残念王子と婚約破棄
学園の卒業パーティの席にて、婚約者で有るジェスタン皇太子に呼び止められるモルガーヌ公爵令嬢。
交代のそばにはマリア男爵令嬢もおり何やら不穏な空気が流れていく。
「モルガーヌ・パイロクス! おまえに話がある!!」
ふう、やはりこの時に話を始めましたか。
学園の卒業パーティの会場、学園の生徒がそろい、そしてその親たちが集まっているこの場所、この時。
動かない状況を作り出して自分の意見を通すつもりなんでしょうね。
小賢しいというか、中途半端に優秀なんですよね皇太子殿下は。
まあ、小賢しいであって賢しこいわけでは無いのが残念なところなんだけど。
「あら、ジェスタン皇太子殿下、私に御用事でしょうか?」
「ああ、モルガーヌ公爵令嬢、我が婚約者殿よこれからのことでお前に言いたいことがある。」
白銀の髪に金色の瞳まさに見た目は王子様というにふさわしいんだけど、話すと残念臭が漂うのよねぇジャスタン殿下
これでも学園に入学するまでは...いえ隣に居るマリア様が入学するまでかしら、それまではまだましだったと思うんだけど。
マリア・ヘリオドール男爵令嬢。
学園の2回生私たちの一つ下ね。
王国南部の交易都市を取り仕切るヘリオドール男爵家の3女。
ヘリオドール男爵家は外国との交易を生業としているから他の貴族家からは生臭貴族だの金満貴族だのと嫌われている一家。
『貴族たる青い血は働くべからず、民を憂いて文化発展に努めるべし』なんていう格言を3代前のポンチョ陛下が仰ってから変な常識が確立しちゃったのよね。
貴族としては都合が良かったんでしょうね、なんと言っても自らは働かなくて良くなったわけだから。
とは言え、全ての貴族が働かないと王国は立ち行かないから王家を含めていくつかの貴族が陰に日なたに動くことでなんとか成り立っているのがこの国。
そういう意味だとヘリオドール男爵家は数少ない働ける一家。軽々に切り捨てるなんて出来ないのよね。
それにマリア様はどちらかというと被害者とも言えのよ。マリア様は経営、公益に関する成績はトップクラス。見た目はピンクブロンドの可愛らしいお方でおとなしい感じなんだけど芯はしっかりしているしかなりの努力家で頭も良い。
ジェスタン皇太子に目を付けられなければ普通に卒業して普通に誰かと結婚して家業を手伝っていたんでしょうね。
その証拠に今もジェスタン皇太子の隣で困ったような顔をして私を見ているわ。
殿下がねぇマリア様を一目見て一目惚れだってしつこく付きまとったのよね。
男爵令嬢の立場で皇太子の暴走を止めれるはずも無く、結局流されるままこんな状況に陥ったと言うわけね。
まあ、あそこまでイケメンにあからさまな好意を寄せられれば、憎からず思うようになるのは仕方が無いかなぁ。見た目と好きな人に対する態度だけは王子様だからね。
私も婚約者としてなんとか殿下の暴走を止めようと色々諫めたりしたんだけどね、結局止められなかったわけだから同罪かなぁ。
「モルガーヌ公爵令嬢、おまえとの婚『殿下、私からもお話をしたいことがございます。』ああ、なんだ」
「殿下、あなたとの婚約をこの場で解消させていただきます。
これは国王陛下もご存じの事で既に我がパイロクス公爵家とターフェアイト王家との間で協議が済んでおり、現時点で婚約解消の手続きを進ませていただいております。」
「ん、あ、こんやく、え?」
何という間抜け面かしら。自分が婚約解消を言い渡されるなんて考えても居なかったような顔ね。
というか、皇太子の立場で普通に仕事していればパイロクス公爵家と王家の動きなんて分かって当然なのに、この2年間公務をやってなかったことがモロバレね。
「はい、婚約解消です。
さすがに理由はおわかりですよね?
婚約者がいるにもかかわらず、そちらにおられるマリア様に懸想し公務をほったらかしにしてこの2年間遊び過ぎでございます。」
「マリア様との関係を遊び、もしくは愛妾として遇し、しっかり公務を行っていただければ問題なかったのですが...
さすがにやり過ぎです。体育館裏でいちゃいちゃ、保健室でいちゃいちゃ、空き教室でもやっておられましたね。
それも、マリア様のご都合も全く考えずに。いくつかの授業に出席できなくてマリア様お困りになられていましたよ。」
「な!!なんで知っている。
それにマリアも私を受け入れてくれた。
私はマリアとの間に真実の愛を見つけたのだ!!」
はい出ました、真実の愛。
自分の一方的な思いを愛だの恋だのと理由を付けて突走るのはちょっとね。
可愛らしい女の子がこれを言うのならまあ百歩譲って可愛いねで済ますことも出来ますが、よい年をした男それも皇太子、将来はこの国を背負って行く立場の人間がこれを言いますか。
「マリア様に受け入れていただいている、そう仰いますが、なるほど今は受け入れていただけているでしょう。
ですが、最初の時はそれはもうひどいものだったと聞いておりますよ。そもそも、男爵令嬢の立場で皇太子殿下に迫られて断れるとお思いで?
殿下に二人っきりで迫られたとき、マリア様はこれはもう無理だと諦められたそうですよ。」
「な、馬鹿な!
マリア、おまえは私を愛してくれているからあのとき受け入れてくれたんだよな。」
ああ、ここでマリア様に聞いちゃうか、いやこれは私の言い方がまずかったかも。失敗しちゃったかな。
「ジャスタン様。モルガーヌ様の仰っていることは真実でございます。
あのとき、ジャスタン様と二人っきりになってしまい私には受け入れる以外の選択肢はございませんでした。
正直なことを申しますと、家と王家とがこじれるようなら自害も考えた上で、この場ではジャスタン様を受け入れるしかないと判断致しました。」
いや、流石マリア様かっこいいですね。
状況が分かっている。今まで言えなかったこともこの段になったら言っても問題ないとちゃんと判断なさっておられる。
この方をジャスタン殿下に預けるのは少しもったいない気がしてきたわね。
「な、ではマリアは私のことは愛していないと、そう言うのか!!」
「いえ、あのときは正直流されたのは事実です。
ですが、今となってはジャスタン様のことをお慕い申し上げていることも真実でございます。
私のおなかには既にジャスタン様のお子も授かっているのですよ。
お慕いしていなければ、どこかで実家に帰っておりますよ。」
ちょっとまって、なんでここで爆弾落とすの。
もう子供が出来ている。うわーどうするの、ていうか良かったのか?
この流れなら既に子供が出来ていてもまあなんとかなるか。
「兄上。
ここからは、私の方から説明させていただきます。」
あら、ここでフィリップ殿下の登場ですか。
というか、フィリップ殿下先ほどからニヤニヤしながら出待ちしてましたよね。相変わらず性格悪いですね。
「フィリップか、どうしておまえが」
「はい、こうなってしまえば私の方から全てをご説明させていただくのが早いかと思いまして。」
「ん? 説明? 何か説明を聞かねばならぬようなことがあるのか?」
「はい、それでは、国王陛下よりのお言葉を伝えさせていただきます。
『ジャスタンとモルガーヌ公爵令嬢との婚約を解消する。同時にジャスタンの皇太子位を廃嫡するものとする。
代わりにフィリップを皇太子としモルガーヌ公爵令嬢と婚約するものとする。
ジャスタンとマリア・ヘリオドール男爵令嬢との婚姻を認め、ジャスタンをヘリオドール男爵家へ降下するものとする。』
良かったですね、兄上。
マリア嬢との結婚を認めていただけましたよ。
とは言え、ヘリオドール家は既に嫡男であるエミール殿がおられますから、兄上はマリア殿とヘリオドール家の持つ港町、確かベリルといいましたかそこの代官になる予定だそうですよ。」
「な、どういうことだ!!
廃嫡など私は聞いていないぞ!!」
ようやく本題に入りましたね。ジャスタン殿下もあれだけ無茶苦茶やっていたのだからこうなること位予想できなかったのかしら?
まあ、このままでは色々まずいと思った我がパイロクス家と王家、当事者の一人であるヘリオドール家の間で色々詰めて詰めた結果なんですよね。
実際には最終判断は私に委ねられていて、この席でも婚約破棄なんか言い出さずにしっかり反省して国を継ぐ覚悟を見せていただければこのまま廃嫡なしでという案も有ったのですけど、ほんと残念王子ですわね。
「聞いていないというか、兄上が公務をサボられていたのが悪いのでは無いですか。
結果として、私がわかりに公務にかり出されておりましたので、経緯は大体把握しております。
これは、王家とパイロクス公爵家、それとヘリオドール男爵家の三者でこの件をどう落ち着かせるかずっと話し合いをしてきた結果ですよ。」
「公務、う、あ、確かに公務を任せっきりにしたことはすまないと思っている。
で、3者で会合、どういうことだ、なぜ廃嫡という話になる。」
「ああ、兄上がマリア嬢に懸想して色々暴走を始めたじゃ無いですが、そうすると当然ですが、マリア嬢は実家であるヘリオドール男爵家に相談しますよね。
同時に兄上の婚約者であるモルガーヌ嬢も、というか、モルガーヌ嬢はしばらく様子見をされていましたよね。」
「ええまあ、王族が火遊びをするのは割とあることですから、火遊びを火遊びとして終わらせるのであればフォローをして、変な方に向かうならその対応をしなければと様子見をさせていただいておりました。
結果として変な方に言ったのでパイロクス公爵家として王家に連絡、対策を打たざるをえなくなったわけですが。」
「ああ、なるほど優秀ですね。
王母としてはかなり期待しております。」
王母ですか、まあ幼い頃より王妃になるために厳しい教育を受けてきたわけですから王族の旦那が遊ぶのもまあ血を絶やさない手段として許容できるよう教わってきてますしね。
「で、まあ、兄上の暴走がこれはもうだめだ、色々問題がありすぎるとなって3家で話し合いをもうけたわけですよ。
王家としては公爵家とのつながりをなくしたくない、次いでヘリオドール男爵家の交易という財源も無視できません。
それはもう、兄上を廃嫡してでも守りたい部分ですね。
パイロクス公爵家としては、モルガーヌ公爵令嬢のお気持ち次第と行った感じでしたね。王家とのつながりは欲しいが他の貴族家との軋轢を生みかねないので絶対では無いし令嬢がどうしたいか次第という感じですか。
ヘリオドール男爵家としては正直カンカンに怒ってましたよ。そらそうでしょう、愛娘を傷物にされお家騒動一歩手前に巻き込まれているんですよ。
最悪交易先の国を巻き込んで戦争も辞さないって雰囲気でしたね。」
「あら、戦争だなんて大げさな。我が家は懇意にしているお方に相談させていただいただけですよ。
あの方の一族も色々浮名を流されていると聞いておりますので。」
うわーマリア様も知っていたの、ということはヘリオドール家内でのマリア様の地位って結構高い?3女だからそれほどと思ってたんだけどこれはマリア様の評価を2段階くらい上げないとダメね。
「浮名ですか確かにルベライト帝国の方は色々変わった方が多いですからね。」
よりによってルベライト帝国かぁ完全な軍事国家じゃないの。
あぶな、丸く収めておかないとへたするとダーフェアイト王国無くなってたわよ。
「兄上、ということです。
パイクロス公爵家としてはモルガーヌ嬢にお任せ、ヘリオドール男爵家としてもマリア様におまかせ、王家としてはお二方の良いようにしてもらえればということに話が落ち着きました。
確かモルガーヌ嬢としては結婚まで兄上がおとなしくていればマリア嬢を第2婦人として二人で国をもり立てていく、もしおとなしく出来ないようなら兄上を切り捨てる。
マリア嬢としては、既にお子もおられるようですので兄上と二人で暮らせるのであれば後はどうでも良いと仰られましたので、何事も無ければそのまま、婚約破棄などの問題を起こすようなら兄上を廃嫡しマリア嬢とご結婚という話になっていたのですよ。」
「そ、そんな、なんでもっと早い段階で言ってくれなかったのだ。」
ああ、また責任転嫁ですが、その他責思考はそろそろやめておかないと成長できませんよ。
「ジャスタン様は私の話を一切聞いていただけないではありませんか。
私が何か言おうとすると、『私に任せておけ、私に任せておけば問題は無い、おまえはそこでおとなしくしていろ』
しか仰られませんし、何度かこのままではいけないとお話をしようとはしたのですよ、でもそのたびにおまえは黙っておけと」
「そうですね、私からも注意をするために何度かお会いしたい旨を伝えさせていただきましたが、その全てをお断りされまして」
私も何とかしようとはしたのよ、でも会おうとしても会ってくれない伝言で伝える内容でもないしひたすら逃げられたのよね。
この王子様、ああもう王子様じゃ無いのよね王家からは席を外すわけだから。
ほんと俺様系で人の言うこと聞きはしない。
今までは王子様だったから周りも遠慮して強くでれなかったけど、これからはそうはいかないでしょう。
というか、マリア様が手綱を握るでしょうからこれからはもう少しまともになれば良いんだけど。
「ジャスタン様、これからは一緒にベリルの代官として暮らしましょう。
これからは男爵家の代官としてですので今までような贅沢は出来ませんが
私とお腹の子供のために頑張ってくださいましね。」
マリア様良い笑顔だなぁ。色々貯まってたんでしょうね。もはや皇太子では無い只の夫ですからね言いたいことも言えますし二人で仲良く切り盛りしてもらいたいものだわ。
王子から婚約破棄を言い渡される話ってたくさん有るけど、令嬢の方から破棄したって良いよね。
という思いつきから書いてみました。
まあ、探せば同じネタ一杯有るんだろうなぁ