第十四話:隠居志望の浪人生、合格特典に釣られて奈落に落ちた件
皆様、お待たせしました!
待望の「社会見学」、中央図書館『ルーンメモリア』編です。
憧れの『古代魔法原典』を前に、努力オタクの血が騒ぎまくりの桃太郎。
これで彼の「平穏な隠居生活」は盤石になる……はずでした。
しかし、彼が手にしたのは、想像を絶する「合格特典」!
絶望の奈落へと突き落とされる桃太郎と、隣で微動だにしないカリンの姿。
彼らの運命は、そしてこの“社会見学”の真の目的とは一体……?
理不尽な絶望の幕開けを、どうぞお楽しみください!
桃太郎! 早く起きなさい。今日は待ちに待った『社会見学』の日だよ!」
朝一番、リミバァの突き抜けるような明るい声で目が覚めた。
(よし、コンディションは最高だ。今日という山場を越えれば、俺の「平穏な隠居生活」への道は盤石になる……!)
食卓に向かうと、お祝いの豪華な朝食が並んでいた。
「おばあちゃん、美味しいよ」
俺はおばあちゃんの温もりに浸りながら、今日から始まる平和な日々に期待を寄せていた。
鞄の中には、何よりも大事な「写経用」の筆記用具を詰め込んだ。準備は万端だ。
家を出ると、おばあちゃんと手を繋いで歩き出す。
「桃太郎がこうして、一人で図書館に通うようになるなんてねぇ」
(……ああ、この平穏。このために、俺は五年間必死に勉強してきたんだ。これこそが俺の求めた隠居ライフだ!)
やがて見えてきたのは、知の集積地、中央図書館『ルーンメモリア』。
(……来た。見ろよ、あの圧倒的な書架。あそこは俺を裏切らない。正解だけが詰まった俺の聖域だ!)
入り口のそばには、カリンが待っていた。俺を見つけるなり、パッと顔を輝かせて大きく手を振る。
「ももっちー! おはよ!」
「リミおばあちゃん! おはようございます! 今日、私たちが図書館の見学に行けるのは、全部おばあちゃんのおかげです。本当に、本当にありがとうございます!」
ぺこりと深々と頭を下げるカリン。その言葉には一片の嘘もなく、心からの純粋な感謝が溢れている。
(……圧倒的だな。おばあちゃんの心を一瞬で持っていっちまった。こいつの言葉は、いつだって『正解』の熱量で心に刺さる。本音だからこそ、誰も抗えないんだ……)
カリンの服は、いつも通りあちこち継ぎ接ぎだらけだ。手には、ボロボロの筆記用具を大事そうに抱えている。
(……そうだった、あいつの家は極貧。筆記用具を揃えるのが精一杯だったはずだ。なのに、あんなに嬉しそうに……。よし、今日は俺がしっかりフォローしてやるからな!)
おばあちゃんは微笑みながら俺の背中を押し、帰っていった。
俺はカリンと並び、静寂とインクの香りが満ちる「聖域」へと足を踏み入れた。
一歩中に入れば、そこは別世界だった。
「すげーーぜ……」
グリモワールドいちの大図書館。見上げるほど高い天井、天まで届く書架。魔法書、古文書、そのすべてが秩序正しく管理されている。
(……最高だ。この光景、この知識の密度。五年間、このために努力してきた甲斐があったぜ)
一行は司書に続き、迷宮のような回廊を探索する。
そして、ついに「合格者の特権」である特別閲覧室へと辿り着く。
そこで俺の前に置かれたのは、憧れ続けた『古代魔法原典・第一巻』。
(……ついに、拝めるのか。この一冊を読み解くために、俺は幼児期のすべてを計算と努力にベットしたんだ!)
表紙に触れるだけで、指先から歴史の重みが伝わってくる。ページを捲れば、そこにあるのはただの文字ではない。世界の理を記述する、純粋な「力」の残滓だ。
(……美しい。なんて緻密な構成だ……)
興奮で瞳がギラギラと輝く。文字が、術式が、脳内でガチリと噛み合う。この解読の快感。これこそが、五年間積み上げてきた努力への最高の報酬だ。
ふと視線を感じて顔を上げると、カリンが俺の顔をじっと覗き込んでいた。
「……ももっち。そんなに嬉しいの?」
彼女の瞳は、あまりに澄んでいて、底が見えない。
その時。俺の計算機が、最後の一ページで致命的な「破綻」を検知した。
(……は? なんだこの一節。『合格者ハ、礎ナリ』……? おい、この術式、出力先が閲覧室全体になってるぞ!?)
理解した瞬間、背筋に冷氷を叩き込まれた。
「……っ、カリン! みんな! 今すぐそこから離れろ!!」
叫び出すより早く、視界が白濁した。足元の床は、音もなく消えた。
内臓が、喉の方へ吸い上げられた。
「うわあああああああ!!」
「助けて! 誰か、助けてぇぇ!!」
周囲の子供たちの叫びが、闇に飲まれる。
死ぬ。確実に、死ぬ。計算オタクの俺が弾き出した答えは、絶望しかなかった。
その瞬間だった。
俺を掴むカリンの手が、驚くほど「しっかり」していることに、俺の脳が戦慄した。
(……ちょっと待て。なんでお前、この土壇場でこんなに『揺らいでねぇ』んだよ……!)
死を前にして、自分も、周りの子供たちも、無様に泣き叫び、冷や汗を流している。
なのに、隣にいるカリンだけは、掠れた声で小さく呟いた。
「……なに、これ……?」
「……っ、おい、カリン……? どうしたんだよ、お前……」
俺の声は届かない。彼女は俺も見ず、ただ一点――
俺たちには見えない「世界の沈黙」を、射抜くような鋭さで見据えていた。
絶望の最中で、彼女の「勘」だけが、世界の正体を真っ先に掴み取ろうとしていた。
その一人だけ別の時間を生きているかのような佇まいに、俺は言いようのない感覚に襲われる。
「うわああああああああああああああああ!!!」
その声を飲み込むように、視界は完全に闇に呑まれた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
「合格者ハ、礎ナリ」――その不気味な言葉と共に、床が消え、光が奪われました。
五年間積み上げてきた桃太郎の「計算」が、この理不尽な闇を前にして通用するのか。
そして、奈落へ落ちる最中に見せたカリンの、あの「凛とした」姿。
恐怖に震える桃太郎の隣で、一人だけ何かを、あるいは死さえも受け入れているかのような……あの異様な佇まいの正体は何なのか。
安らぎと隠居を願った桃太郎の未来は、文字通り真っ暗な闇に呑み込まれてしまいました。
もし**「ももっち、ここからどう生き残るんだ!?」とハラハラしていただけましたら、ぜひ高評価やブックマーク**をよろしくお願いいたします!
皆様の熱い応援が、この物語を紡ぐ力になります。
次回の更新、闇の底で何が待ち受けているのか。お楽しみに!




