完結編
八月中旬。
旧盆。
午前六時前。
荒天を予感させる朝焼けは不自然に赤く、
精神を乱すような
神経を逆なでするような
逆に高揚を煽るような
幻惑的な光を下界に射し込ませていた。
黄金色の郵便ポストの前方で
邪な赤い光線に照らされた、
若い男はおろしたての衣装(白一色)に身を包み、
思いつめた表情で佇立していた。
左前に合わせた(逆さごと) 経帷子を着用。
白帯を結び、手甲と脚絆をつけ、
額に(コントで見かけるような)白い三角巾を巻き、
頭陀袋を提げていた。
カヴンの仲間からの祝福と抱擁を受け、
六文銭の印刷された和紙を受け取った。
左手を使い、丁寧に懐へしまうと、
仲間の差し出した日本酒で口を湿らせる。
白い男は、
緊張状態で(ただでさえ)高い数値を示している心拍数を
特殊な呼吸法でさらに高めていく。
都電の始発(三ノ輪橋行き)が、
バッファタイムを喰い尽くしながら、
定刻に間に合わせるよう、停留所を目指して走行してくる。
わななくように警報機が鳴り響き、
タングステンが赤色放射して、
遮断機が横ぶれしながら降りた。
男は・・
盃を地面に叩きつけ、
粉砕し、
まなじりを決した。
心拍数を極限━200近く━まで上昇させて
ロケットスタート+全力疾走した。
遮断機をハードル競技の抜き足で飛び越し、
走行してくる都電に
ひるむことなく
鬨の声を上げ、
飛び込んでいった。
━ <エルダー・ホッパーズ計画>の成功をわれらの手に! ━
ひとたまりもなかった。
男は衝突のインパクトで弾かれ、
大きくバウンド、
線路上でもんどりうち、頭部を強かヒットした。
キキキキキキーッ!
急ブレーキをかける都電のドライバー。
今際の際のスキール音!
・・ バッドタイミング
・・ 時遅し
・・ 間に合わない
死線を彷徨っている若い肉体を、
車輪は無機質に轢断走行。
純白の経帷子や肉を轢き裂いた。
プチトマトを丸ごと齧ったとき、
胎座からゼリー状の果肉が
口内にブシュ!っと デタラメ飛散するように、
ヒト外皮を裂破し、
血液と体液、
未消化物や糞尿を、
無差別に八散させ、
骨をミシミシ砕いて、
( 粒イチゴ・ジャム状になった )
深紅の帯を引きずって、ようやく停止した。
以前、
幼な子を救おうとした女性が、
轢死した場所と同一地点だった。
かくして ━┃魔の踏切り┃━ は完成を見た。
災厄スポットと化し、
君臨を開始。
自殺志願者を続々と吸い寄せ・・
原因不明の事故を頻発させ・・
不幸の連鎖を呼び ━悲劇をより濃縮━ 拡大させていった。
イクや、
その兄たち(晶学カルテット)の住む
街全体を支配するために、
組織の引き起こした、サイキック・テロ。
<踏切り>は・・
その・・
ささやかな・・
プロローグに過ぎなかった。