表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/16

『アポリア・マギア・コード』 第九章:知の錬金炉(バチカン・地底書庫)

挿絵(By みてみん)


「科学とは、かつての“禁術”が制度化されたものに過ぎない。」

その言葉を最初に発したのは、ノアたちに情報を提供してくれた、聖務省の古文書管理官ドミニコ司書だった。

彼が案内したのは、ローマの地下深く――“ヴァチカン・セクター13”、通称「錬金炉」と呼ばれる封印書庫だった。

 

厚さ30センチの鉛扉が開くと、空気が変わった。

そこは紙の匂いではなく、**“記憶の腐敗臭”**が漂う空間だった。

「ここにある文書は、正式には存在しない。“科学史”に含まれない歴史――だがすべて“科学者たちの本音”が記されている。」

ノアとヴェロニカは、その書架の一冊を手に取った。

『プリンキピア(未発表断章)――I.ニュートン』

〈全ての物質は、“エーテル”と“命名”によって繋がれている〉

〈魂の重さとは、引力の式に織り込まれているが、それを語る言葉がまだ存在しない〉

「……これは、錬金術だ」

ヴェロニカが呟いた。

「“魂と力学”を結びつけようとしていたのね……教科書には絶対に載らないわ。」

 

別の文献を開く。

『エジソン私記・死者通信装置に関する実験記録』

〈音の可視化とは、死者の語りを“科学”に翻訳すること〉

〈魂は電気だ。だが人間には周波数が合わない〉

 

「彼らは皆、現実の“深層”に触れようとしていた。

数式で神を解体し、光子で霊を照らそうとした」

ノアは言う。

 

「……でも、それは“科学”としてではなく、“禁術”として封印された」

ドミニコ司書は深く頷いた。

「そして、それが最も発展していたのが――“マギア・コード”だ」

 

——Protocol Omega の発端は、科学ではなかった。

それは、“科学と魔術の結婚”だった。

構造式《α→Ω》は、**錬金術の四段階(黒化・白化・黄化・赤化)**を再構成したものであり、

•黒化(Nigredo)=過去の否定、自己の分解

•白化(Albedo)=記憶の再定義

•黄化(Citrinitas)=魂の構造への接続

•赤化(Rubedo)=存在の“完全なる言語”への変換

これが、“神のいない創世式”だった。

 

ノアはそのとき理解した。

「科学とは、魂を失った魔術だ。

だが“マギア・コード”は、魂を回収する“構造”なんだ」

 

部屋の奥にひとつのケースがあった。

そこに封印されていたのは、ニュートンの遺稿の写本と、**未知の言語で書かれた“観測不能の書”**だった。

ヴェロニカが震える声で言った。

「……この言語、読める。読めるけど、“意味”が頭の中に届かない」

「それが“構造の臨界点”だ。名前を持たない“知”だ」

 

そのとき、部屋の照明がわずかに明滅した。

ノアの手元の装置が、勝手に構造式を描き始めた。

ALBEDO → RUBEDO

EX NIHILO:記号からの生成

 

——ノアの脳内に、ひとつの言葉が響いた。

「最後の科学者は、最初の魔術師に戻る」




※本作およびその世界観、登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨など)は、シニフィアンアポリア委員会により創出・管理されたオリジナル作品です。無断転用や類似作品の公開はご遠慮ください。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ