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第十二話:五歳で“知らない間に運命を進めた”件

――五年、隠居するために生きてきた。

それなのに、どうして世界は、こんなにも俺を“必要”としてしまうのか。


リミバァの愛は、優しさという名の鎖だった。

そしてカリンは、ただ無邪気なだけの子供――

そう思っていたはずなのに、気づけば俺は

「二人の未来」を背負わされている。


これは、隠居を望む男が、

無自覚な運命に飲み込まれていく物語。


――さあ、次の一手は、誰が打つのだろうか。


「……桃太郎、起きなさい」


頬を叩く感触。

執念に近い、リミバァの眼差し。

俺は重い瞼をこじ開けた。


(……あぁ、脳が熱い。昨日、地脈を弄りすぎたか)


リミバァの手には、黄金の『きびの実』。


「いいから、これを飲み込みな。……魔法さえ使えれば、お前はこの街で生きていけるんだから」

その声には、わずかに鳥の鳴き声のような響きが混じっていた。


(わかってるよ、リミバァ)

(あんたのその『呪いのような愛』を、俺が無下にはできねぇよ)


覚悟を決め、実を飲み込んだ。

喉を通る熱い感覚。

それが、俺の魂に「桃太郎」という刻印を刻む。


「さあ、桃太郎。その石に触れてごらん」


枕元には、色褪せた古い魔法石。


(まずい。普通に触れたら『アルカナ数理』が全開で反応しちまう)

過剰出力オーバーフローが出たら、俺の隠居計画は瓦解するぞ……!)


どう偽装するか。脳が火を噴きかけた――その時だ。


「ももっちー! 遊びに来たよ!!」


バターン!!

カリンが部屋に飛び込んできた。


「ももっちの横で、私も一緒にやってみる!」


(助かった! カリン、お前は救世主だ!)


カリンは魔法石に、小さな手を添えた。


「なんじ……わがねがいを、ききたまえ……!」


石は、ピクリとも光らない。


「……あれ? なんで?」


リミバァはカリンの様子を見て、ふむと頷いた。


「カリン、石を触る力が足りないね」


「えっ、力?」


「そうだよ。それに、この石も疲れてる。……だから新しい石でやろう」


(……嘘だろ、バァさん)

(石が疲れてるってなんだよ。どんな超理論だよ)


リミバァは俺たちを見つめ、力強く宣言した。


家を出る。

外は、驚くほどのお祭り騒ぎだった。


「聞いたか! 農園できびの実が山ほど獲れたらしいぞ!」

「今日は祝杯だ! 魔法ギルドの卸値も下がるってよ!」


卵形の建物から、色とりどりの旗がたなびく。

人々は浮き立ち、街全体が熱狂に包まれている。


(……イヤイヤ、盛り上がりすぎだろ)

(俺が昨日、土壌術式をいじったせいか? 経済効果が出すぎてパニックじゃねーか!)


商店街の魔法道具店。

店主が身を乗り出して叫ぶ。


「おお! リミバァじゃないか! 今日はまた、可愛い子らを連れて!」


店主は鼻の穴を膨らませ、上機嫌に胸を叩いた。


「昨日の農園の奇跡のおかげで、うちもホクホクなんだ! 今日はお祝いだ、好きなの一人一個サービスしてやるよ!」


その瞬間、リミバァの目が、獲物を狙う鷹のように鋭く光った。


「……なんだい。たった一個かい?」


「な、なにっ!?」


「あんた、この騒ぎで儲かってるくせに。……随分と、ケチだねぇ」


リミバァは店主の悲鳴を無視した。

陳列棚から、質の良さそうな石を次々とつまみ上げる。


ボトッ、ボトッ、ボトッ。


「さあ、桃太郎、カリン。遠慮しなくていいんだよ」


(バァさん、五個もカゴに入れたぞ……。略奪じゃねーか)


案内されたのは、店の奥にある薄暗い『観測室』。

怪しげな術式が刻まれた祭壇に、魔力波形を視覚化する水晶が鎮座していた。


「……まずは、私がお手本を見せてあげようかね」


リミバァが魔法石に触れる。


――ドォォォォン!!

地鳴りのような衝撃。

溢れ出した紫煙のような魔力が、ブースを埋め尽くした。


(……待て待て待て)

(なんだその出力! このバァさん、ガチの隠居賢者か何かか!?)


戦慄する俺を余所に、リミバァは涼しい顔で微笑む。


「さあ、お前たちの番だよ。私が出した光の、ほんの少しを分けてもらうイメージでやるんだ」


まずは、カリンだ。


「うぬぬぬ……えいっ!」


(計測開始……。よし、出力、微小。捉えたぞ)


カリンの石が、ポッと淡く光った。


次は、俺だ。

カリンの波形を完璧にトレースし、石に触れる。


(マシマシにするな。カリンと同じ、ほどほどの熱量だ……。展開!)


俺の石も、カリンと寸分違わぬ、控えめな光を放った。


「「……できたぁっ!!」」


狭い観測室が、弾けるような歓喜に包まれる。


「よかった……本当によかった……!」


リミバァが、震える手で俺を強く抱きしめた。

その腕から伝わるのは、魂からの安堵。


(……ごめんな、リミバァ。嘘をついてる俺を、そんなに純粋に喜ばないでくれ)

(でも、あんたのその涙が止まるなら、俺は一生『凡人』を演じきてみせるよ)


一方で、カリンは目をキラキラと輝かせていた。


「やったぁ! ももっち! これで一歩近づいたよ!」


「……は?」


「『勇者御一行様』の一員だよ! 二人で旅に出て、悪い奴らを退治して、伝説になるの!」


(おいおい、話が飛びすぎだろ)

(俺はダラダラと余生を過ごしたいだけなんだよ!)


眩暈を覚えながら店を出る。

だが、街の中心にある掲示板の前で、カリンが足を止めて叫んだ。


「あーーーっ!! ももっち、見て、見て見て!! 私の名前が載ってる!!」


掲示板には、魔法ギルドの公式紋章。

そして、誇らしげな太文字。


『南の農園に奇跡。ギルド員・キジタ親子による貢献、きびの実の大量収穫』


「すごーい! 私、もう有名人だよ! 勇者御一行様の、キジタ・カリンだよ!!」


カリンは最高潮のテンションで、魔法石を掲げた。


(……待て。待て待て待て)


背筋に冷たいものが走る。

(おかしいだろ、順番が)


昨日の農園。

俺が術式をいじって実らせた、あの実。

あれを、俺は結果的にカリンの一族に『与えて』しまったのか?


(俺が積み上げた『徳』が、巡り巡って『キジタ(雉)』に力を与えた……?)

(俺の不作為が、俺を逃がさないための完璧な布石になってる!?)


「……カリン。お前の名字、もしかして……」


「え? そうだよ! 『キジタ』だよ! 知らなかったの?」


爆上がりで輝く、カリンの笑顔。

爆下がりで、自ら掘った落とし穴にハマる俺。


「イヤイヤ俺は何をやってるんだーーーーーーーーー!!」


俺の魂の絶叫は、頭上を旋回する鳥たちの鳴き声にかき消された。


逃げようとした運命のど真ん中に、自分から飛び込んでいた。

それは、呪いのような愛が、本格的に動き出した合図だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

いかがでしたか?


物語が一気に“本筋”へと動き出した回だと思っています。

まだまだ主人公は逃げ切れません。

というか、むしろ逃げるほど深く絡まっていく。


もし「続きが気になる」「この先も読みたい」と思っていただけたら、

高評価とブックマークをしていただけると、とても励みになります。

皆さんの応援が、次話を書く力になります。


次回も、よろしくお願いします。

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