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「あれは第三ラボだな?」

 第二ラボの監察官エルネスティ・アランコは運転手に訊いた。ヒルダが乗るコンテナ車の後ろの車両の後部座席に座っている。

「そのようです」

 運転手が答える。

「あそこはいつもトラブルを抱えているな」

 エルネスティの言う通り、第三ラボはトラブルが頻発していた。研究によるものではない。政府や軍に密接に関連しているため政治的な混乱が度々発生している。爆発が起こるようなことはなかったが、いずれ起こってもおかしくはないとエルネスティは思っていた。だから特に気にも留めない。

「そうですね」

 運転手も同じように思っていた。

 他の車両でも似たような会話をしているらしく、通信回線からは同じような会話が聞こえていた。もちろんコンテナ車の会話も聞こえている。

 そのコンテナ車からの会話の様子が変わった。

「カールランピ、何を」

 張り詰めた声だ。エルネスティにも緊張が走る。身を乗り出して前を走るコンテナ車を見る。

 次の瞬間、銃声が轟いた。

「あっ!」

 運転手が声を上げた。コンテナ車の運転席のドアが開き、運転していたハンヌが飛び出した。

 さらに二発の銃声が続く。

「どうしますか?」

 運転手が訊く。ハンヌを救助するかという問いだ。

「放っておけ。コンテナ車を追え」

 エルネスティが答えた時には、前を走るコンテナ車は左折していた。

「どこへ向かっているのでしょうか?」

 運転手の問いには答えずに、エルネスティは通信回線を第二ラボ監査室の直通回線に切り替えた。

「カールランピが運転手に発砲してコンテナ車を奪った。現在追跡中だ。そちらに何か異常はないか?」

「現時点では何も報告は上がっていませんが確認します」

 エルネスティの問いに監査室の担当者が答える。

「協力者がいるかもしれん。不審な動きをする者があれば拘束して構わない」

「了解しました……待ってください」

 監査室からの音声が一旦途切れた。

「どうした?」

 エルネスティが問う。

「……関係あるかわかりませんが、第一ラボから輸送機が飛び立ったようです」

「輸送機?」

 第一ラボは元々唯一のラボだったため専門分野はない。第二、第三ラボよりも規模が大きく、広範囲な研究開発を担っている。輸送機が飛び立ったところで不思議はないはずだ。

「はい、宇宙センター所属の機体です」

「宇宙センターの機体……」

 宇宙に関する研究は宇宙センターで行われている。だからといって国立研究所と無関係とは限らない。一番関係が深いのは第三ラボだが、第一や第二ラボもまったくの無関係ではない。

(関係は薄いか……)

 エルネスティも一旦はそう考えたが思い直した。

「念の為に動向を注視しろ」

「了解です」

 エネルスティは考えた。輸送機であればコンテナ車の収容は可能だ。コンテナ車と速度を合わせて飛行すれば、飛行したまま収容することも可能だ。着陸して乗り換えるより、遥かにタイムロスが少ない。

 そして、空路であれば陸路より行動範囲が広がる。反面、陸路より位置を捕捉されやすくなるが。

(輸送機を使うにしても繋ぎではないか?)

 輸送機で最終的な目的地まで行くことはないだろうとエネルスティは考えた。何かに乗り替えてその先に行く。問題はセギオラの存在だ。セギオラを連れている限りコンテナ車は手放せないだろう。乗り換え先はコンテナ車を収容できる必要がある。

(セギオラを捨てるとしたら?)

 その場合は制限がなくなる。また、輸送機で追跡を躱すことができれば、その先は多少の余裕を持って乗り換えることも可能だ。再び陸路で移動しても良い。

 しかし、セギオラを捨てる可能性は低いだけうとエネルスティは思い直した。セギオラが不要であればこんなことをする必要はない。

(どこへ向かうつもりだ?)

 エネルスティは手段ではなく目的地を考えた。重要なのは手段ではなく目的だ。爆発があったから行動を起こしたとは思えない。いや、タイミングは爆発によるかもしれない。しかし、銃を用意していたことからも、計画していた行動であることは確かだろう。それであれば明確な目的地があるはず。

「輸送機がそちらに向かっています」

 監察室から通信が入った。

「後ろのようです」

 運転手はバックモニターで視認した。

 エネルスティは振り向いて直接確認する。輸送機が飛び立った第一ラボは右後方にある。旋回したということだ。コンテナ車に向かっていると確信した。

「コンテナ車を止めろ。ぶつけても構わん」

 エネルスティは運転手に指示する。運転手は速度を上げた。

 輸送機は高度を下げながらコンテナ車に迫る。

 吊り下げ用のフックが両脇からコンテナ車を抱え込む。

 エネルスティの車両がコンテナ車に追突したが、輸送機に吊り上げられたコンテナ車は浮き上がった。

 もう一度エネルスティの車両がコンテナ車に追突したが、多少ぐらつきながらもコンテナ車はさらに浮き上がってゆく。

「もういい。停めろ」

 コンテナ車が数メートル浮き上がったので、エネルスティは諦めて車両を停車させた。これ以上は追っても無駄と判断した。

 コンテナ車の前を走っていたうちの一台、先頭を走っていた車両が追いついてきた。二台目を走っていた車両は見当たらない。

「コンテナ車の運転手はどうした?」

 エネルスティが先頭車両の者に問う。

「救助しています」

「救助?」

 エネルスティの声は不満そうだ。

「出血が多いので救助を要請しました」

「カールランピの協力者じゃないのか? 口を割らせるのが先だろう?」

 真実を話すまでは助けるなということだ。

「そうですが、死んでしまっては聞き出すことができません」

「生かしたところで話すとは限らない」

 エネルスティはハンヌを協力者と疑っている。死んでも構わないと考えていた。協力者ではなかったとしても撃ったのはヒルダだ。助けてやる義理はない。

「今からそちらに向かう。引き続き輸送機を注視しろ」

 第二ラボ監察室に連絡し、エネルスティは運転手に第二ラボに向かうように指示した。

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