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第十六話:試験官が悪趣味すぎて、合格した瞬間に迷宮送りにされた件

前回、リミバァからの合格通知(?)を掴み取った桃太郎たち。


しかし、その瞬間に待っていたのは、文字通りの「奈落」でした。


合格したはずなのに、なぜこんなことに……?

絶望的な状況下で、桃太郎の「努力家オタク」としての本領が、少しだけ顔を覗かせます。

リミバァは試験の合格特典として「古代魔法原典・第一巻」を賭け、桃太郎とカリンに試験を課した。


桃太郎が正解を出した瞬間、世界は時間停止し、床だけが消えた。


子供たちは奈落へ落ちていく――。


――バキィィィィィッ!!!


逃げ場のない崩落。


(やばい!)


(俺が!)


「――アルカナ数理:零式ゼロしき・インパクト!!」


ドォォォォォォン!!


砂埃が視界を埋める。


桃太郎は四つん這いになり、砂を吐き出した。


耳鳴りの奥から、子供たちの叫びが聞こえる。


「うわあああああああん!!」


「ママー! いたい、いたいよぉ!!」


暗闇の中、手探りで地面を触る。


泥と瓦礫、そして温かい体温。


「……三人、か。クソッ、他のみんなは……!?」


周囲を囲む巨大な岩壁。


落ちたはずの穴は見えない。


光もない。


声もない。


「カリン!? カリン、どこだ!! 返事をしてくれ!」


闇の奥から、かすかな声が返ってきた。


「……っ……ももっち……」


這いずるように近づくと、岩壁の影にカリンがいた。


足首を抱え込み、顔を歪めている。


「……ももっち、ごめん……足、やっちゃったみたい……」


「動くな! 俺が今……」


抱き寄せようとするが、手が震える。


自分の恐怖が、手先にまで漏れている。


(……怖い……っ)


上を見上げても、穴はない。


光もない。


リミバァもいない。


ここは、子供だけの密室だ。


パニックの泣き声と、カリンの呼吸だけが暗闇に響く。


「ももっち……」


カリンの声が、震えていない。


それが、余計に怖い。


「……ももっち、静かにして! 何か、聞こえる……」


音が、全員に聞こえていた。


それは、風でも水でもない。


何かが広い空間を伝って反響してくる音だった。


「……なに、これ」


梟人の子が、喉を鳴らす。


桃太郎は、ゆっくり息を吸った。


数を数える。


(五人。俺、カリン、梟人の子が三人)


全員、生きている。


それだけで、まず合格だ。


「みんな、動くな」


年下の自分が言うのも変だと思ったが、声は思ったより落ち着いていた。


「足元、崩れやすい。壁に背中つけて、しゃがめ」


言いながら、自分が一番慎重に動く。


魔力を流さない。


詠唱もしない。


(……魔法、通らない可能性がある)


いや、正確には――いつもの魔法が通らない。


試しに、小さく指を鳴らす。


火は、出ない。


(やっぱり)


その瞬間。


足元の石が、パキッと音を立てた。


「っ!」


反射的に、梟人の子を掴む。


石片が、奈落に落ちていく。


音が、消えるまで、長い。


(……底、見えない)


「も、ももっち……」


カリンの声。


近い。


だが、立ち上がっていない。


「カリン、動くな」


「うん。……足、まだダメ」


無理に明るく言う声が、逆に怖い。


桃太郎は、しゃがんだまま、周囲を見回す。


壁。

床。

天井。


どれも、自然じゃない。


(これ……迷宮だ)


(迷宮かぁ……!)


(グフフ、大好物だあ!

 ――って、イヤイヤ何を考えてるんだ俺! そんな場合じゃないだろ!

 考えろ! そうだ、考えろ俺……!)


「……ルール、あるな」


思わず、口に出た。


隣でカリンが、ハッと顔を上げた。不安に揺れていた瞳が、解答を求める桃太郎の横顔を捉え、すがりつくような期待を帯びる。


「え?」


「こういう場所は、大抵――」


そこで、言葉を切る。


また、音。


さっきより近い。


全員の足元から、同時に。


「――っ、全員、座れ!!」


言い終わる前に、床が、ずるりと動いた。


「うわっ!?」


桃太郎は、即座に壁に手をつく。


だが――自分の足元だけが、一段、深く沈んだ。


(……え?)


「ももっち!?」


次の瞬間。


床が、分かれた。


桃太郎のいる部分だけが、静かに、確実に――


下へ。


「っ、待――」


手を伸ばす。


だが、届かない。


「カリン! みんな動くな!!」


叫んだ声が、上へ、吸い込まれていく。


落ちる。

音もなく。

風もなく。


ただ、重力だけがあった。


(……あー)


頭のどこかで、冷静な声がした。


(これ、リミバァに怒られるやつだ)


闇が、深くなる。

上で、誰かが叫んだ。

だが、もう――桃太郎には、聞こえなかった。


「……ももっち……!」


カリンの叫びは、まだ迷宮の空気に届いていない。


彼女は痛みを押し殺しながら、何度も壁を叩いた。


「ねぇ! ももっち! 返事してよ! 返事してぉ!!」


声が届かない。


でも、カリンは叫び続ける。


そのとき――


彼女の掌が、再び光った。


「……!」


しかし、光はすぐに消えた。


床が戻るでもない。


壁が割れるでもない。


空間が揺れるでもない。


ただ、彼女の手の周りだけが ほんの少し温かくなった。


(……私、今……何かした……?)


カリンは息を切らしながら、再び掌を見つめる。


その瞬間、頭の中に一つの言葉が浮かんだ。


“戻れない”


――それは、感覚ではない。


ただ、直感として分かった。


「私は……時間を戻す力なんて、ない」


カリンは、喉の奥で声が詰まった。


「でも……」


彼女は、再び手を伸ばす。


――また、光が一瞬だけ揺れる。


今度は、少しだけ空間が“歪んだ”。しかし、それは 不完全な歪みだった。


「……ううっ」


カリンは、悔しさで膝をつく。


「……何もできない……私は、ただ……」


泣き声が、止まらない。


その瞬間、カリンの体が震えた。


(……これが、私の限界……)


彼女の目に、絶望が宿る。


その時、空間が再び歪んだ。


今度は、さっきよりも強く。


――しかし、それでも、足りない。


「……ダメだ……」


カリンは、泣きながら笑った。


「……私、まだ、弱い」


その言葉は、覚醒の始まりでもある。


(ここから先は、私が強くなるしかない)


少女が流した涙は、絶望の終わりではない。


それは、運命に抗うための「力」が産声を上げた瞬間だった。

お読みいただき、ありがとうございます!

今回は、ついに桃太郎とカリンが分断されてしまうという、最大のピンチを描きました。


落下しながら「大好物だあ!」なんて思ってしまう桃太郎、やはりどこかネジが飛んでいますね。前世での「正解をこじ開ける快感」が、命の危険よりも勝ってしまう……そんな彼のごうを書くのがとても楽しかったです。


一方、残されたカリン。

これまでは桃太郎の背中を追いかけてきた彼女ですが、大切な存在を失った(かもしれない)恐怖が、彼女の中の「何か」を呼び覚まそうとしています。「時間を戻せない」という絶望を知った彼女が、ここからどう立ち上がっていくのか。


物語はここから、本格的な「迷宮攻略編」へと突入します!


二人は無事に合流できるのか、そしてリミバァの真の意図とは……?


もし少しでも「続きが気になる!」「ももっち頑張れ!」と思っていただけましたら、ぜひ【高評価】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


次回も、ぜひ楽しみにしていてください!

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