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第一章 元いた場所

 ヒルダ・カールランピは機会を伺っていた。ヒルダは民間の研究施設に所属する二十八歳の女性研究者だ。主にセギオラを研究する施設で、捕獲に成功した個体を一頭保有している。

 二十八歳といっても、地球と惑星アルマセレルでは肉体の成長速度が異なる。地球ならヒルダは六~七歳くらいに見える。つまり、肉体の成長速度が四分の一程度に遅い。その代わりに寿命は長く、平均寿命は三〇〇歳前後になっている。

 寿命が長いということは労働する期間も長いことを意味する。そのためにアルマセレルでは、一日あたりの労働時間が短く休日も多い。

 セギオラというのは地球の熊に似た野生生物だ。先端に吸盤が付いた触手が両肩から伸びている。その触手を器用に動かして道具を使えるほどに知能が高い。また、電場や磁場を操る特殊能力を有している。凶暴なため人間に飼育されることはなかった。もっとも、捕獲すること自体が困難だ。駆除するのでさえ軍隊の出動を要する。

 しかし、ヒルダの研究施設のチームはその捕獲に成功していた。捕獲時の詳細は企業秘密として公表していない。

 その研究施設が国立研究所に吸収される形になった。そのためにセギオラを移送している。移送先は第二ラボ。国立研究所は第三ラボまであるが、第二ラボは主に自然科学を研究する施設だ。セギオラについても研究しているが、生きたままの捕獲には成功していない。それもヒルダの研究施設を吸収する目的の一つだ。

 セギオラは専用のコンテナ車に乗せられている。セギオラは酸素ではなく塩素を体内に取り入れている。塩素濃度が低くなると自らの活動を停止するため、コンテナ内を塩素が存在しない状態にしている。その状態であれば安全に扱うことができるからだ。塩素がなくても生きられることについては解明されていない。

 ヒルダはコンテナ車の助手席に座っている。運転席には研究助手のハンヌ・アスピヴァーラだ。ハンヌもヒルダの計画は知っている。

「わたしは国立研究所に移る気はない。セギオラも渡さない」

 この話が持ち上がった時、ヒルダはハンヌに言った。

「では、どうするのですか?」

「わたしはセギオラを連れて一旦アルマセレルを離れる」

 宇宙に脱出することを考えていた。そのための準備はできていると、ヒルダはハンヌに計画の内容を伝えた。

「問題は誰が運転席に座るかだ」

 セギオラに対応するためにヒルダが助手席に座ることは決まっていた。運転手は決まっていない。運転手とは言っても、アルマセレルでは自動運転が主流になっているので、実際に運転する場面は限られる。

 ヒルダはコンテナ車ごと宇宙船メジスラナクアに乗せる計画を立てている。正確には、垂直離着陸が可能な輸送機でコンテナ車を抱えて飛行し、同じく飛行中のメジスラナクアに空中で収容する。そこまでは自動操縦で、すべてプログラミング済みである。

「自分が運転席に座りましょう」

 ハンヌが提案した。

「お前は駄目だ。一緒に連れて行くわけではない。途中で無理やり下ろすことになる」

 ヒルダは、運転手を車両から下ろすためには、負傷させることも厭わないつもりでいた。できれば殺害したくないが、相手の反撃次第にはなるだろう。もちろん相手によっては逆にヒルダが負傷、あるいは殺害される可能性がある。だからこそ運転手が誰になるのか気にしている。

「それなら尚更です。自分を撃ってください。大人しく運転席から逃げ出します」

 ハンヌは真剣に言う。ハンヌはヒルダよりかなり年上だが、研究者としてのヒルダを尊敬している。研究者として挫折した過去もあるので、ヒルダには好きなように研究を続けてほしいと願っている。

 ハンヌの意志が固いので、ヒルダはハンヌを運転手に推薦した。セギオラに対応する時に他の者より役に立つとして。

 セギオラ移送の編成が決まると、ヒルダは計画のシミュレーションを開始した。どのポイントで行動を起こせば良いか。

 万全を期してその瞬間を迎えていた。

 勝算はあった。武器を装備した警備車両は帯同していない。コンテナ車を移送ルートから離脱させても、武力により静止される可能性は低い。

 移送はコンテナ車含め四台の車両で行われていた。コンテナ車を三台目に配置し、前の二台と最後尾が国立研究所の車両である。

 車列は市街地を抜けた。数分で第二ラボの手前の第一ラボが見えてくる。ここから先はしばらく直線道路になる。交差する道路が何本かあり、そこを抜けた先が決行ポイントだ。垂直離着陸機とはいえ、離着陸にはそれなりの空間が必要だ。交差する道路がなくなれば、その先の第一ラボまではほとんど建物がない。交通量も減ってくる。

 あと少しで最後の交差点に差し掛かる頃、遠く前方で爆発が起こった。ヒルダの計画にはない。

(あれは第三ラボの方?)

 ヒルダが見たところ、爆発は第二ラボのさらに奥にある第三ラボあたりだ。第三ラボは主に情報工学の施設なので、事故で爆発が起こる可能性は低い。

「あれは何?」

 ヒルダは言ってから運転席のハンヌを見る。ハンヌが何かしたのかもしれないと思ったからだ。

「わかりません。第三ラボのようですが」

 ハンヌは言ってからヒルダを向いて首を振る。何もしていないという意思表示だ。通信回線が繋がっているので具体的な会話はできない。

(人為的なものかもしれない)

 ヒルダの他にも何かを企てている者の存在を感じたが、今を逃せば機会を失ってしまうかもしれない。

 ヒルダは銃を取り出してハンヌを見た。

「カールランピ、何を」

 ハンヌは頷いてから慌てた声で言った。

 ヒルダがハンヌの脇腹を撃つ。撃たれたハンヌは悲鳴を上げながら、ドアを開けて車外に飛び出した。コンテナ車は走っている。その間にヒルダは、ドアに一発、ハンヌに当たらないように外に一発発砲した。このくらいやればハンヌが疑われないだろうと考えた。

 ヒルダは交差点でコンテナ車を左折させて速度をあげた。ルートを変更するための準備はできていた。通信回線は切断した。

 続いて第一ラボに用意しておいた輸送機を離陸させる。予定とは異なるルートだが、コンテナを自動追尾するようにプログラムしてあるので影響はあまり受けない。

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