はじめまして。
僕は真鍋です、下の名前は最後に言います。よろしくお願いします。
僕は弟切高等学校でスクールカウンセラーというお仕事をしています。生徒さんのお悩みを聞く、場合によっては解決してあげるお仕事です。
僕は元々先生をしていましたが不慮の事故で記憶喪失になってしまいました。そんなときに校長先生のお陰でこの仕事をさせていただけることになりました。
給料はとても安いです、冷蔵庫を買うのに6ヶ月はかかります。教師より楽な仕事だから仕方ないとよく言われます。
だけど僕は困りません。慰謝料がたくさんもらえたのでお金はたくさんあります。
9月12日、今日は1年2組の菊池さんが来てくれました。菊池さんは出席番号8番、僕が事故の前に顧問をしていた陸上部のマネージャーさんです。みんなは僕たちのことをとても仲の良い二人だったとおっしゃっていました。
ですが僕の事故にショックを受けてしまいマネージャーはやめてしまったみたいです。因果関係がよくわからないですが、そこはどうでもいいことです。
今日は何を話しに来たのでしょうか。恋の悩み、おこづかい、友達との関係。僕が失ったものを菊池さんは持っています。だから僕はできるだけ力になってあげたいです。
「真鍋先生、お久しぶり……です」
「はい、1ヶ月ぶりです。43日ぶり、夏休み以来ですね」
「元気そうで嬉しいです。あの日からお見舞いにもいかず、戻ってきてもなかなか会いに来なくて……本当にすいません」
「大丈夫です、菊池さんのことは忘れていましたので傷ついてはいません」
それを言うと菊池さんは少しうつむいてしまいました。なにか悲しいことでも思い出してしまったのでしょうか。
「その、前にも質問したことですがいいですか?」
「大丈夫です。忘れているので」
「なぜ昼間に星は見えないのでしょうか? その、おかしいと思いませんか?」
「おかしくありません。星の光はとても弱いので昼間には見えないんです」
街灯や太陽で明るいので星の光は昼間に見えないんです。夜になると日が沈むので見えるようになって、とてもキレイに見えるんです。
ですがそう説明すると途端に菊池さんは悲しそうな顔になりました。
「前の真鍋先生はその……そうだな!じゃあ今日はみんなで学校に泊まって夜空を見よう!……とおっしゃっていたので……」
「そうなんですか。違っていてすみません」
「あっ……いや、謝ってほしかったわけではなく……ごめんなさい」
なぜか菊池さんは謝ってしまいました。これは大変です、お悩みを聞く仕事なのに菊池さんをさらに悩ませてしまいました。
「大丈夫です、気にしていません。前にも高梨さんに前と違うと言われました」
「あっ……そうなんですか」
高梨さんの名前を言ったとき、菊池さんの顔がさらに悲しそうな顔になりました。もしかして喧嘩しちゃったのでしょうか。
だとしたらとても大変なことです。ですが相談されていないことは解決できません。
「すいませーん!真鍋先生いますかー!?」
「山岡さん、こんにちは。悩み事は何ですか?」
「いやー、実はちょっとハズいんですけどー……恋愛の話になっちゃうんですけどー……」
「なるほど、それは大変です。一緒に解決策を考えましょう」
「……えっ」
なぜか菊池さんが驚いた声をあげました。何かあったのでしょうか?
「どうかしましたか?」
「な、なんでもないです。気にしないでください」
「はい、わかりました」
「えー、かわいそー。真鍋先生聞いてあげなよ」
「大丈夫です、本人がそう言いましたから」
「そーなの? ならまぁいっか」
山岡さんは楽しそうに話し始めました。どうやら同じ組の坂本くんとデートする計画を一緒に考えて欲しいみたいです。
「こーゆーのって普通自力なんだろうけど、ごめんねせんせ」
「大丈夫です。坂本くんと結婚するお手伝い、頑張らせていただきます」
「いやそれは気が早すぎじゃねー?」
30分の議論の末に野球観戦をしたあと一緒にホテルでお泊りということになりました。僕の提案したカフェや映画館などの案は却下されましたが、なぜか僕に相談してよかったと言ってくれました。
山岡さんの力になれてとてもとっても嬉しいです。
「真鍋せんせありがとー。しょーみ前より頼りになる感?」
「そうですか。それならよかったです」
「そんじゃーねー。マジ感謝〜」
手を振りながら山岡さんは出ていきました。扉を閉める際に音が鳴らないよう優しく閉めていたので、きっと山岡さんはとてもいい人です。
そんな優しい山岡さんが好きな坂本くんもきっといい人です。
「ああいう悩みも聞くんですね……」
「はい、なんでも聞きます。スクールカウンセラーですから」
「……そう、ですか」
菊池さんはそう言うと何も言わず部屋から出ていきました。悩み事は解決したので一安心です。
ですがスクールカウンセラーはもっと頑張らなければいけません。すべての生徒さんが抱える悩みを解決するのが僕のお仕事です。
「あのーやってますかー」
「はい、やっていますよ矢野千紗さん」
「えっ、名前知ってんの?」
「はい、スクールカウンセラーですからしっかりと覚えています」
「へーすごー……そいえば真鍋先生、先生の下の名前ってなんだっけ」
そういえば忘れていました。遅くなりましたが名乗らせていただきます。
「ごめんごめん。先生はちゃんと覚えてくれてるからワタシも覚えたくてさ」
「お気遣いありがとうございます。矢野さんはとてもいい人ですね」
「そうでしょー? ていうか早く教えてよ先生の名前ー」
あっ、お悩みに答えなければいけないのにうっかりしていました。それでは皆さんもしっかりと覚えてくださいね。
「僕の名前は優しい心と書いて優心といいます」
短い間かもしれませんがよろしくお願いします。