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周囲は誤解してますが、お義姉様は虐げられヒロインではありません  作者: 永久保セツナ


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第5話 秘密の日記

 その日の授業が終わり、放課後。

 学園の玄関から外を見やると、雨が降っていた。

 ゲリラ豪雨というほどでもないが、小雨というほど優しい雨でもない。

 そんな雨の中を歩いている人物を見て、麗華はぎょっとした。


「お義姉様! 何をしてらっしゃるの!?」


 小夜子が雨の中、傘もささずに下校しようとしていたのである。

 麗華は慌てて折り畳み傘を広げ、彼女を追いかけると、その手首を強くつかんだ。


「お義姉様、折り畳み傘はどうしたのです? 今朝、原磯(はらいそ)から渡されたでしょう?」


 原磯とは、鳳月家に仕えるメイドの名である。

 小夜子は制服も伊達メガネも雨に濡れそぼったまま、どこか心ここにあらず、といった感じでぼうっとしていた。


「傘……ああ、クラスメイトが傘を忘れて困っていたから、貸してしまったわ」


「それでお義姉様がずぶ濡れになってどうするのですか! ありえませんわ!」


 麗華は怒り口調で義姉の手を引き、強引に自分の傘の中に入れる。

 折り畳み傘は通常の傘に比べて小さく、肩と肩を密着させても二人で相合い傘をするには狭すぎるが、この際、仕方ないだろう。

 麗華は小夜子が傘に入れるように傾けて、自分の肩が濡れても構わないと割り切ることにした。

 校舎の玄関を出て、校門に至るまでにはイチョウの並木通りがあり、堅牢な門構えを出ると黒塗りの高級車が停まっている。


「小夜子様、麗華様、お迎えに上がりました」


 運転席から降りたのはメイド服姿の女、原磯であった。目付きが悪い眼鏡の女だが、義姉妹への忠誠は篤い。

 彼女が後部座席のドアを開けてくれたので、先に義姉を乗せ、奥に追いやると麗華も乗り込む。

 運転席に原磯が戻り、車を発進させた。


「助かったわ、原磯。この状態で下校は難しかったから」


「お嬢様方がお帰りになる前に間に合って良うございました」


 メイドは車を運転しながらルームミラー越しにちらりと小夜子を見る。

 小夜子は髪からしずくを垂らしたまま、それを自分で拭こうともしない。

 車の座席に水滴が吸い込まれていく。

 窓の外はザァッ……と雨足が強くなった音がして、通り過ぎる車のタイヤがこちらへ飛沫をかけてくる。麗華たちの乗っている車も同じように水たまりを走っているのだろう。


 屋敷に戻って、麗華はすぐにバスタオルを用意させた。

 自分よりも義姉を優先して、タオルで優しく彼女の身体を拭く。

 牛乳瓶の底だけくり抜いてレンズにしたような眼鏡は、もはや視界を鮮明にするという役目を放棄していたので外した。

 麗華が小夜子の髪をタオルで拭っている間、義姉は義妹を澄んだ湖のような目でじっと見つめている。

 その目に至近距離で見つめられると、麗華は内心鼓動が早まるのを感じていた。


「お義姉様、今度からはわたくしを置き去りにして先に帰ろうとしないでくださいまし」


「ごめん、麗ちゃん。私が傘を貸して帰れなかったら怒るかなって思って」


「お義姉様が濡れネズミになる方が怒りますわ。わたくしが傘を持っておりますから、次は一緒に帰りましょう。原磯だって、呼べば迎えに来るのですから」


 そんな会話をしながら、義姉の髪や身体を丁寧に拭っていく。

 原磯が「お風呂を沸かしました」と報告に来たので、麗華は小夜子を先にお風呂に入らせた。


 翌日、麗華の恐れていたことが起こってしまう。

 小夜子が風邪を引いて、高熱を出し、寝込んでしまったのだ。


「原磯、どうしましょう」


「落ち着いてください、麗華お嬢様。私が看病いたしますので、御身は学校に……」


「いえ、わたくしもお義姉様のお世話をしたいわ。このまま登校しても授業に身が入りません」


 麗華の強い要望で、原磯と二人がかりで小夜子の看病をすることになった。

 今はお嬢様の身とはいえ、麗華は元庶民である。風邪に倒れた義姉の看病で何をしたらいいかは、おおむねわかる。

 原磯がおかゆを作っている間に、麗華は氷枕を用意し、義姉を起こさないように気をつけながら、額に冷やした濡れタオルをそっと置いた。


「お義姉様……こんなにつらそうな顔をされて、おいたわしい……」


 熱で赤く顔を火照らせた小夜子を見て表情を曇らせた麗華は、ふとベッドの下になにかが落ちているのを発見する。

 ノート、のようだ。表紙には何も書かれていない。ただ、ページのよれなどから、新品でないことはわかった。

 小夜子の部屋は乱雑に散らかっている。身だしなみと同様、彼女は実の母親がいなくなってから、整理整頓というものをすっかり忘れてしまったようだった。床には足の踏み場もなく、麗華やメイドたちが部屋を掃除しようとしても、小夜子は頑なに拒否している。

 授業用のノートだろうか、と思いながら、それを何気なくめくると、そこには義姉の日記らしい記述があり、麗華はドキッとした。


 ――これは、わたくしが読んではいけない、お義姉様の秘密だわ。


 しかし、好奇心に抗えず、彼女の指はページをめくってしまう。

 その内容を見た義妹は、衝撃を受けて日記を危うく床に取り落としそうになった。


『◯月×日 虎太郎(こたろう)さんが私に贈り物をくださった。花をいただけるのは嬉しいけれど、花はすぐにしおれてしまう。もっと形に残るものがいいな、と思いつつ、彼の気持ちをないがしろにできない』


 虎太郎、という男性を、麗華は知らない。しかも、日記の内容からして、親密な様子が見て取れる。ノートを持つ手がプルプルと震えているのを感じた。


 ふと、背後から「ん……」と義姉のうなり声が聞こえて、目を覚ます気配を感じた麗華は、慌てて日記を元の場所、ベッドの下に戻す。


「麗ちゃん……? 私……」


「お義姉様、目を覚まされたのですね。ひどい高熱を出していて心配いたしましたわ」


 麗華は笑顔を作ったが、ぎこちないのが自分でもわかった。


 ――あの虎太郎という男は誰? お義姉様とどういう関係なの?


 疑問と嫉妬に頭の中を支配された義妹は、その男性について調べようと密かに決意したのである。

 おかゆを持ってやってきた原磯が小夜子に食べさせたあと、麗華はおかゆを片付けるために厨房に下がったメイドについていった。


「原磯、『虎太郎』という名の男を知っている?」


「あら、小夜子お嬢様からお聞きになったのですか?」


 原磯はあっさりと虎太郎についての話を聞かせてくれる。

 その男性の情報を得た麗華の嫉妬は膨れ上がるばかりであった……。

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