死語の世界
「僕は死んだのか?」
さっきまで真っ暗だった景色が普通に見える
何処からか光が当たっているのか?
木も山も隠れている人も見える
何か気配を感じて振り返る
何十人?何百人?
沢山のボロボロな人達がいた
ゾンビ?
「あなた達は?」
そう訪ねても返事はなく皆 生気が無かった
ただ何か怒りの様な物は感じられた
うおおおお!
けたたましい声が聞こえた
観てみるとボロボロの肉の塊を抱いて品川が泣いていた
「どうした?」
そう肩を叩こうとしたが僕の手は品川の身体を触ることは出来なかった
「す、墨田ーっ!」
僕の名前が呼ばれた
「え?もしかしてそれ」
品川が抱いていたのは僕だった
て、事は僕は本当に死んだんだ
正直実感は無かったけど懐中電灯を置いて泣きわめく品川の顔が光に当たって凄く怖いのと
そんな品川を心配しながら数人の知らない人達が僕の亡骸を観て悲しい顔をしているのがちょっとだけ死を実感させてくれた
周りを見たら誰も居ない
さっきまでゾンビみたいのが沢山居たのに
何故だろうか死んだ事とこうして幽霊になれたことで僕は少し気持ちが楽だった
スポーツ以外あまり深く考えたことが無いのが幸いしたようだ
取り敢えず周りを散策してみる
相手のフィールドに行ってみよう
ガサガサ
相手国の人が銃を構えている
僕は観て驚いたが向こうは全く気づいていない
このまま相手のボタンを押せたら誰も傷付かないで戦争がおわるのに
僕はなんだかよく解らない気持ちになってきた
疲れない、身体が軽い
幽霊って意外と良いなと歩き続ける
皆真剣な表情だ
家族の写真を観ている人
お酒を飲んで気を紛らわしている人
武器を持って震える人
そんな相手国の人達を観ていたら
人間は皆同じなんだと思えた
じゃあ何故戦争をするんだろう?
国のため?国の利益のため?
守る為の戦いなら責める為の戦いでもある
何故責めるのだろう?
僕は敵のフィールド内の基地へと入った
「わぁぁぁ」
敵が僕を撃ってきた!
玉はすり抜けていく
「観える人なんだ」
笑顔で手を振ったら凄い形相で走って行った
失礼だ!気分が悪い
基地内にある指令室と思われる部屋に入る
バトルフィールドの地図とモニターを観ながら圧のある人がタバコを吸っている
みんな、真剣だ
僕は実体が無いのをいいことに色々物色してみることにした
作戦の描いてあるノートみたいのがあったので読んでみた、触れないのでページはめくれない
今解るのは、敵の欲しがっているのは日本の天然エネルギー
僕達の国が欲しがっているのは敵国の領土 海洋生物達か
エネルギー問題に食料問題
人口が増えれば確かに必要だが必要量を交換とか出来ないものなのかな?
確か前回の戦争は同国同士で独立するのしないので戦っていた
軍人を観る限り無理に敵を嫌って国を守るという大義名分を自分に言い聞かせている気がした
戦争は洗脳?
ふと頭によぎった言葉
宗教戦争は特にそれかな?
人が人を傷付て何かを得ようとする
今の時代はそれがエンターテイメントとして観る者や賭ける者がいる
僕の頭にバトルバーの人達の姿が入ってきた
異性をはべらかし、得意気に笑う人達
戦争映像を観て驚いては居るが皆
他人事だ
戦場に居る者達 戦っている人達は
心を削り 身を削っているのに
僕は敵国の基地を出る
自国のフィールドへと移動しよう
陸でも空でも戦いが行われている
空爆を試みる軍 阻止する軍
山を駆け抜ける人達
走る戦車
鳴り止まない銃声と爆撃音
戦争は白熱し始めている
フィールドが狭いから戦闘もペースが早い
このバトルフィールドは戦争の効率化でもあるんだ
夜が明ける
たった一晩なのに両軍疲弊している
まるで何日も寝てない位の出で立ちだ
家に居れば楽しんだり、寝てたりして過ぎる夜なのに
ここでは命をすり減らして過ごしている
同じ夜なのに
岩場に隠れている品川を見つけた
「良かった、生きている」
僕は品川の横に行く
品川も凄い疲弊している
顔も服も泥だらけであちこちに傷もある
「もう、いいだろ隠れて戦争が終わるの待てよ」
もうすぐ結婚するのだから僕はそう囁いた
「す、墨田?」周りをキョロキョロする品川
「聴こえるのか、僕の声が聴こえるのか!」
その声は届いて居なかった
血まみれの僕のIDタグを握る品川
「俺を見守ってくれてんのか墨田、仇はとるからな」
品川は少し涙ぐんで呟く
僕はそんなここと望んでいない
「無事に帰れればいいんだよ品川」
そう訴えても品川には届かなかった
目の前から戦車が進んでくる
砂煙を上げて、怒ってるサイのようだ
「墨田、見てろよ」
品川はそう言って戦車へと走って行く
「やめてくれ、俺は仇など望んでいない」
僕の声は届かず品川は走る
やめてくれ
戦車は品川に気付いて向きを変える
やめてくれ
僕は叫ぶ、さっきみたいに聞こえてくれ
やめろ!
最後まで読んで頂きありがとうございました
もう少し宜しくお願い致します。