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軍の統合司令本部に所属するカレルヴォは、家族と一緒に新しくできたショッピングモールで休日を過ごしていた。
このショッピングモールは、五年前まで存在した民間の研究施設の跡地に建設された。ヒルダがいた研究施設だ。
本来は国立研究所第二ラボに吸収されて、すぐに解体される予定だったが、ヒルダの件があったために解体が遅れた。
研究施設の人間は、本来すぐに国立研究所に移る予定だったが、元の研究施設に留まることとなった。その間は常に軍の監視下に置かれた。
一年ほどで問題なしと判断され、研究施設の人間は開放されることとなった。半数ほどは予定通りに国立研究所に移籍したが、軍による監視に嫌気が差して移籍を拒否したものも多かった。研究施設の解体は決まっていたので、移籍を拒否した者の中には、研究自体をやめる者も少なくなかった。
一方、宇宙センター長官オリヴェルについて、政府は何も明らかにはしていなかった。軍と宇宙センターでは協力者について調査したが、疑わしい人物さえも浮かばなかった。
その結果、オリヴェルがヒルダを利用したという結論となった。ただし、二人の繋がりについては明らかにされていない。
その結論に納得していない者は何人かいる。その筆頭がカレルヴォだ。しかし、軍属のため表立って異を唱えてはいない。ほかの者もほとんどが同じだった。だが、真相が明らかにならなくとも、現時点ではなにも支障はない。ただ納得できないだけだった。それもあり、真剣に調査を続けようと思うものは一人もいなかった。
(疑問は残るが本当に終わったのだろうか?)
ヒルダの研究施設の跡地にいることもあり、カレルヴォは五年前の出来事を思い出していた。跡地といっても、ショッピングモールになっていて、周辺もかなり様子が変わっている。もっとも、カレルヴォはあの後に数回訪れただけなので、研究施設に対しては何の思いもない。
「そろそろ食事にしませんか?」
カレルヴォの妻が言った。
アルマセレルでの毎日の食事は、栄養を摂るだけの簡素なものが中心になっている。いわゆる栄養食品の形で栄養を摂取している。粉末を液体で溶くものや固形物である。家庭で調理することはほとんどない。料理を食べるのはほとんどが外食となる。
そうなったのは食料の安定供給のためだった。肉や魚、野菜や果物、穀物から栄養食品に加工する。保存が効くようになり食料ロスも防いでいる。
「そうだな。食事にしよう。フードコートは一階だったな」
カレルヴォは言うと、家族で一階に降りてゆく。上の階にレストランもあるが、子供が小さいのでフードコートを選んだ。
カレルヴォたちが一階に着くと、奥の方から大勢の人が走ってきた。フードコートは一階の奥まったところにある。
「早く逃げろ!」
そう叫んでいる者もいた。
「様子を見てくる。お前たちは外に出ていなさい」
カレルヴォは家族にそう言って奥に向かった。
奥に行くにつれ逃げてくる人間が少なくなってくる。その先にいる人間が少なくなっているということだろう。
逃げてくる人々の中には転ぶ者も何人かいた。ぶつかりそうになる者もいる。それらを避けながらになるため、カレルヴォがフードコートに辿り着くのには少し時間がかかった。
フードコートが視界に入った時、カレルヴォの面前に人が飛んできた。転んだのではない。飛んできたのだ。
(何が起こっているんだ?)
カレルヴォはフードコートの入り口付近に黒い物体を見つけた。
黒い物体。いや、黒い生物。四足歩行で肩口から触手が生えている。その二本の触手で人間を投げつけていた。激しい怒りの行動だ。
実際に見たことはないが、カレルヴォも知識としては持っていた。
カレルヴォは統合司令本部に連絡する。
「セギオラが出現した。場所は――」
そこまで言って、カレルヴォはセギオラに前肢で頭を砕かれた。
これがカレルヴォの最後の言葉となった。




