女なんてみんな同じだ、という主張からの円満婚約解消する方法
「女なんてみんな同じだろ。
顔と地位と金にしか興味がない。贅沢して遊んで暮らしたい。あるいは、男を連れ歩いて見せびらかしたい」
という言葉はもしそう思っていても言わないものである。
それも、侯爵令嬢の誕生日に呼ばれて、彼女の婚約者がそう言う。
場が凍るというものではない。侯爵閣下も侯爵夫人も表情を引きつらせている。それを言ったのが、王子殿下でなければ婚約破棄を突き付けられ、叩き出され案件だ。
あー、はいはい、とでも言いたげな侯爵令嬢がそう言われたのは一度ではないことを物語っていた。
「一つ、訂正させていただいてよろしいですか?」
そう声が響く。それも隣から。
は? と見れば僕の婚約者がしゅたっと挙手していた。学校か! じゃなくて、手を降ろさせようとしたけど遅かった。
見つかっている。それどころか会場での注目の的だ。
「なんだ。君は」
「ご令嬢の側近、まあ、腰ぎんちゃくをしておりますマリオンと申します。
レイラさまは、もう、地位をお持ちです。侯爵家の直系であるということはそれほどのことです。また、婚姻してもご実家からの支援はあるでしょうから、財力の心配もございません。
それから、レイラさまのお好みは、美少年です。失礼ですが、殿下は年増、って男性でも言うんでしたっけ? 顔の好みの対象外です。顔が良かったのは、もう十年前までです。
ああ、二つも訂正してしまいました」
死ぬほど気まずい沈黙があった。
当のご令嬢レイラさまはあらぬ方を向いていた。ああ、そう、確かに孤児院によく行って遊ぶお姉さんだと聞いたな……。
気に入りの美少年がいたに違いない。
「贅沢は」
ショックで黙っていた殿下が、少し持ち直して問いかけてくる。
手心をという気持ちで隣を見たけど、そんなの気にしない元気いっぱいさがあった。引きずって出て行くべき?
ちょっとの迷いの間に彼女は口を開いてしまった。
「国の上澄みのお金持ちがみすぼらしい恰好しているわけにはいかないのでは?
殿下の服いくらするか知ってます? おそらく平民の一年分の収入を超えます。今回のために誂え、その後何回かは着るでしょうけどそれでおしまい。贅沢ですよね。庶民からしたら。
そのカフス一個で家建ちます。贅沢過ぎません?」
「これは、陛下から管理を任されている我が領土で採れたもので誂えたものだ」
「で?」
「で? とは?」
「売れば領地が潤うし、臣民も贅沢できるのに、なんで、つけてるんです?」
そう聞かれて黙った。
想定外のほうから殴られたんだろう。おまえ、贅沢しているだろ、してません、みたいな応酬は想定していただろうけど。あなたの格好ってとっても贅沢! とやり返されるとは想定しようもない。
なお、この方向の話はちょっと穴があるが、それに気がつかれる前にマリオンはあたりをきょろきょろと見回した。誰かを見つけて頷いている。
「そもそもの話です。
女とひとくくりにされるのは不愉快です。ねぇ、フィロ様!」
そう声をかけた先は侯爵夫人だ。一瞬戸惑っていたが、にこやかな微笑みにすぐ化けた。怖い。
「その話で言えば、私に求婚の列を作った男というのは顔と爵位しか見てないと言えますわね」
侯爵家の一人娘。宝玉と例えられた美貌の淑女である。
「お、俺はそんなかんじじゃ」
「ええ、違うから拾ったんです。
ほんとあの頃は」
真顔になって舌打ちした。
……よほど嫌な目にあったようだ。
「わかりますわよ。レーゼ殿下。意に沿わないやつらに群がられるのは、不愉快の極み。
でもね。
そこに男女の別はございません」
「どういう意味だ」
「殿下の取り巻きでいらっしゃる方々は、殿下のお金と地位と栄光が目的ではないんですか?」
マリオンは無邪気に問う。
……いや、それさ……。
殿下は、虚を衝かれたように黙った。
王族だからとつけられた側近候補との付き合いばかりの殿下。王家から問題のある人間とつき合わせるわけにはいかないという話はわかる。わりとあからさまに親の都合でついてます、感がある。
王族特有というわけではなく他の殿下は他の階級のものとも交流を持つし、親友などということもあるのとはちょっと違う。
なんというか、肯定要員で、嫌われるようなことは一切しない方。
ただ、レーゼ殿下自体は自制のある優秀な方だから問題にはなっていなかった、んだけど。女性に対しては問題発言があったのか、というのが発覚したのが今だろう。
元々夜会にもあまり出ないほうだし……。
「君は、どうなんだ。侯爵家の娘に擦り寄って」
「ええ! もちろん!
レイラさまはとてもお美しい。見た目だけでもなく、心根の優しさがあります。私がうっかり落とした指輪を一緒に探してくださいましたし、帰りが遅くなったのも、自分が長話につき合わせたと両親に言ってくださいました。もちろん、あとでじつはと怒られましたが、その気持ちは大変麗しく、私が崇めるに最高の女神なのです。
また、趣味もよろしくて、新しいものはひとまず試してみる好奇心もあります。古いものを古臭いというのではなく、新しい解釈も見出そうとする柔軟さも持ち合わせており、最高に才女です。
それに乗馬をしている姿は絵に残すべき至高」
「ま、マリオン! そんなことないの! やめて、はずかしい」
当のレイラ嬢が止めた。顔が真っ赤だ。
マリオンはそんなレイラ嬢のことをそういう謙遜するところも素敵ですと追撃していた。
我が婚約者の気持ちというのはお慕い申し上げているを超えた信仰に近い。
「そんなすごいレイラさまを妻に迎えられるのに、皆と同じというのは、冒涜です」
僕は我が婚約者が、不敬罪でしょっ引かれないか心配だ。
「そ、そうだろうか」
混乱したような表情なのが幸いだ。煙に巻くべき。
「マリオンはレイラさまを心底尊敬しているのです。
心配するあまり、余計なことまで言ってしまうのです。殿下にもいらっしゃいますよね。心酔する友が。その方と一緒です」
いい感じにまとめたつもりだった。
水を打ったように静まり返った。
…………。
い、いないの? マジで? むしろ、言ってはならないタブーだった? 暗黙の了解?
殿下は、黙って、そのまま、その場を去った。誰もついていくものはいない。
あっ、あっ、やっちゃった?
「……なかなかやるじゃない?」
マリオンがぽんと肩を叩いた。反対側の方をレイラ嬢に叩かれた。
「いい、トドメだったわ」
……。
あれぇ?
その後、レイラ嬢とレーゼ殿下の婚約は解消された。今まで悪かったという詫びの品を贈ってくるほどの円満解決。通常だったらありえない。
そこで僕は疑問に思った。
「ねぇ? きみたち、殿下を嵌めたの?」
あれは息の合った連係プレイだったりしたりなんか?
返答は、とても良い笑顔だった。




