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ヒルダは誰も追ってこないことを確認すると、立ち止まって辺りを見回した。
どこに連れて行かれようとしていたかは、だいたい想像がついていた。警察のようなところか病院。どちらに向かっているのかはわからなかったが、どちらに行くことも避けたかった。
まだ、この星のことを何も分かっていない。
言葉もわからない状態で、大勢の人間の中に入ることはできなかった。つい先程までそのような状態だったが、あれは不可抗力だ。意識を失っている間に囲まれてしまったので、避けようがないことだった。
(何から始めるか?)
ヒルダは考えた。メジスラナクアはどうなったろうか。気づいた時には船の上にいたが、体が濡れていることから、海にいたのだろうということはわかった。それならメジスラナクアは海に落下したのだろう。海上に浮いているのか、あるいは海底に沈んでいるのか。どちらにしても探すためには船がいる。近くに接近すれば、ヒルダの能力で見つけ出すことも不可能ではない。一部でも機能が動いている前提だが。
能力で探せるとはいってもある程度は近づかなければならない。捜索範囲を絞り込めなければ見つけるのは困難だろう。船を奪って探しに行っても、捜索中に包囲されてしまうのではないか。
(メジスラナクアを手放すのは痛いが……)
ヒルダは一旦メジスラナクアを考えないことにした。もうこの星の人間に発見されている可能性もある。
次に気になるのはセギオラだ。格納庫にいたヒルダが外に放り出されているので、コンテナ車も同じように放り出されている可能性は高い。それであればコンテナは壊れているのではないか。壊れていればセギオラも逃げ出しているだろう。
ヒルダが生きているのだから、セギオラは確実に生きているだろう。生きているとしたらすでに発見されている可能性がある。
生きていれば空腹に襲われているだろう。この星にどのような生物がどのくらい存在するかヒルダにはわからない。しかし、人間以外の生物を餌としたとしても、その捕食活動でセギオラが発見されているのではないかとヒルダは考えた。
発見されているとすれば駆除されただろうか。それとも捕獲されたのか。そのどちらでもないことをヒルダは願った。セギオラを心配しているわけではない。セギオラが駆除や捕獲されたのであれば、いずれはヒルダの存在も突き止められてしまうと考えていた。
もっとも、駆除や捕獲されていなくとも存在が明らかになれば、そこからヒルダに辿り着く可能性はある。ヒルダはすでに目撃されている。メジスラナクアまで見つかれば、同じタイミングで現れたヒルダが関係していると推測されてしまうだろう。
(状況を知る術がないのは痛い)
メジスラナクアなしで状況を把握する方法をヒルダは考えた。ここがどのような星かはわからないが、情報を得る手段ならあるだろう。現に漁港でスマートフォンを目撃している。ヒルダには具体的な機能はわからなかったが、通信機能があることを感じ取ることはできた。あれと同じようなものがあれば情報にアクセスすることは可能だろう。
ただし、問題がある。入手することはあまり問題ではないだろうが、言葉がわからないので使い方も機能もわからない。いや、追跡機能のようなものがあれば、入手すること自体が危険かもしれない。
(協力者が必要だな)
危険だが誰かと接触する必要があるとヒルダは考えた。まずは言葉を理解する必要がある。メジスラナクアとセギオラのどちらも放棄してしまえばあまり急ぐ必要はない。むしろ、この星で生きていく方法を考えなければならない。アルマセレルからの探査船が来れば帰れる日が来るかもしれないが、それがいつになるかはわからない。来たとしても帰れないかもしれない。
ヒルダは人の気配が少ない方へ進む。しばらく進むと、少し離れた場所に三人の気配があった。そのうちの一人は他の二人からは少し離れている。その周辺には人の気配がないので、ヒルダは離れている一人に近づいていこうと決めた。
山の中の一本道に辿り着いた。人通りはなく、車も数分間隔でしか走っていない。道路脇に身を潜めると、ヒルダは空中を走るケーブルに意識を集中した。
ヒルダは電場と磁場を操る能力を有している。セギオラと同じ能力だ。ケーブルがどのように使われているのか識別することが可能だ。電力なのか、それとも通信なのか。
数本のケーブルのうちの何本かは通信に使われていることが判別できた。しかし、そこまでだった。通信内容まではわからない。そのためには、データがどのように構成されているかを知る必要がある。それが理解できるまではかなりの時間がかかるだろう。
ケーブルで通信ができることがわかっただけでも収穫だった。無線で通信が行われていることはすでにわかっていた。
(ネットワークも早めに解析しよう)
情報収集は言葉の次に重要だ。何らかの方法で端末を入手すれば調査もやりやすくなる。
ヒルダは再び移動を開始した。林の中にしゃがんで何かをしている人影を見つけて静かに近づく。斜め後ろからだが同年代の女性に見えた。
しばらく観察する。
(何かを埋めている? いや、掘っているのか)
その人物は土を掘っていた。掘った土をバケツに入れる。
もう少し近づこうとした時、ヒルダは枝を踏んでしまう。枝が折れる音が辺りに響いた。




