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第三十一話(後編):目隠しでゴーレムを倒して、仲間の大事さに気付いた件

奈落の底に落ちる――

落下の衝撃、歪んだ重力、そして視界を奪われた闇。


だが、絶望の中でも、桃太郎たちは動き続ける。

数理魔法の指先、白雪の剣、セレナの機転。


「……カリンがいたら、ここも簡単なのに……」

脳裏に浮かぶ少女の姿が、三人の心を一つにする。


光も音も頼りない。

でも、この闇を越えれば、希望が待っている――。


闇の中で、ゴーレムの巨体が再び唸りをあげる。


「――っ!」


巨大な腕が振り下ろされる。冷たい風圧が三人の体を揺さぶる。


セレナは避けきれず、肩を掠められて床を転がった。石の床に背中が打ちつけられる衝撃が、痛みとともに震動となって全身に伝わる。


「セレナ!」桃太郎が叫ぶ。声が迷宮の闇に吸い込まれる。


しかしその瞬間――セレナは床に倒れたまま、小さく笑った。


「……ねえ桃太郎」


闇の中で、彼女の指先が何かを弄る。微かに光を反射する金属片。


カチャ、と乾いた音。桃太郎の脳裏が瞬時に反応する。


(音……!反響距離、重心、関節構造――)


数式が空中で炸裂する。0.5秒後の動きを瞬時に計算する桃太郎の思考が爆発的に回転する。


「白雪!!」


「右前方、三歩!!関節だ!!」


視界はない。しかし音がある。風圧が教える距離がある。仲間を信じる心がある。



「今だーー!!」



世界がスローモーションになる。ゴーレムの右腕が唸りをあげ、風圧が白雪の髪を揺らす。その拳が――白雪の頬を掠めた。


だが。白雪は上体を逸らす。紙一重。拳は空を切る。


そのまま白雪は踏み込む。ゴーレムの懐へ、一歩、二歩、三歩。耳が捉える。セレナが投げた――鈍い金属音。


白雪の剣が突き出される。狙いはただ一点。関節。



ギシ!!



剣先は寸分違わず、ゴーレムの関節を捉えた。重い金属音が空間に響く。ゴーレムの腕が止まる。


その瞬間、桃太郎の魔法陣が空中に展開される。青白い幾何学陣が光を帯び、関節部の力学構造を強制的に崩す。


「慣性崩壊式!!」


ゴーレムの巨体がぐらりと揺れ、重力と金属の匂いが混ざった空気が舞う。


「今なのだ!!」


白雪が剣をねじ込み、セレナが背後から関節に飛びつく。


「これで終わりよ!!」


バキン!!


轟音。迷宮の壁に振動が走る。次の瞬間、ゴーレムの巨体は崩れ落ちた。


迷宮に、静寂が戻る。


荒い呼吸の中、三人はその場に立っていた。ゆっくりと、あの男の拍手が響く。


パチ……パチ……パチ。


「いやぁ、驚いた」帽子の男は楽しそうに笑う。

「三百年前は二人だった」「梟人の夫婦だ」


桃太郎と白雪が息を呑む。


男は続ける。

「いい連携だ。特に――」視線はセレナに向く。「戦闘中にゴーレムの関節部品を盗むとはね」


セレナは肩をすくめる。

「スラム育ちなの。癖よ」


男は笑いながら、小瓶を取り出した。青い雫がゆらめく。


「約束通りだ。秘法薬――アザスートの雫」


桃太郎の手の中に小瓶が置かれた。震える手で見つめる。


(カリン……)希望が確かにそこにあった。


「そして、今日は……いや、四人だな」桃太郎の胸がわずかに揺れる。カリンのことを思い出す。



奈落の闇をくぐり抜け、ゴーレムの重い足音が遠ざかると、静寂だけが残った。


「……やっと……」白雪の息が荒く、体を支えながら剣を握る。

「桃太郎、問題ない?」セレナの声も震えながら落ち着いている。


桃太郎は深く息をつき、杖を軽く握り直す。脳裏には苦しそうなカリンの顔が浮かぶ。心の中でカリンが共に戦っている感覚が、仲間の鼓動と重なった。


「……よし、奥に行くぞ」桃太郎の声に、二人が頷く。


先ほどの戦いで得た音と感覚の記憶を頼りに、三人は一歩一歩、石盤が並ぶ廊下を進む。セレナはゴーレムから盗んだ金属片を手に握り、床に軽く投げる。微かな音が廊下に反響する。


「……この音、使える!」桃太郎は目隠し戦で培った感覚を思い出す。0.5秒先の動きまで計算するアルカナ数理魔法を指先で組み上げ、空間全体に微かな反応を生み出す。


白雪も耳を研ぎ澄まし、音の反響で床の位置や壁の距離を把握する。


「桃太郎、こっち!」セレナが声をかけ、壁際の狭い通路を先導する。小柄な体を活かし、障害物をかわしていく。


やがて、廊下の先に重厚な石扉が立ちはだかる。三百年前に刻まれた不思議な紋様が浮かぶ。七つの石盤の一つが埋め込まれていることに三人は気づく。


「……これが迷宮の鍵……」白雪が小さく呟く。

「三百年前におじいちゃんとおばあちゃんが作った…勝った場所、そして部分的に負けた場所……」桃太郎の頭に過去の戦いの断片が重なる。


セレナは慎重に指先を石盤に置く。奥の部屋の扉がゆっくり開き、時間の迷宮の中心部が姿を現す。空気の色が変わり、床には過去の戦いを映すかのような光の層が幾重にも浮かぶ。


「ここが……奥の部屋か」桃太郎は息を呑む。秘法薬の原料や三百年前の装置の一部が揃っている。時間の迷宮は、過去と現在、裏と表をつなぐ空間として存在していた。


「……さあ、行こう」白雪が剣を握り直す。

「うん、行くぞ!」桃太郎は杖を高く掲げ、心の中でカリンに声をかけた。「カリン、頼む……僕たち、やれるよな?」


三人の足が奥の部屋へ踏み込むと、時間の迷宮はゆっくりと呼吸するように光を反射し、試練の最後の舞台が目の前に広がった。


轟音と振動が去った後、迷宮に静寂が戻る。


秘法薬が手元に置かれ、桃太郎は深呼吸する。

仲間とともに戦った証、そしてカリンへの想い。


(カリン……僕たち、やれたよ)


三人の鼓動が、奈落の闇を越えて共鳴する。

次に待つのは、時間の迷宮の奥――試練の最終局面。


だが、今はただ、勝利の余韻と絆の暖かさを胸に刻む。

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