、魔術回路の図解でもなかった。


 行間を埋め尽くすのは、数字と記号の羅列。


(イヤイヤ、英語か……? いや、それとも……なんだこれ。フォントっていうか、並びが……前世でやり込んだゲームのデバッグ画面みたいだぞ……?)


 一瞬、背筋に冷たいものが走ったが、この時の俺はそこまで気にすることはなかった。


 そうして今日も終わり、おばあちゃんがお迎えにやってきた。


 帰り際、俺の目はある一点に釘付けになった。


(……プッ! なんだよ、あの看板)


 施設の入り口にあるプレートには【 物語管理運営本部 】、休憩室のドアには【 聖・安息領域:セーブルーム 】とあった。


(セーブルームって、お前。どこのサバイバルホラーゲームだよ!)


 単にこの世界のネーミングセンスが、俺のいた世界のゲームに似てるだけだろう。


(なんだ。ただの中二病全開な組織か。これなら俺の『隠居プラン』も、案外チョロいかもしれないな)


 家に帰り着くと、おばあちゃんは俺を二階へ運び、ふわふわのベッドの上に置いた。


「今からご飯の支度をしてくるねぇ」


 彼女はそう言って、一階へ降りていった。階段の下からは、鼻歌混じりに調理を開始する音が聞こえてくる。


(……今だ。最後に一回だけだ。職場のあのノリなら、この石盤だってどうせ『入室には司書長の許可が必要です』とか、そんなマヌケなことが書いてあるに決まってる。それを確認して、笑い飛ばして寝てやる)


 階下からの平和な鼻歌を背に、俺はベッドから這い出し、じりじりと石盤へにじり寄った。


 あと数センチ。


【 運営 】


(…………は?)


 思考が、白濁した。


(おいおい……イヤイヤ俺は何を見てしまったんだーー!?)


 夕食は、いつも通りのスープとパンみたいな物。


 俺はヨダレを垂らしながら、天井のシミを数えていた。


 リミバァは「明日は何を作ろうかな」と、のんびり話している。


 その穏やかな日常に、俺は「これこそが求めていた隠居生活だ」と確信していた――はずだった。


 だが、俺の脳裏には、先ほどの“勘違い”が走っていた。


「運営」って……ゲームの運営だろ?


 運営が必要……ってことは……つまり……この世界は、**“誰かが管理するゲーム”**ってことか……?


 でも、俺は勇者になりたくない。俺はただ、静かに隠居したいだけだ。そんなの……無理だろう。


 その瞬間、ゆっくりと、背後から近づいてくる影。

 窓の外、グリモワールドの空は、どこまでも不気味に赤く染まっていた。


「――おや、桃太郎。やっぱり、それが気になるんだねぇ」


 慈愛に満ちた、優しすぎる声。


 リミバァは俺の隣に膝をつくと、愛おしそうに石盤の【 運営 】という文字を撫でた。


「安心しておくれ。あんたが大きくなったら、全部教えてあげるからね。この世界の『運営』が、どれほど“必要なもの”かを」


(ヒィッ……!? 公言した! このばあちゃん、今、自分が世界の黒幕だってサラッと言ったぞ……!!)


 リミバァに抱き上げられ、温かな胸の中で俺は絶望に身を震わせた。


 その夜、俺は生まれて初めて「合格通知」を破り捨てられる悪夢を見た。

第五話、いかがでしたでしょうか。


 ついに……ついに出てしまいました。


禁断の言葉、【 運営 】。


 「中二病なネーミングセンスかな?」と必死に自分を誤魔化そうとしたモモでしたが、リミバァのあのトドメの一言で、もう逃げ場はなくなってしまいました。


 平和な食卓で天井のシミを数え、ヨダレを垂らしながらも心の中では絶望の嵐が吹き荒れている……。そんなモモの姿が、今まで以上に切なく、そして愛おしく見えてきますね。


 「合格通知」を破り捨てられるという、浪人生にとって最悪の悪夢を見た彼は、ここからどう「浪人生の底力」を見せてくれるのか。


 この先の展開が気になる!モモの隠居生活を応援したい!と思ってくださった方は、ぜひ【高評価】と【ブックマーク】をお願いいたします!


 皆様の応援が、モモの計算力(と私の執筆意欲)の源になります。

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