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会議室には十数人の関係者が集まった。
最初に現時点で判明していることが、軍の安全保障局のウルマス・コスケラから説明された。安全保障局が中心になって対応にあたることが決まっている。
「時系列順に説明します。なお、本件との関わりが不明なものも含まれます。また、具体的な日時は手元の資料を参照願います」
ウルマスは一度言葉を切って全員を見回した。
「まず、ヒルダ・カールランピの所属する研究施設の国立研究所への吸収を決定」
「吸収の理由は?」
宇宙センターの代表として出席している、管制局長ヨアキム・ハクンディが訊く。
「目的は三つあります。一つは生きたセギオラの取得」
エルネスティが言うと、何人かが隣の者と顔を見合わせる。
「セギオラを捕獲していたのか?」
「はい。二年前に一頭の捕獲に成功していました」
「二年間も飼育していたのか。それを君たちは把握していたのか?」
「いえ、把握していませんでした」
「民間に二年以上遅れを取っていたとはな」
エルネスティは研究者ではない。軽く聞き流した。
「二つ目はセギオラに関する情報の取得です」
「それは捕獲方法も含まれるのか?」
その質問はウルマスに遮られた。
「今はそれを話し合う場ではありません。続きを」
ウルマスはエルネスティを促した。
「三つ目はヒルダ・カールランピ本人です。セギオラの研究者としても有能ですが、自身にセギオラの能力を再現することに成功したようです」
エルネスティの言葉にほぼ全員がざわめいた。
「能力を再現しただと?」
「はい。電場と磁場を操る能力です」
改めての説明に今度は静まり返った。ウルマス以外は初めて聞く内容だった。
「その能力のためにヒルダ・カールランピが逃亡した可能性がありますが、もちろん裏付けはありません」
不確かな情報は伏せた方が良いとも思ったが、上からの指示でウルマスは説明した。
「次に発生したのが軍と宇宙センターのウイルス発生です。これはまだ何もわかっていません。関連があるかも不明です」
「別件の可能性もあると?」
「可能性はあります。こちらは現在情報局で調査中です」
情報局というのは軍の組織だ。
「次が輸送機の宇宙センターから国立研究所第一ラボへの移動です。これは宇宙センター長官のIDが使われていますが、ヒルダ・カールランピが行ったと考えられます」
ヒルダか協力者のどちらかということだ。
「その次がメジスラナクアへの燃料補給です。こちらも宇宙センター長官のIDが使われていることから同一人物の仕業と考えられます」
「宇宙センター長官本人ということはないのか?」
軍の情報局のパウリ・ サヴィカンナスが無遠慮に訊いた。
「長官の関与はないと考えている」
ヨアキムは感情を込めずにいった。関与はないと考えているが強く否定するつもりもない。
「そして本日、セギオラの移送中に国立研究所第一ラボで爆発が起こっています。まだ正確な原因は判明していませんが、ヘルマンニ・カイラモという研究者が犠牲になっています。実験中だったようですが、爆発が実験によるものなのかは現時点で不明です」
「第三ラボで爆発するような実験があるのか?」
第三ラボは主に情報工学を扱っている。爆発物とはあまり結びつかない。
「どうですか?」
ウルマスが第三ラボの代表に回答を促す。
「政府主導の研究なので内容は明かせませんが、カイラモの実験は多少の危険を伴うものです。爆発もあり得るかもしれません」
第三ラボの代表が答えると、質問者は明らかに不満な表情をした。隠匿されたのが気に入らないのだろう。
「問題は実験内容ではなく爆発の原因です。事故ならともかく、故意であれば本件との関連が疑われます」
「まあ、今はそれでいい」
質問者は納得していない様子だった。
ウルマスは説明を続けた。
「その爆発の直後に、ヒルダ・カールランピが運転手に発砲してコンテナ車で逃亡しました。運転手はその後、毒で自死しているので、協力者と断定して良いと思います」
「その運転手は何者なんだ?」
「ヒルダ・カールランピの研究助手です」
「それなら研究施設の人間か。ほかにも協力者はいないのか?」
「研究施設の人間は全員聞き取り調査中です。情報局でも経歴や最近の行動を調査しています」
ウルマスは情報局のパウリに視線を移した。
「現時点では何も出ていない」
パウリが答えた。
「そのあとは第一ラボから飛行した輸送機が——」
ウルマスの言葉は、慌ただしく会議室に入ってきた人物により遮られた。入ってきたのはウルマスと同じ安全保障局の者だった。
「宇宙センター長官オリヴェル・イソニエミが逃亡の末に死亡しました」




