第四話(後編):魔法の嘘があざとなり、愛の強化合格フラグが立つ件!
「魔法の才能なんて、欠片もありません」
そう証明するために、持てる全ての「計算力」を注ぎ込んだ結果、なぜか「勇者育成ルート」の特急券を握らされていました。
これだから、人生という名の試験場には魔物が棲んでいる。
合格を回避するために磨き上げた、彼なりの「偽装工作」。
それは果たして、リミバァの「慈愛(狂気)」という名の厚い壁を突破できるのか。
努力の方向を盛大に間違えた男が贈る、人生最大の「計算ミス」の結末をぜひ見届けてください。
「……ッ、まずい!」
黄金の魔法陣が、まだ空気を歪めている。
託児所の結界は、完全に壊れたわけではないが、確実に“異常”を記録している。
俺の小さな右手に握られた魔導書レプリカは、魔力の負荷に耐えきれず
「メキメキ」と嫌な音を立てている。
(……これ、普通に見たら“才能”だよな)
「ドタパン?!」
廊下の向こう、管理室からリミバァの声が響く。
同時に、足音が迫ってくる。
距離にして十数メートル。
時間にして、あと五秒。
このままでは『不合格』だ。
人生二度目の、そして今世最大の致命的な合格。
「魔法の才能がある」とバレた瞬間、俺の“隠居プラン”は終わる。
期待という名の鬼ヶ島行きの特急券を握らされる。
(落ち着け、俺。
共通テストで残り三分、マークシートを塗り直したあの絶望に比べれば、五秒なんて永遠も同然だ……!)
俺は思考を加速させる。
二浪時代、予備校をサボってゲーセンにいたことが親にバレそうになった時、
俺は「いかに合理的な理由で不在を証明するか」という後ろ向きな論理構築力を磨き上げた。
その負の才能が、今、異世界で花開こうとしている。
まずやるべきは、現場の「証拠隠滅」だ。
俺は指先から溢れ出る魔力の奔流を、
無理やり右手の魔導書レプリカへと「パス(バイパス)」した。
ただ流し込むんじゃない。
魔力の波形に意図的な“ノイズ”を混ぜる。
第7術式の残響を逆位相でぶつけ、魔力密度を飽和させる。
あたかも「機械が自重に耐えきれず壊れた」かのような、
人為的な不自然さを排除した“事故の波形”をシミュレートする。
「よし……『経年劣化による魔力暴走と内部回路のショート』。この偽装工作でいく!」
バタン!
扉が開いた。
「桃太郎! 今のは一体――」
リミバァが飛び込んでくる。
その瞳は、孫を愛でる柔和なものではない。
数多の魔導書を管理し、物語の均衡を守ってきた
“プロの管理者”としての鋭利な光を宿している。
俺は反射的に、脳内のスイッチを
『冷徹な工作員』から『無垢な赤ん坊』へと切り替えた。
「う、うあぁぁぁぁぁん!!」
叫ぶ。
ただ声を上げるだけではない。
周波数は、大人が最も本能的に「守らなければ」と感じる
四千ヘルツ付近に設定。
呼吸を乱し、恐怖に震える小動物のような微振動を全身に加える。
涙の分泌量も、おばあちゃんの罪悪感を最大化するために
瞳の縁ギリギリで溜めてから一気に零す。
二浪時代、親の小言を回避するために編み出した「死んだふり作戦」の応用だ。
リミバァが俺を抱き上げる。
その手が、俺の右手に握られた魔導書レプリカに触れた。
瞬間、リミバァの指先から淡い青色の光が漏れる。
管理職専用の探知魔法。
現場の残留魔力をスキャンし、事の真相を暴くための“鑑識”だ。
(……来い。頼むから俺の仕掛けた『嘘の解答』を読み取ってくれ……!)
リミバァの視線が、焼き切れた魔導書のページを執拗になぞる。
俺は泣きじゃくるフリをしながら、横目でその光を見守った。
心臓がうるさい。
二浪目の一月、ポストの中に予備校からの督促状がないか確認する時よりも心拍数が高い。
「……あぁ、なんてことだい」
リミバァの声が漏れた。
「術式が、内側からボロボロに焼き切れている……。
相当古かったのかい。魔法の素養も何もないこの子に、
こんな壊れかけのレプリカを持たせていたなんて……。
私の不徳の致すところだよ、ごめんねぇ、桃太郎」
リミバァの肩の力が抜けるのが分かった。
彼女の探知魔法は、俺が偽装した「経年劣化によるショート」を真実として受理したのだ。
――勝った! 完全勝利だ!
脳内で、ド派手な合格祝賀会が開催される。
プロの鑑定を、二浪生の屁理屈が上回った瞬間。
リミバァは俺を『魔法の使えない、か弱き被害者』として定義した。
これでいい。
これで俺の「天才児」としてのフラグは折れた。
明日からはまた、ヨダレを垂らしながら天井のシミを数える安らかなニート生活に戻れる。
「魔法が使えないお前が、この過酷な物語の世界で一人、生きていけるはずがない。
私が死んだ後、誰がお前を守ってくれるというんだい……」
だが。
俺を抱きしめるリミバァの腕に、グッと力がこもった。
その呟きは、これまでのどんな魔法よりも重く、逃げ場のない“強制力”を持って響いた。
「……決めたよ。明日は職場を休んで、お買い物に行こうね」
リミバァは、部屋の隅にある方位計を手に取り、窓の外を見つめた。
そこには夕暮れに染まる街「グリモワールド」が広がっている。
「一番いい『きびの実』を探しに行こう。
せめてお前の体に、人並みの魔力耐性だけでも植え付けてあげないと。
……大丈夫だよ、おばあちゃんが、お前を一人前の人間(勇者)にしてみせるからね」
……は?
ちょっと待て。何かがおかしい。
「魔法が使えない」という俺の完璧な偽装が、
リミバァの「だからこそ、無理やり強くしなきゃ」という狂気にも近い決意に火をつけてしまったのか?
リミバァは俺に、とびきりの、本当に慈愛に満ちた笑顔を向けた。
その瞳には、「この子を救わなければ」という、純粋で最も抗い難い“期待”が宿っている。
俺の「隠蔽成功」という完全勝利は、その瞬間、
さらなる地獄(合格フラグ)への特急券へと姿を変えた。
(待て待て待て!
騙せば騙すほど、リミバァの愛が物理的な強化アイテムに変換されて襲ってくる!?
俺が頑張って偽装工作をしたせいで、逆に鬼ヶ島へのルートが舗装されてないか!?
俺は何をやってるんだーー!!)
「あ……あぅ……
(俺は何をやってるんだーー!!)」
俺の絶叫は、赤ん坊の力ない泣き声にかき消された。
グリモワールドの空は、これから始まる俺の「無理やりな自立」を祝福するように、どこまでも不気味に赤く染まっていた。
翌日に待ち受けているのが、安らぎの観光などではなく、おばあちゃん
「愛」
という名の逃げ場のない
「フラグ回収ツアー」
であることを、俺はまだ知る由もなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「計算ミス」を何より嫌うモモが、人生最大の計算ミスを犯した瞬間でした。
扉の向こうにいたのは、まさに死神。
果たして、赤ん坊の全力の「アブブブブッ!」は通用したのか……。
もしこの必死な隠蔽工作を応援してくださるなら、
ぜひ、こちらの「合格フラグ(ブックマーク)」をポチッとお願いします!




