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 ヒルダはメジスラナクアの操縦室に移動していた。

(予定外なことはあったが順調だな)

 予定外なことは第三ラボの爆発だ。それ以外は順調だが、ヒルダには引っかかるものがあった。輸送機もメジスラナクアも昨日のうちに準備している。念入りに準備して悟られないようにはしていたが、まったく気づかれた様子がないことが気に掛かる。メジスラナクアは完成したばかりの最新鋭の探査船だ。丸一日異変に気づかれないことがあるだろうか。初飛行は未定だが、調整することもあるのではないか。

(泳がされている? 考えすぎだろうか)

 ヒルダが考えているとモニターに二つの航空機が示された。宇宙センターから緊急発進した戦闘機だ。予想はしていた。僅かな差で輸送機をメジスラナクアに収容させることができた。

 二機の戦闘機はメジスラナクアの周囲を飛行するが攻撃することはなかった。これはヒルダの予想通りだ。メジスラナクアは首都中心の上空を飛行している。攻撃すれば街に破片などが落下してしまう。また、完成したばかりの最新鋭の宇宙船を破壊することも避けるだろう。少なくとも街の上空を外れるまでは攻撃されないとヒルダは考えていた。

 メジスラナクアは一気に高度を上げてゆく。成層圏に達する頃には、まとわりついていた二機の戦闘機は姿を消していた。宇宙空間まで飛行できる機体ではないからだ。

 突然、メジスラナクアは攻撃を受けた。

 アルマセレルの公転軌道上には小惑星帯がある。たびたび地上に落下しているので、それを破壊する衛星がアルマセレルの衛星軌道を周回している。その衛星が攻撃してきたのだ。

 ヒルダにとっては想定外だった。この衛星は、本来アルマセレルに接近する物体を破壊する。小惑星に偽装されている可能性も考慮して、識別コードを出力していない場合に攻撃する。識別コードを出力しながらアルマセレルから接近するものを攻撃することはない。そして、メジスラナクアは識別コードを出力していた。

 ただし、具体的な攻撃指示が出ていれば別だ。

(攻撃指示が出たということか?)

 ヒルダはこの攻撃の意味を考えた。メジスラナクアの完全な破壊か。それとも、大きな損傷を与えて降伏を迫ろうというのか。

 メジスラナクアには武器が搭載されていないので迎撃はできない。衛星から距離があることもあり、ヒルダは射程範囲外に離脱することを優先した。幸いメジスラナクアに大きな損傷はない。

 ヒルダはメジスラナクアの操縦をマニュアルに切り替えようとした。

(ん? 切り替えられない?)

 操縦室のコンソールはすべて反応しなかった。

(エマージェンシーモードも効かない……何故?)

 メジスラナクアの制御系が破壊されるような損傷を受けたとは思えなかった。

(別の要因による不具合か?)

 別の要因とはいっても原因は何も思いつかなかった。

 モニターで周辺の様子を確認する。衛星の射程範囲から離脱したからか攻撃はない。追跡してくる宇宙船の反応もなかった。

(無人戦闘艦の一隻くらいは発進できたはずだが……どういうことだ?)

 有人の戦艦だとそれなりの時間が掛かるが、無人戦闘艦なら発進できるだけの時間はあった。

 ヒルダは操縦室を離れ、格納庫の輸送機へ向かう。制御できなければ追っ手が来ても対応できない。いや、確実に追っ手は来るだろうと考えた。追っ手の有無を確認するよりも制御を取り戻すことが優先だ。

 輸送機のコンソールには異常がなかった。メジスラナクアのコンピューターへのアクセスはできたが、制御を奪うことはできない。

 ヒルダはもう一度追っ手の有無を確認したが、追ってくる宇宙船の反応は見られなかった。

(メジスラナクアを手放す気か?)

 ヒルダのことはともかく、完成したばかりのメジスラナクアを放棄するとは考えられなかった。相当な開発費と製造費がかかっている。

 もっとも、ヒルダは説得に応じる気もなければ、攻撃されて降伏するつもりもない。メジスラナクアを取り戻せたとしても、かなり破壊された状態になるだろう。取り戻すのは困難と考えたのか。取り戻せないとしても、完全に破壊することは可能なはずだ。ヒルダが恐れていたのもそのことだ。ヒルダを捕まえる気がなく、メジスラナクアを手放す前提であれば破壊しても良い。それをしないのは何故か。

 しばらく待ってみた。やはり追っ手の姿はない。

(まあいい。こちらはこのまま進むしかない)

 ヒルダはこのまま航行し続けた場合に、どこに向かうかを算出してみた。結果はガレオマレニ第三惑星。その名称にヒルダは見覚えがあった。二番目に近い生存可能領域(ハビタブルゾーン)の惑星だ。

(ガレオマレニ第三惑星……それなら向かってみても良いかもしれない)

 一番近い生存可能領域はすでに調査を開始している。そちらがある程度進めば、いずれは二番目の生存可能領域にも進出するだろう。それを待ち受けてみるのも面白い。

 だが未知の領域ではある。全く情報がないのだ。実際にどんな星なのか全くわからない。本当に生命体が存在できるのか。存在できる場合は、現時点で生命体は存在しているのか。存在しているとしたらどんな生命体なのか。何ひとつわかっていないのである。

 さらに、二番目に近いといっても、現在の航行技術では約五年の距離だ。つまり到着するのは五年後になる。それだけの期間を無事に航行し続けられるか。

 メジスラナクアは恒星間宇宙船だから燃料は充分ある。長距離移動を前提としているので生命維持装置もある。仮死状態になるタイプだ。五年間装置に入っていても、歳月の経過は感覚的にも肉体的にも感じない。仮死状態なので食糧なども必要ない。

 だが不安はある。軌道が逸れることはないか。想定外の流星などの衝突はないか。更なる故障が発生しないか。特に生命維持装置の故障は命取りになりかねない。また、無事に航行し続けたとして、停止することができなければそのまま彷徨い続けることになる。

(覚悟を決めるか)

 ヒルダは生命維持装置に入る決心をした。稼働期間はガレオマレニ第三惑星到達の五十日前とした。五十日間で策を練ることにした。

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