戦争
僕の声は品川には届かなかった
ドーン
爆発音がすると戦車から煙が上がる
「?」
戦車の反対から僕達の軍が手榴弾を投げて戦車を攻撃していた
キャタピラが外れ身動きがとれない
砲台が動くが戦車より白兵の方が小回りがよく
あっという間に戦車を食い止めた
品川はさっそうと戦車に飛び乗り、中の敵軍を引きずり出した
手を上げて投降する敵軍は3人
こっちは品川合わせて4人が取り囲んでいた
「よくも墨田をっ」
品川はそう言って無抵抗の敵軍を殴り始めた
「やめてくれ、俺を殺したのはそいつらじゃない」
届かない声で僕は必死に叫ぶ
相手がのびているのに泣きながら品川は殴り続ける
仲間が品川を止めた
元レスリング選手
パワーは凄いものだった
くそっと地面を蹴るとそのまま品川は敵地へと進む
他の部隊が到着して敵軍の兵士3人は捕虜として連れていかれた
キィーン
何かの刺激が走ると、僕の頭の中にバトルバーで歓喜をあげる人達が映った
敵の戦車を止めたのと捕虜を捕まえた品川や兵士達の姿がモニターに映る
まるでサッカーでゴールを決めたように喜ぶ姿
「なんだコレ?」
僕の中に見えるものは現状の日本?
僕は不思議な感覚のまま捕虜達の後をついていった
捕虜ってどうなるんだろうか?
国際法によって捕虜のむやみな殺害は禁止されている
これは昔から変わっていない
自国フィールドの基地から少し離れた所に防壁野営があり、その奥に捕虜施設があった
この施設の説明は受けてない
軍人だけのシークレットなのか?
施設内には薄暗い牢屋が沢山あって
鎖で手足を拘束する道具やスタンガン、鞭、水なども有る
不謹慎だがスケベなビデオを思い浮かべてしまった
傷だらけの捕虜は簡単に傷を消毒されると鎖に繋がれた
「何をするつもりだ?」
もう戦意ない兵士に何かを始める
傷口にスタンガンが放たれた
バチバチっと言う音と共に敵の叫ぶ声がした
「基地内の何処にボタンを設置した?」
軍服を着た自国の兵士が怒鳴りながら聞いている
基地のボタンの設置場所は毎回変わる
お互い負けたくないので秘密裏で変えている
「俺達は知らない、ただの下っ端だ」
虚ろな目で答える兵士に、そんな訳ないだろうと鞭で叩きつける
相手は戦車に乗っていた兵士
一般人では無いから知っている可能性は確かにある
鞭の次はハンマーで身体を殴り始めた
鈍い音と叫ぶ声が響く
骨の折れる音が鈍く耳をつく
僕は耳を塞いだ
相手の3人はぐったりとすると
またスタンガンで起こされて、また尋問される
これが数回繰り返された
正気の沙汰ではない
完全にのびている、いや死んでるのか?
それなら戦争と言えど国際問題だ
全身が腫れている、1.5倍位に膨らんでる
拷問していた兵士が呼吸を確認すると生きていた
見てる僕がホッとした
「野営の肥溜めにぶちこんでこい」
僕は耳を疑った
野営場にはいくつかのトイレが設置されている
そこは汲み取り式、いわゆるぼっとん便所
その中へこの傷だらけの人間を入れるのか?
「かしこまりました」
なんの躊躇もなく返事が返ってくると
3人は連れて行かれた
この世界はおかしくないか?
戦争ってなんなんだ?
拷問していた男は苛立ち相手の国の名前を叫んで壁を蹴飛ばした
あんなに酷い事をして苛立てるのか?
もしこの身体で何かを触れるのなら、僕は自国のボタンを押して負けてしまえば良いと思った
少し僕は彷徨った
戦う者達を観て思う
勇敢者であり非道者でもある
この戦いにこんなに命を賭ける価値があるのだろうか
欲しいものを手にするための戦い
国のプライドの戦い
守る為に戦っていた時代の方がまだかっこいい
ドゴーン
地響きがする
相手の戦闘機が捕虜施設を攻撃している
凄いミサイルが堕ちてきて辺りは火の海になった
逃げる兵士
転がる補充車やバイク
爆炎、爆音が続く
飛び散るあらゆる物の中に拷問された3人の遺体があった
原型はとどめていないが軍服と身体の腫れ具合
間違いなくあの3人だった
敵も味方も無いのか
この兵士にも生活はあったはずだ
国の為に命をかけた結果がこれなのか
多分 戦争に美学は無い
まだ自衛隊だった頃は国を守る為、災害派遣や戦地補助の運搬、地雷撤去等危ないが命をかけている姿は本当にカッコが良く見えた
軍隊になって今戦う人達は何処で変わってしまったのだろうか
バトルバーでは人気の兵士のプロマイドが売れる
戦地から戻るとパレードが行われ、爆撃数、拉致数で表彰される
バトルフィールドが始まってから世界の犯罪率は減った
捕まれば強制兵士、戦場に行きたくないものは犯罪をしない
暴れたい者や食えない者、名前を売りたい者は兵士になることで望みが叶う
この現状は欲の果てでもあるのだろうか?
経済も回っている戦争はお金が回る
ここだけ言うと良いのだろうが
現場は敵味方が解らない程で泥まみれ、血まみれで戦っている
地べたを這いつくばり傍観者には解らない思いを皆している
国のため?家族のため?自分のため?
亡くなる命の重さは亡くなった人の近親者だけで終わる
人は良い所しか見ない
これは誰のための戦争なんだろう?
戦争を無くして平和に解決
バトルフィールドが始まってからあまり聞かなくなった
まぁ幼稚園児でも、家族ですらケンカはする
争いが無くなることはないのだろう
文化や宗教が違うなら解り合えることは無いのか
同じ星の同じ人間なのに
燃え盛る森を観ながら僕の考えは甘いのか悩んでいた
「どうですか?死んで周りを見た感想は」
横から突然声がした
驚いて隣を見るとボロボロの老人がいた
読んで頂きありがとうございました
次で終わる予定なので最後まで読んでいただけると嬉しいです