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『アポリア・マギア・コード』 第八章:鏡の彼方、沈黙の中で

挿絵(By みてみん)


ローマ、聖務局地下。

構造式の中心座標。

ノアは“自分自身”の影と対峙していた。

目の前の鏡に映っていたのは、もう一人の彼――ノアΩ。

だがそれは単なる反転映像ではない。

あまりに静かで、あまりに“完結している”。

「……この存在、自己完結してる」

「矛盾も、葛藤もない。まるで……言葉になる前の思考だ」

ヴェロニカは、分析端末を確認しながら呟いた。

「それが“鍵”なのよ、ノア。あなたの未定義な部分が、Ωの扉を開く最後の構成要素になる。」

ノアは静かに応える。

「つまり、未定義なままの俺が“在る”ことが、Protocol Omegaの起動条件……?」

「そう。人間は通常、自分を定義しようとする。職業で、経歴で、罪で、祈りで……。

でもあなたは、沈黙した。語らなかった。

その沈黙が“観測不能な変数”となって、鍵になったの。」

ノアの記憶がフラッシュバックする。

仲間の死。

燃え上がる教会。

デルタの断末魔。

そして、自分だけが生き残ったあの夜――

だが、その記憶さえも曖昧だった。

「なぜ……俺は、記憶を“封印”していた?」

「あの日……本当に何があった?」

ノアΩが、鏡の中で静かに口を開いた。

「すべての問いは“構造”によって裁かれる。

君が沈黙したのは、語ることを拒否したからではない。

“語れないように設計されていた”からだ。」

「設計……?」

「君の記憶は、“観測者”を欺くために再構成されていた。

それが、Protocol Alpha。」

「Protocol……Alpha? それが始まり?」 ノアが呟く。

ヴェロニカの目が見開かれる。

「ええ。私たちは“終わり”だと思っていたΩの構造が、実は“観測された始まり”だったことを、いま知ったの。」

ノアΩが最後に言った。

「君が扉を開くとき、神は現れない。

代わりに、“観測者の不在”だけが残る。」

ノアは鏡に向かって歩み出す。

「だったら、俺が“欠けたままの構造”であることを受け入れる。」

鏡の表面に手を伸ばす。

その瞬間、全身に情報の奔流が走った。

数千の言語、数万の祈り、無数の死と誕生の記録が、ノアの意識を突き抜ける。

——Ω構造体、起動。

——扉、開放。

——沈黙、崩壊。

 

ヴェロニカが叫んだ。

「ノア!!」

 

だが、そこにいたのはもう“ノア”ではなかった。

それは、名を持たぬ観測者。

あらゆる構造の終端にして、再構成の起点――

ノアΩ、目覚める。



※本作およびその世界観、登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨など)は、シニフィアンアポリア委員会により創出・管理されたオリジナル作品です。無断転用や類似作品の公開はご遠慮ください。

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