表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月下の反逆者 ~王太子に逆らった青年と断罪された令嬢の逃避行~  作者: ぱる子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/89

第15話 ロイドの提案②

 ロイドの提案により、王都へ戻るという選択肢が一気に現実味を帯びてきた。せっかく彼が再訪してくれたこの機会を逃すまいと、俺たちは屋敷の応接室に再び集まる。そこには俺とカトレア、そしてロイドの三人が向かい合う形だ。


「まず、俺にも限界はあるけど、いくつかの貴族に手を回して交渉できるかもしれない。彼らは王太子の取り巻きではないし、殿下のやり方に疑問を持ってる部分もあるんだ」


 ロイドはそう切り出し、静かに話を続ける。いつもながら落ち着いた物腰で、真剣な空気を漂わせているが、その瞳の奥になんとなく影があるようにも見えた。俺はちらりとカトレアを見やると、彼女は緊張気味に眉を寄せている。


「しかし、王都という危険地帯へ行くことには変わりない。捕まるリスクもあるし、殿下に何か不当な処分を受ける可能性も高い。やはり危険極まりないよ」


「ええ、わたしも怖いわ。でも、ロイドの言葉を信じるしかない状況よね。こちらに籠っていても何も変わらないんだから」


 カトレアがそう言うと、ロイドは小さく頷く。

「そう、殿下以外の有力者への直談判ができれば、完全に味方にはならなくても“殿下のやり方を見直せ”という声は上げられる。正式な場で話を聞いてもらえれば、裁判所などを使って争うチャンスも生まれるだろう」


「裁判所……それはつまり、殿下の行動が不当だと訴えるということ?」


「うん。王家に喧嘩を売る形になるから大きな賭けだ。でも、何もしないで殿下がひとり勝ちするのを待つよりはマシだろう。実際にそこまでたどり着けるかはわからないけどね」


 たどり着けるか。ロイドの口ぶりが淡々としている分、その危険度が余計に突き刺さる。王家の裁判所で殿下と直に争うことになるかもしれないのだ。それは、殿下にとっても面倒だろうから、逆に俺たちを拘束するなり暗殺するなりを検討する可能性だって否定できない。


「……殿下は自身を脅かす存在には容赦しないと思うよ。しかもカトレアはかつて婚約者だったんだから、殿下の威厳を傷つけるには十分な材料だ。正面からぶつかって大丈夫なのか?」


「大丈夫か、と言われると保証はできない。俺だってそれほど大きな力があるわけじゃない。ただ、一縷の望みをかけるなら、この道しかないんじゃないかな」


 ロイドが苦渋の表情で語ると、カトレアはぎこちなく唇をかむ。あの王都を再び踏むのは相当な恐怖だろう。それでも、かすかな決意の光が彼女の瞳に宿っているのがわかる。


「正直、こういう“裁きの場”は王家に有利に運ぶのが普通よ。私も政略結婚を押し付けられていたころ、父や兄がそういう仕組みに苦しんでいたのを見たから……」


「うん、だから覚悟がいる。もし殿下から何か不当な扱いを受けても、そこで負けたらすべて終わりだし。領地を守りたいなら、これが最後のチャンスかもしれないね」


 ロイドの重い言葉に、俺は大きく息をつく。領地を置いていくのも不安だし、留守中に殿下が強行策を取れば、一瞬で潰されるかもしれない。もともと殿下の圧力が強まっている現状、兵力を動員して攻め込まれるリスクもある。


「……領民を置いていくのは不安だ。でも、こうして何も動かずにいたら、いつかは殿下の手で全部が崩されるのを待つだけになる。だったら、勝算が低くても自分から攻めに行くしかないのか」


「私が実家に声をかけられればいいけど、あの状況じゃ父たちも動きづらいでしょうし……あなたに付き添うしか、私には選択肢がないわ」


「僕も少し手を貸すよ。王都で味方できる人間に声をかけるし、エレナさんとの連携も取れるよう頑張る。ただ、万全を期すにはまだ時間が必要だ。すぐに出発しても危険が大きすぎる」


「そうだろうな……なら、準備期間を設けてから王都へ行こう。いつになるかは未定だけど、あまり先延ばしにしても殿下の圧力が続くだけだし」


 そうして話を詰めていくうちに、カトレアが小さく頷く。苦い表情のままではあるが、何か心を決めたようだ。


「……やるしかない。昼間のビラやデマを見てもわかるけど、放っておけば私たちが一方的に悪者にされ続ける。だったら私が王都で直接言うのよ。“あれは殿下の捏造だ”って」


「わたし、君がそんな危険を冒すのを望んでるわけじゃないんだけど……でも、君にとっても悔しいまま終わるのは嫌だろう」


「ええ。王都を追われるように出てきたのに、何もできずこの領地を巻き込んで沈んでいくなんて嫌すぎるもの」


「二人とも、しっかり意志が固まってるみたいで何より。じゃあ、俺のほうで“少しずつ根回し”を始めてみるよ。危険を最小限に抑えるためには、いくつかの貴族に裏から話を通しておく必要があるから」


 ロイドがそう言って小さく目を伏せる。ほんの一瞬、彼の視線が泳いだようにも見えたが、気のせいかもしれない。俺はそれよりも提案の内容に意識を向けることにした。


「頼りにしてる。おまえのコネクションは貴重だからな。捕まらないように気をつけろよ」


「はは、そっちこそ気をつけてくれ。俺がある程度準備を整えたらまた連絡する。それから本格的に出発のスケジュールを組もう」


「分かった。じゃあこの辺りで一旦解散ということで……」


 そう言いかけたところへ、カトレアが「アレン、ちょっといい?」と声をかける。俺とロイドが顔を見合わせると、彼女は恥ずかしそうに視線をそらす。


「その……昼間も言ったけれど、王都は私にとっても地獄のような場所だったわ。戻りたくない気持ちもある。でも、あのまま捨てられた女として終わるわけにはいかない。……だから、何があっても一緒にいてよ。私を途中で見捨てるとか、そんなの許さないんだから」


「カトレア……もちろん、見捨てるわけない。最初に庇うって決めた時から、最後まで守るつもりだ。昼間みたいに衝突することもあるかもしれないけど、それでも一緒に乗り越えよう」


「わかったわ。ありがとう」


 そのやり取りを見て、ロイドは苦笑交じりに目をそらす。

「何だか、二人の絆がますます強くなってるみたいだな。俺は友人として、ちょっと複雑な気持ちだけど……ま、いいか」


「うるさいわね。別にあなただけが複雑なわけじゃないでしょう?」


「はいはい、わかった。とにかく、王都へ乗り込むという壮大な計画が決まったわけだ。死なないでくれよ、ほんとに」


 ロイドの軽口に俺もカトレアも自然と笑みをこぼす。でも、その笑いの裏には強い緊張と覚悟が隠れている。王都は危険地帯――それは間違いない事実だ。逮捕の危険があるし、万が一失敗すれば領民を置いていく不安も現実のものになる。


「……そうだ、領民のことも考えないとな。俺がいなくなる間、どうしても不安が残る。殿下が攻め込むかもしれないし」


「そこは使用人や家令を信頼して、必要な警備を固めるしかないんじゃないかな。エレナさんも何か手伝ってくれるかもしれないしね」


「うん、それも含めて準備に時間がかかる。リスクは限りなく大きいけど、乗り越えられたときのリターンも大きい……そういうことだな」


 長くなった話を一旦まとめ、ロイドは立ち上がる。カトレアも「では私も……」と言って席を立つ。俺は自然と立ち上がり、二人を見回しながら心の中で決意を固める。いまは“背水の陣”だ。失敗すればすべてを失うかもしれないが、成功すれば殿下の独裁に一矢報いることができる。


「よし……わかった。王都へ行こう。リスクは山ほどあるけど、もう後戻りはできない。俺もそれを覚悟して、殿下に正面から立ち向かう」


「ありがとう、アレン。わたしも頑張る。これで何とか名誉を取り戻すチャンスがあるなら、私だってか弱いお姫様のままで終わりたくないの」


「じゃあ決まりだね。具体的な段取りは後日連絡するから、それまで領地のことを整えておいてくれよ。あんまり無茶はするな」


 ロイドの言葉に頷き合う俺とカトレア。互いの目には不安が色濃いが、それを押しのける強い意志も宿っている。もはや二人の関係は、ただの保護者と被保護者ではない。支え合うパートナーとして、この王太子相手に最後の勝負を挑むのだ。


 こうして、王都への再突入という大胆な計画が具体的に動き始める。もちろん、不安は尽きないし、危険度も高い。だが、進まなければ未来はない。渦中のクレストン領を守りきるため、そしてカトレアの名誉を取り戻すため――俺たちはこの道を選ぶ。

 命を賭けた賭けの先には、いったい何が待っているのか。まだ暗い霧の中だが、カトレアの決意と俺の責任感が合わさるとき、王都に大きな波紋が広がるだろう――そんな予感を胸に、俺はロイドと握手を交わした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ