第六話(中編):神の喉と勝負したら、合格フラグに王手がかかった件!
おばあちゃん、強すぎだろ……。
ギルド員を飲み倒して情報を引き出すリミバァに、俺の常識は完敗です。
ですが、勝負が決まった瞬間に見えた「あの光」。
せっかく異世界に来たのに、処理落ち(ラグ)まで再現しなくていいんだよ!
掲示板が俺を呼んでいる。嫌な予感しかしない中編、スタートです。
「――両者、構えろ!
グリモワールド式・一気飲み対決……始めッ!!」
序盤、リミバァが驚異的な速度を見せる。
半分を過ぎる頃には、リミバァが大きくリードしていた。
(……っ、嘘だろ!?
おばあちゃん強すぎる!
このままじゃ『きび』で俺の人生が終わっちまう!)
だが、そこで異変が起きた。
リミバァの喉の動きが、ぴたりと止まったのだ。
明らかにスピードが落ちる。
(来た……!
さすがのバァさんも限界か!
おじさん、今だ、追い上げろ!!)
おじさんは期待に応えた。
脅威の追い上げだ。
喉をごくんごくんと鳴らし、ジョッキの底がぐんぐんと上がっていく。
(行ける!
行けるぞおじさん!
イケーーーッ!!
人間の底力を見せてやれ!!)
残りはあと一口。
おじさんのジョッキがほぼ垂直になった。
リミバァはまだ止まっている。
勝利を確信し、俺が心の中で快哉を叫ぼうとした――その刹那。
ドサリッ。
「……えっ?」
おじさんの身体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
床にぶちまけられた最後の一口。
おじさんは白目を剥いて沈没していた。
(ガーーーーン……!!
負けた……俺の希望が……!)
「……ふぅ。……危ないところだったねぇ」
リミバァが、止まっていたはずの最後の一口を、事も無げに飲み干した。
その目は、一点の曇りもなく冴え渡っている。
勝利したリミバァの手が、絶望に震える俺の頬をなぞる。
(……このバァさん。今、俺を見てない)
そこに映っていたのは、孫の顔などではない。
“ただの爺ちゃんの目”ではない。
(……なんだこれ……)
リミバァの目は、何かを確認しているようだった。
孫を見る目ではなく、
**“進行状況を見ている”**目。
俺は、そう感じた。
(……俺だけ、ゲームだと思ってるのか?)
「さあ、桃太郎。場所は分かったよ。
あんたを『完成』させてくれる、あの実のありかがねぇ」
リミバァの細い指が、俺の首筋に触れた。
(……やめろ。触るな……!)
その瞬間、俺の視界の端が、ほんの一瞬だけ白く滲んだ気がした。
(……おいおい、俺も酒の匂いで酔ったか?
今、掲示板が光らなかったか?
それとも……)
――いや、違う。
あれは確かに、“光って見えた”。
でも、周囲の誰も気にしていない。
マスターは普通にグラスを拭いている。
梟人たちは普通に笑っている。
外では、朝の市場の音が普通に鳴っている。
(……俺だけ、変なこと感じてる?)
その違和感が、俺の胸の奥で冷たく広がる。
(……まさか。
俺、また勝手に“ゲーム”扱いしてる?)
でも、同時に確信もあった。
「今の光は、何かの合図だ」
――俺の脳内で、勝手に“イベント”が始まる。
(……これ、絶対に続きがある……)
リミバァは何も言わず、俺を担いで酒場を出た。
外へ出ると、空気が冷たくて新鮮だった。
だが、そこにも違和感があった。
市場の喧騒は変わらないのに、
時間の流れが、どこか**“詰まっている”**。
太陽が昇る音が、遅れて届くみたいに。
(……時間が、ズレてる?
いや、俺がズレてるのか?)
リミバァの足取りは、いつもより重い。
酔いが回っているのは分かる。
でも、なぜか彼女は楽しそうだ。
(……酔ってるのに、笑ってる?
この人、酔うと変わるタイプじゃねぇだろ?)
リミバァは掲示板の方へ向かう。
その瞬間、俺は気づいた。
掲示板の前に近づくほど、
俺の胸が締め付けられる。
(……ここ、何かある……)
掲示板の端が、微かに光っていた。
それは“光っている”というより、
“光って見えた”。
つまり、俺の視界だけが反応している。
(……やっぱり……
俺だけ、ゲームだと思ってるのか……)
リミバァは掲示板の依頼を指差し、呂律の回らない声で呟いた。
「……ヒック。ほら、桃太郎……。
ギルドのクエストにあった通り……あの橋を渡れば……『きび』が……」
俺は、今まで聞いたことのない声で、
自分の耳を疑った。
(……なんだよこの声……
俺の中に、もう一人いるみたいだ)
リミバァの細い指が、俺の首筋に触れた。
それは「触れられそうになった」瞬間の、心臓を鷲掴みにされるような恐怖。思考するより先に、「完成」という言葉への嫌悪が反射として体を強張らせる。
(……やめろ。触るな……!)
「……ふふん、ふふんふ〜ん♪」
だが次の瞬間、鉄黒の扉を開ける衝撃と共に、その不吉な沈黙は陽気な鼻歌にかき消された。
勝利の美酒を味わったリミバァは、上機嫌で酒場を後にした。
リミバァの指が依頼書を引き裂くように掴んだ。
そして――
(……次は、橋か)
俺は、嫌な予感が確信に変わるのを感じた。
その足取りは一歩ごとに、物理法則を無視した角度へ傾き始めている。
(……おい。ちょっと待て、この揺れ方は尋常じゃねぇぞ!)
たどり着いたのは、ギルドの外にある掲示板の前。
籠の中でシェイクされる俺は、そこで戦慄した。見上げれば、リミバァの顔は完熟トマトだ。
(……マジかよ。あんた、本当は酒にめちゃくちゃ弱いんじゃねぇのか!?)
リミバァは掲示板のクエストを指差し、呂律の回らない声で呟いた。
「……ヒック。ほら、桃太郎……。ギルドのクエストにあった通り……あの橋を渡れば……『きび』が……」
目の前には、朝露で鏡のように光る、急勾配の木造りの橋。
(……待て、なんだ? リミバァの足元が氷みたいに言うことをきかない)
(その拍子に、頭の奥で『白鳥の湖』が流れ出した)
リミバァの足が石畳に触れた瞬間、ズルッ……!と大きく体が宙を舞った。
(うわあああ! 待て! 橋だぞ! ここで落ちたら俺の人生ごと『詰み』だ!! 誰か、この暴走酔っ払いを止めてくれ!!)
反転する視界。だが、リミバァは執念で掲示板の角に身体を叩きつけ、落下を阻止した。彼女は血走った目で、そのまま一枚の依頼書をひったくるように握りしめた。
「……これ、だよ……桃太郎……」
リミバァはそのままの勢いで反転し、ギルドの重厚な扉を破壊せんばかりの体当たりで突き破った。
「たの、もう……ッ!!」
咆哮と共にエントランスへ突っ込み、彼女はそのまま、床の上で派手に倒れ伏した。
静まり返ったのは一瞬だった。ギルドの中は相変わらずうるさい。
そう、俺はカゴの中で、まるで3回転トウループでも決めたかのように綺麗な着地をした。
(よし、着地成功。計算通りだ……)
ドン
リミバァの悲鳴。
「ギャーー」
どうやら、俺が華麗に着地を決めた地点は、倒れ伏したリミバァの背中の、ちょうど一番痛そうな場所だったらしい。
(……あ、すまん。そこは計算に入れてなかった)
その時、受付の男が声を張り上げた。
読んでくれてありがとうございます!
リミバァの暴走っぷり、怖っ!
もし同じく怖っ!と思ったらブックマークお願いします!
さて、今回の酒場シーン、桃太郎目線で追ってみると、リミバァの動きの恐ろしさと計算外のハプニングの両方が楽しめる構造になっています。市場や橋の描写、時間のズレなど、細かいこだわりもぜひ注目してほしいです。
次回は橋を渡った先で待つ“事件”が本格的に始まります。桃太郎たちがどう動くのか、目が離せません!




