恨み
「あ、あなたは?」
驚く僕にニコニコと近寄る老人
この笑顔が凄く不気味に映った
「私はこの島の先住民です」
2度驚いた
確かにこれだけの大地が無人島であった方がおかしい
老人は僕と一緒に燃え盛る森を観ながら話を始めた
この島は文明から少し遅れてはいたが
漁や農産で楽しく過ごしている平和な島国だった
先祖への感謝と大地への信仰を大切にしていた
十数年前、世界連合と名乗る組織がやってきた
偉そうな男が傲慢な態度で座り話す
「島を買い取りたい」
老人は驚いた、この島は独立国でもあり
世界連合には属していないフリーの島国
そこでバトルフィールドの島になる話がされた
世界の為、経済の為と説得しはじめる
老人は島長であり、この島を守る義務がある
当然、そんな戦いの島には出来ないと断った
男は不適に笑う
そんな事は想定内
翌日に悲劇は始まった
世界連合は大規模な軍艦や戦闘機等で一斉に攻撃を始める
それがこのバトルフィールドで初めて行われた争い
それは地獄絵図
島長は全ての島民に問いかけるには時間が足りなかった
一方的な侵略に島民は抵抗はするが
木々は燃えて 信仰物や田畑は跡形も無くなる
武器の無い村人達は非常に不利な戦い
砲撃で建物は崩れ、若い者は男女構わず犯されて殺される
力の弱い老人達は子供が虫を殺すようにいたぶられて殺された
この島の人間は何もしていないのに
突然の奇襲であっという間に全滅する
亡骸は海に捨てられ海洋動物のエサになった
「酷い…」
僕はますます戦争の意味が解らなくなった
「みんなで祟れませんかね?」
僕は霊として一泡吹かせたいと提案をした
取り憑いたり、驚かしたりして、この島で戦争が出来なくなる方法がないか話をしてみた
戦争で失うものは大きい
戦いの意味を解って戦うものは多くない
気が付くと老人の後ろには沢山の先住民が並んでいた
「あなたの様な方は初めてです、我々の事を共に嘆いてくれるのですね」
老人は他の先住民達を眺めながら僕に伝える
残念ながら霊が干渉できるのはごく僅かだけ
取り憑いたりすることは簡単では無かった
死者が干渉できるのは死者が一番簡単
島民達は個人を恨みたくても誰を恨んでいいかも解らない
でも、この戦争も世界連合も恨んで恨んで恨みこんでいる
自分達の生活を家族を仲間を全て消した連中を絶対に許さない
死ねば干渉できる
だから死ぬのを待つ
それが島民達全員で出した答え
「あなたのような人は私達も心が痛みます」
老人の目が僕を睨むと
老人の目から手が出てきた
「え、ええ?」
僕は驚いて体が硬直した
小さなその手は僕に近づくにつれて大きくなり僕の身体を握り持ち上げた
「く、苦しい」
圧迫される僕は舌を出して目が飛び出しそうになる
苦しみながら見える景色
僕と同じように島民の目から出た手で握られる多くの兵士達が見えた
手は蔓、兵士は果実の様に吊るされる
強く握られた魂はパンッと破裂する
魂は潰され飛び散り、散ったカス1つ残らずその目に吸収されていく
「恨みの連鎖は終わらない、戦争に関わる全ての者達が消えるまで」
老人はウケケケケケケケと笑いながら僕を潰し呑み込んだ
僕達の戦争の結末は解らない
僕は老人に取り込まれながら本気で願った
戦争などなくなってしまえ
人も霊も欲も恨みも減るだろう
バトルフィールドの島が無くなっても
戦争は終わらない
戦争は欲でありビジネスで人は道具であり駒なのだから
恨みも呪いも終わらない
今日も何処かで戦争が起きている
今回書きたかったのは
霊より怖いものをテーマにしたくて描きました
争いの元とは?を上手く表現したかったのですが
未熟でした
読んでくださったかたありがとうございました。