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周囲は誤解してますが、お義姉様は虐げられヒロインではありません  作者: 永久保セツナ


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第12話 一世一代の告白を

 麗華と虎太郎の剣呑な雰囲気でのお茶会ののち、彼女は義姉の小夜子に呼び出された。

 彼女の部屋に着くなり、小夜子は麗華に尋ねる。


「麗ちゃん、虎太郎さんを困らせたんですって?」


「あの男が告げ口でもしたんですの?」


 麗華がふいっと顔を背ければ、右耳に小夜子のため息が聞こえた。

 自分が義姉を苦労させている、という事実が嫌でたまらない。


「虎太郎さんを困らせるなら、私でも無視はできないわ。どうにかしてあの人と仲良くできない?」


「わたくしには無理でしょうね」


「どうして? 虎太郎さん、麗ちゃんになにか悪いことした?」


 そう問いただされると弱かった。事実、虎太郎はまだ麗華には何もしていないのだから。

 あの男に言われたセリフが麗華の中でフラッシュバックしている。


 ――俺達の幸せのために、どうしたら俺を鳳月家の一員として認めてくれるか、教えてくれないかな。


 ――麗華さん、その辺、よく考えておいてよ。どうしたら俺が鳳月家の人間にふさわしくなれるのか。君が言い出したことだからね。


 麗華は思い出した途端、反射的に唇を噛んだ。

 小夜子と虎太郎の幸せの中には、麗華の幸せは含まれていない。

 なぜなら、小夜子が自分以外の誰かと結ばれる、そのことがすなわち麗華の不幸に繋がるからだ。

 ずっと自分の心に蓋をしてきたが、なんということはない。

 麗華は小夜子を誰にもとられたくないのである。義理とは言え、姉妹だから諦めよう、で片付くような半端な気持ちで小夜子を想ってはいなかった。

 それに改めて気付くと、今までの自分が愚か者に思える。

 もっと早くに気持ちを伝えて、駄目なら駄目でまだ傷は浅く済んだのかもしれない。

 今となっては、胸に空いた虚ろな傷穴がじくじくと痛みを訴えているような気分になる。


「……申し訳ありません。虎太郎さんとは、仲良くなれそうにありませんわ」


「そう……」


 小夜子は肩を落としていた。義姉にそんな顔をさせたいわけではないのに、諦めきれない自分が恨めしい。


「ごめんなさい、お義姉様」


「ううん、誰でも反りが合わない相手っているわよね。それは仕方ないわ」


 小夜子は眉尻を下げて微笑んだあと、「話は変わるのだけど」とテーブルの上に置いていたノートパソコンを引き寄せた。


「麗ちゃんってお裁縫得意よね。ぬいぐるみって……作れたりする?」


「ぬいぐるみ、ですか? ものによりますが」


 麗華は手先が器用で裁縫や刺繍を趣味としている。

 反対に、小夜子はアナログでの作業は壊滅的だが、デジタルでの創作活動に秀でていた。

 デジタル限定ではあるが、イラスト・マンガに小説、作曲から動画作成、ゲーム制作までなんでもこなす。

 その創作能力を活かし、二次元の推しを崇めていた。

 麗華としては画面の中にしか存在しない人間であろうと小夜子の愛を一身に受けられる相手に嫉妬はしていたが、現状、虎太郎のように実際に小夜子に手を出さないだけ、まだマシであろう。

 小夜子のノートパソコンの画面には、何かの型紙が映っている。


青嵐(せいらん)くんのぬいぐるみがほしいのだけど、全然販売されないから自分で作るしかないの。でも私、手芸が完全にダメでしょう? 麗ちゃんに作ってほしくて……」


 青嵐とは、小夜子の推し、らしい。麗華には詳しいことはわからないが、なんらかのアイドル育成ゲームのキャラクターらしかった。画像の服を見る限り、かなり細かい装飾が施されており、これは義姉には制作不可能だろう、と一瞬で察する。同時に、自分であれば少しばかり苦労はするだろうが、作れないことはない、と目算した。しかし、疑問はあった。


「どうしてわたくしに? 原磯だって手先は器用な方でしょう?」


 純粋な疑問である。むしろ原磯のほうが自分よりもっと綺麗に作れるはずだ。

 それに対し、小夜子は優しい笑みを浮かべていた。


「それはね、麗ちゃんが作ってくれたもののほうが大事に扱えるからよ」


 小夜子は麗華の手を取り、その手のひらを人差し指でなぞる。


「麗ちゃんの手から生み出されるものが好き。昔、私がお願いして作ってもらったテディベア、今でも大切にしてるのよ」


 反射的にベッドを見ると、枕の脇に、何年前に作ったかわからない、くまのぬいぐるみが置かれていた。そのぬいぐるみは、小夜子がどんなに部屋を散らかしていても、それだけは失くさず、そこが定位置になっているものである。その事実に思い至った途端、麗華の胸が熱くなった。


「お義姉様は、わたくしのことを大切に思ってくださるのですか?」


「当たり前でしょう。私の大事な麗ちゃんだもの」


「わたくしも、お義姉様のことをお慕いしております」


 一度口から飛び出してしまえば、もう止められない。

 麗華は熱に浮かされたように目を潤めて、まくしたてるように義姉への愛情をさらけ出してしまう。


「初めて出逢ったときから、ずっとお義姉様のことを想い続け、あなたのことだけを見つめてまいりました。わたくしはお義姉様さえいてくだされば他に何もいらないのです。あなたもわたくしのことだけ見てくださればいいのにと、どれだけ願ったか、お義姉様にはわからないでしょう。だから、わたくしは虎太郎さんとは分かり合えないのです。わたくしからお義姉様を奪おうとする男どもと和解できるはずがありません」


 怒涛のような麗華の一世一代の告白に、小夜子は目をパチパチさせてから、優しく微笑んだ。


「麗ちゃんは、本当に私のことが大好きなのね。私も、麗ちゃんみたいな自慢の義妹(いもうと)がいてくれて、とても嬉しいわ」


 ガラガラと、麗華は足元が崩れるような感覚に襲われる。

 ああ、この人は何もわかっていない。私の恋情など、何も――!


「ちが、違うのです、お義姉様……」


「でも、いつかは虎太郎さんと少しでも仲良くしてくれると嬉しいわ。これから虎太郎さんは麗ちゃんのお義兄さんになるんだから」


 小夜子と話が通じない、という感覚が、怖かった。

 彼女はあくまで、麗華の想いを『姉妹愛』だと捉えていて、いくら弁解しようとしても、義姉は理解しようとしない。

 麗華はさらなる絶望の淵に追いやられていった。

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