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第十三話(後編):不合格を狙って試験を受けたら本気を出す羽目になった件

皆様、お待たせしました。


いよいよ運命の試験当日編です!


「平穏な隠居生活」を勝ち取るため、あえて「正解っぽく見せて点数を稼がない」という高度な不合格テクニックを駆使してきた桃太郎。しかし、彼の前には最大の天敵が現れます。


それは、あまりにも魅惑的な**「合格特典」**。

努力オタクの血が騒ぎ、隠居計画が音を立てて崩壊していく様をどうぞお楽しみください!

放つ直前、指先に集まった魔力の「純度」で悟った。


カリンの視線に当てられ、無意識に計算の精度を「正解」の方へ寄せてしまったのだ。


慌てて軌道を逸らしたが、杖から放たれた光は、灯火のわずか数ミリ横を、空気を焦がしながら鋭く駆け抜けた。


「……あ」


冷や汗を拭いながら俺が呟くと、カリンはパッと顔を輝かせた。


「すごいよ、ももっち! 今の、横一列なら完璧に当たってたよね!?」


彼女は自分のことのように喜び、手本をなぞるように魔法を放つ。


パシュッ、と小気味よい音を立てて、カリンの魔法が横一列の指定された火を射抜いた。


「できた! 見て、ももっち! これでまた一つ、図書館に近づけたよね!」


胸を張るカリン。その笑顔は眩しい。


だが、俺の胸は重い。カリンのその“嬉しそうな目”が、俺には怖かった。


(……何で、そんなに嬉しそうなんだ)


彼女は何も知らない。試験の結果が、俺の人生を左右することも、鬼ヶ島の恐怖も。


(……いや、まだ、挽回の余地は有る。横ができても、奥行きで落とせばいい)


「次はこれだよ、ももっち!」


カリンが杖を振ると、庭の灯火が組み替えられた。

今度は正面から奥に向かって、等間隔に縦一列に並んでいる。


(……これだ。奥行き(縦)の狙い撃ち)


特定の地点でだけ魔力を励起させる高度な制御が必要になる。いわば、魔法の「軌道」を三次元的に書き換える、人間には至難の業だ。


「試験官がその場でランダムに『奥から何番目』って指定するんだって。……ねえ、次は奥から二番目。これ、やってみて!」


カリンが食い入い込むように俺を見つめる。その瞳は、俺の指先のわずかな動きさえも見逃さないという執念に満ちていた。


(……まずいな。適当に外せば疑われる。だが当てれば合格だ。よし……狙いは完璧に。だが、標的に届く一歩手前で、術式の『熱量』だけをゼロにする)


一見、本気で狙っているように見えて、実は無価値な光が通り抜けるだけ――。


受験時代の「記述問題で、正解っぽく見せて点数を稼がない」という、高度な不合格術だ。


「……ふっ!!」


俺は鋭く杖を振った。


魔力の光弾が、空気を切り裂いて縦の列へと突き進む。


カリンの視線が、その光の尾を猛烈な勢いで追いかける。


(……ここで、冷えろ!)


光弾は吸い込まれるように「奥から二番目」の灯火を直撃した。


だが。


火は揺らぎもせず、何事もなかったかのように燃え続けている。


「あ……」


カリンが声を漏らす。


俺はわざとらしく膝をつき、大きく肩を落としてみせた。


「あー……。ダメだ、やっぱり奥行きは難しい。光は当たったのに、火が消えないなんて」


額の汗を拭いながら、俺は内心で安堵の溜息をついた。


(よし、これで俺は『才能はあるが、決定力が足りない凡人』として彼女の目に映ったはずだ)


カリンは、消えなかった灯火と、俺の顔を交互に見つめている。


「……熱を消す。消そうとするんじゃなくて、熱だけを……」


カリンが、俺の言葉を鸚鵡返しのように呟きながら、ぎゅっと杖を握りしめた。


「私がやってみる!」


カリンは俺の真似をして、奥から二番目の灯火に杖を向けた。


小さな身体から、精一杯の魔力が放たれる。


しかし、彼女の魔法は狙い通りにはいかない。


放たれた光は、縦に並んだ灯火の手前を大きく逸れ、庭の地面を削るようにズレていった。


「あ……」


かすりもしない。


カリンの顔から、一瞬で自信が消え失せる。


「……できない。私、やっぱり……できないや」


肩を落とし、今にも泣き出しそうなカリン。


その姿を見て、俺の心は静かにガッツポーズをした。


(よしよし、これでいい。これが「人間の限界」というやつだ。俺は隠居の準備に取り掛かるぞ)



【二日目〜七日目:報われない努力の八日間ダイジェスト


• 二日目〜三日目: カリンは泥だらけになっても立ち上がる。何度放っても魔法は虚空を裂くばかり。一度も、ただの一度も当たらない。 それでも彼女は俺の「わざと外した時の魔力の揺らぎ」を必死にメモし続ける。


• 四日目: 近所の大人たちが「人間には無理だ」と嘲笑う。カリンの杖を振る手は豆がつぶれ、ボロボロだ。それでも彼女は「ももっちが見せてくれたから」と、当たらない魔法を放ち続ける。その孤独な背中に、俺の打算が少しずつ痛みに変わる。


• 五日目: 「私、才能ないのかな……」と溢れる涙。だが、彼女は翌朝にはまた庭に立っている。成果はゼロ。標的は一つも消えない。


• 六日目: 俺は耳にしてしまった。合格者には『古代魔法原典』の閲覧権が出るという「悪魔の囁き」を。


(見たい……死ぬほど見たい!)


• 七日目: 試験前夜。カリンはついに、最後の一投まで標的に掠らせることさえできなかった。「私……明日は、ももっちを信じる。ももっちがいてくれるから、私、怖くないよ」



【八日目:運命の試験当日】


グリモワールドに今日を知らせる鐘が鳴り響く。


――カン、カン、カン。


「桃太郎! 起きなさい、試験の日だよ!」


リミバァの鋭い声が部屋に響き渡る。


寝ぼけ眼で食卓についた俺の前に、湯気を立てる黄金色の料理が置かれた。


「さあお食べ。縁起を担いで、森で一番新鮮な**『カリーノ実』のサクサク揚げを奮発したよ」


(……出た、縁起担ぎ。前世の『カツ丼』トラウマが蘇る……!)


「しっかりお食べ。これを食べれば、お前の中に眠る『本気』が目を覚ますはずだからね」


リミバァの目が「逃がさないよ」と言っている。俺は最悪の胃もたれと予感を抱え、戦場へと向かった。



会場の空気は重く、冷えていた。並べられた灯火。厳格な試験官。


カリンの手は、見たこともないほど小刻みに震えている。


「……師匠」


(よし、カリンは落ちる。俺もここで『いつもの失敗』をすれば、隠居確定だ!)


だが、その時。試験官たちの囁きが耳に届いた。


「……今日の合格特典。伝説の『古代魔法原典・第一巻』**の閲覧権だそうだ」


(………………は?)


その瞬間、脳内に激震が走った。究極の参考書。


(見たい。……死ぬほど見たい!!)


俺の中の「努力オタク」の血が、隠居計画を完膚なきまでに叩き潰した。


「次、桃太郎。前へ。三番目を消しなさい」


俺は杖を構えた。


「……一回だけ見る?」


小さく彼女にだけ囁き、俺は初めて、失敗を演じない。魔力は細く、迷いなく。熱だけを切り取る。


――閃光。


三番目の火が、静かに氷結した。


あまりにも正確で、あまりにも無慈悲な正解だった。


(……イヤイヤ俺は何をやってるんだぁぁぁぁ!!)


頭の中で、何かが派手に爆発した音がした。


隠居。平穏。逃げ切り。


全部まとめて、俺自身が踏み潰した。


空気が、凍りつく。


歓声も、ざわめきも、まだ来ない。


ただ、結果だけがそこにあった。


俺は、ゆっくりと顔を上げた。


カリンが、こちらを見ている。


八日間。


一度も当たらなかった手。


泥だらけになって、泣いて、それでも振り続けた杖。


その全部を踏み越えた目で。


――彼女は。


ニヤリと、笑った。


背筋に、冷たいものが走る。


理解したのか。


盗んだのか。


それとも、もっと別の何かなのか。


俺には、分からない。


分かりたくもなかった。


その一瞬を、見逃さなかった者がいる。


リミバァは、静かに目を細めていた。


驚きも、戸惑いもない。


まるで――

最初から、そうなると知っていたかのように。


「……ふふ」


小さな吐息が、誰にも聞こえないまま落ちる。


二つの火は消えた。


試験の結果は、まだ告げられていない。


それでも。


世界はもう、覚えてしまった。


逃げ損ねた少年と。


笑った少女のことを。


――最悪だ。

完全に、やらかした。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


あんなに綿密に「不合格」を計算していたのに、究極の参考書(古代魔法原典)というエサに釣られて反射的に「満点」を出してしまう……。まさに、染み付いた「受験生の性」には勝てなかった桃太郎でした。


リミバァの「カリーノ実」のサクサク揚げ、前世のカツ丼並みに重いフラグでしたね(笑)。


果たして、この完璧すぎる「正解」が彼の隠居生活にどんな波乱を巻き起こすのか……。


「ももっち、そこまでやるつもりじゃなかったのに!」と共感(?)していただけましたら、ぜひ高評価やブックマークをよろしくお願いいたします!


皆様の応援が、桃太郎の(望まない)快進撃の糧になります。

次回の更新もお楽しみに!

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