第四話(中編②):死神のサンダルは絶対に許さない! 合格フラグの足音の件」
浪人生、初めて魔法を使う。
ただし、相手が悪かった。
そして、タイミングはもっと悪かった。
喜びも束の間、迫りくるリミバァの足音。
絶体絶命の「満点合格」隠蔽工作、スタートです!
「パタパタ……」
最初は遠くで、薄い水面に落ちる小石みたいに聞こえた。
それが、次第に、確実に、俺の心臓のリズムと同期する。
「パタパタ……パタパタ……」
石畳を踏む音が、俺の周囲の空気を切り裂いて近づいてくる。
(……いや、ちょっと待て。これは……)
俺は反射的に目を閉じた。視覚を遮断し、全神経を聴覚に全振りする。
その音は、間違いない。リミバァのサンダルの音だ。
あの、朝に聞いた、穏やかで優しいリズム。慈愛に満ちた保育者の足音。
それが今は、俺の鼓膜を直接殴りつける「死神のカウントダウン」にしか聞こえない。
「パタパタ……パタパタ……」
距離が縮むごとに、音の質が変わる。
廊下の反響が消え、足裏が地面を捉える重みが増していく。床のわずかな歪み、木材が軋む生々しい振動。
一歩ごとに、俺の自由が奪われていく。
(くそ……! なんで、こんなにゆっくり近づくんだ! この音のせいで、一秒が永遠みたいに伸びていく!)
俺は呼吸を止める。肺の中の空気が熱い。
けれど、生存本能とは裏腹に、俺の「努力オタク」に焼かれた脳は止まらない。
全身の神経が、サンダルの規則正しい拍動に合わせて、不随意にピクピクと震える。
「パタパタ……パタパタ……」
――廊下の向こう。扉の向こう。
その板一枚隔てた先に、俺が今この世界で一番会いたくない存在がいる。
(まだ三秒……いや、歩幅と速度の減衰率から逆算すれば、あと二・八秒……! このコンマ数秒の間に、この『満点合格』の証拠をどうにかしなきゃ……!)
サンダルの音は、もうすぐそこまで来ている。
もう逃げられない。もう隠せない。
もう、俺の「不合格計画」は、終わる。
「パタ……パタ……」
音が止む。
その瞬間、世界が静止したように感じた。
俺の心臓だけが、バクバクと暴れ続ける。耳鳴りがひどい。
そして、廊下の向こうで、誰かが扉に手をかけた。
その手の感触が、木の温度を伝えてくる。
“ガチャ”
扉が開く音が鳴った。
その瞬間――世界は、再び動き始めた。
(終わった……)
俺の人生の「不合格」への戦いは、この一瞬で、次の章へ進む。
廊下の向こうで、サンダルの音が――
「パタ、パタ、パタ……」
最初は遠かった。でも、確実に近づいてくる。
足音の間隔が短くなっていく。そのたびに、俺の胸の中の“合格”が、重く、黒く膨らんでいく。
前世の不合格通知が、今の「満点合格」に重なって、吐き気がする。
リミバァの足音だ。この音が、俺にとってどれほど恐ろしいか。
――今の俺に、言葉で説明する余裕はない。
扉の前に立つ彼女の影が、俺の視界の端に落ちた。
そして、彼女の手が――
「ガチャ」
扉のノブに触れた。
――その瞬間、リミバァは一瞬目を細め、桃太郎をじっと見つめた。
その視線は鋭く、桃太郎の動きを見逃さないように注がれる。彼女の冷徹な目が、彼に圧力をかける。
時間がスローモーションになる。
いや、違う。
時間が“止まった”んじゃない。
俺の脳が、現実を拒否しているだけだ。
「イヤイヤイヤ!
俺は何やってるーー!!!」
赤ん坊の声で、叫んだ。
俺の“逃げたい気持ち”が、全身の筋肉を使って叫び出した。
(なんで俺はパズルなんて解いちゃったんだ!
なんで快感に負けたんだ!)
このままでは終わる。
俺の「不合格」への道は、
この扉の向こう側で、確実に“合格”へと変わっていく。
――詰んだ。
俺の手は、勝手に震えた。
もう逃げられない。逃げられないどころか、俺は自分で、“逃げ場のない未来”に、ハンコを押した。
扉が開く音がした。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「計算ミス」を何より嫌うモモが、人生最大の計算ミスを犯した瞬間でした。
扉の向こうにいたのは、まさに死神。
果たして、赤ん坊の全力の「アブブブブッ!」は通用したのか……。
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