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第十五話:社会見学で世界が止まった件

「初めまして、司書長のリミバァよ。


 普段は静かに本を守っているだけの私だけど、

 今日は少しだけ――あなたに語りかける。


 この話は、私があの子たちに“本物の世界”を見せた日のこと。

 そして、私が予期しなかった“何か”が動いた日のこと。


 あなたがこれから読むのは、日常の延長ではない。

 図書館の奥深く、世界の理が揺れる場所。


 ――覚悟はいいかしら?」


あの時、私は目の前に置かれた重厚な魔導書――

『古代魔法原典・第一巻』を、愛おしそうに、そして品定めるように見つめていた。

表紙に刻まれた古い紋章が、世界の理を秘めて鈍く光っている。


(このままでは……)

小さく、胸の内で息を吐く。


(ああ、カリンと桃太郎に。

この叡智は――

書かれる前に、触れるべきものだ……)


だが、すぐに現実が追い付く。

(……さすがに、外へ持ち出すわけにはいかないわね)


私は一瞬沈黙し、そして――

(……あら?)

「……そうだわ」


思わず、口元が緩む。

(『社会見学』よ)

どの子にも、本物の叡智に触れる機会を。

ただ“読む”だけなら、問題はない。


(あらやだ私……なんて冴えてるのかしら)


しかし、役員たちは反対した。

「司書長、正気ですか!? 五歳児に原本を触れさせるなど、あまりに危険だ!」

「未熟な魔力は暴走を招く。この図書館の叡智が灰になってもいいのですか!」


(……やだわ、あの子たちが暴走なんてするはずないじゃない。あんなに賢くて、素直な瞳をしているのに。そんなことを言っても、この子たちには通じないわよねぇ)


私は少し考え、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「五歳から七歳といえば、世界の広さを知る大事な時期じゃないか。どの子にも、本物の叡智に触れる機会をあげたいんだよ。あの子たちは皆、賢いからね」


だが、役員はさらに強く反発する。

「……総勢二十五名ですよ! 一人でも暴走すれば、この区画が丸ごと消え去るリスクを本当にお分かりですか!」


(まあまあ、頭が硬いわねぇ、君は。……ふふ、でも、その慎重さが君の良いところでもあるのだけれど)

(……それにしても困ったわね。どうしても、あの子には――“これ”を見せておきたいのだけれど)


そこで、役員が口にした。

「ならば、試験を」


私は少し驚いた。

(試験?)

「本日より八回目の夜明けに試験を行います。我々が提示する条件を、寸分違わずクリアして見せてください。揺らぎも、過剰出力も、一切認めません」


(ふふ、やはり堅物ね。断固拒否、というわけね。……でもね、世界を知らずに大人になる方がよっぽど残酷だわ。もし何かが起きても、私が責任を取ればいいだけのこと)



試験当日――私は影から見守った


桃太郎は、私の予想以上に優秀だった。

“正解”を出すための計算が、彼の体内で静かに動いている。


カリンは必死だ。

だが努力は形にならず、失敗が続く。


私は影から見守る。

(この子ができるようになる必要はない。むしろ、できない方がいい)

私の目的は、彼らを合格させることではない。

この図書館の“聖域”に、彼らの存在を刻むことだ。


そして、試験はいつも通りの厳格さで進む。


最後の火を消したのは桃太郎だった。

――閃光。


その瞬間、世界が止まった。


静寂が訪れ、試験官の声も、子供たちの叫びも、空気も――すべてが凍りつく。

止まった世界の中で、私はただ一人、動ける。


(……これが、古代魔法原典の本当の力。

“時間の切断”)


私は理解した。

この本は、単なる知識の集積ではない。

世界そのものを“編集”できる。


そして今、時間が止まっている。

だが――落下だけは止まらない。


床が消え、奈落へ落ちていく子供たち。

それを私は冷静に見つめる。



落下は、恐怖の形をしている


だが私は恐怖を感じない。

私が感じるのは、“世界の変化”だけだ。


(この瞬間、彼らの世界が変わった。

私の手で、世界の歯車を一つ動かした)


子供たちは落ちる。

落下は、止まらない。


私は、世界の底へと続く道を見据える。

(ここから先、何が待つかは知らない。

だが、待っているのは確実に“変化”)


それが、私の望んだものだ。



そして、私は知る


この停止は、私の計画通りではない。

しかし、私の計画は、“完璧に計算された事故”ではない。


私は、あえて「起こるべき未来」を作った。

彼らが落ちるのは、彼らのためでもある。


世界を知らないまま成長するよりも、

世界の恐ろしさを体験する方が、彼らは強くなる。


(私は、彼らを守りたい。

同時に、彼らを試したい)


それが、私の“教育”だ。



だが、停止の終わりが近い


私は、静かに動く。

停止を解除する術を用意する。

だが――その時、私は気づく。


この停止は、私の手だけでは戻せないことを。


(……この本は、私の制御を超えている)


私は瞬間的に悟る。

この“時間停止”は、この本が自ら判断して起こした現象だ。


つまり――この本は、私の“意図”を超えた。



最後の瞬間、私は決める


私は静かに呟く。


「……いいわ。

 ならば、あなたの意思に任せる」


私は落ちる子供たちを見下ろす。

時間は、まだ止まったまま。


私は、動かない世界の中で唯一動ける存在として、静かに立ち尽くす。


そしてこの瞬間を記録する。

(この瞬間が、私の“最後の仕事”になるかもしれない)


私は視線を前に固定する。

――この先に待つものを、私は知っている。


それは、図書館の外にある別の世界。

そして、そこにいるのは、私の知らない存在。


だが私は知っている。

その存在が、この本を動かした。


(……あなたが、動かしたのね。

 この世界を動かしたのは)


私は静かに笑う。

(ふふ。

 面白い。

 この本は、私のものではない。

 でも、私はそれを利用する)


時間は、まだ止まったまま。

私は、動かない世界の中でただ一人、未来を見据える。


「――これでいいのよ。

 あなたが動かすなら、私は見届けるだけ」


そして、私は時間が戻るその瞬間を待つ。


読んでくれてありがとうございます。

ここから先、物語は一気に加速します。


今までの“日常の延長”ではない。

世界の深部に触れる、迷宮の入口です。


今回の回想は、読者の皆さんが

この先の展開を理解しやすいように入れました。

(必要な補助線だと、私は信じています)


この先の展開は、

きっとあなたの想像を越えるはずです。


もし「面白い」と感じたなら、

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