3 マドールとレムッタと二人の約束
数日後、タルミスはその後、牢屋に入れられた。
偽りの依頼を出し、殺人未遂を起こした事で、ギルドのライセンスを剥奪された。加えて、ギルドの信頼を損なう行いをした事で、今後ギルドに所属する事が出来なくなった。もっとも、この先に彼が陽の目を見る事が出来るかも怪しいけれど。
因みに、元パーティの二人は今回の件に一切関与していなかったので、今日もどこかで冒険者をしている。
事件が片付き、私の身の回りも落ち着いた所で、私はずっと聞きたかった事をレムッタに尋ねた。
「あんた、特殊スキル持ちじゃない?」
レムッタが目を丸くして驚いていた。以前と反応が違うのは、彼女の中で私がそうだと確信出来る証拠を持っていると認識しているためだろう。
「それと、小さい頃に故郷に居たよね?」
これを言うと、彼女は目を細めた。
本当に小さい頃の話だ。私には、とても仲の良い子が居た。その子とは、冒険者に憧れを抱き、何時か世界中を二人で旅する夢を見ていた。ただ、すぐに相手の子は非力だったから、子どもの頃の私でも荒事には向かない子だと分かった。
その子は数年後、両親と共に他所へと旅立ったので、すっかり忘れていた。覚えていても、結びつかせるのは難しかったと思う。
「やっと思い出してくれたんだね。でも、どうして特殊スキル持ちだと思ったの?」
「だって、あの晩にしかタルミスには襲われてないのに“殺し続けた”なんて言うんだもの。そこが始まりね。次に引っかかったのは、偽依頼の時に私に注意した事。あの時の行動がきになっててさ。この二つを結び付けたら、そういう事かなって思った」
私の答えに、彼女はそれだけで? という表情で驚いていた。
「凄いね、マドール。うん、正解。私ね、もう何回も同じ時間を回ってる。理由を聞く?」
勿体ぶっているけれど、私はその答えを既に持っていた。
「私を死なせないためでしょ。そうとしか思えない怒りっぷりだったし」
「そこも分かっちゃってたかぁ。世界を何週もしたんだよ。最初はマドールが単独での依頼中に誰かに殺されたの。マドールがが一人だった理由を探したのが一回目だったよ。次はパーティの事を調べたんだ。そしたら、タルミスが追放した事が分かった。後は、マドールが生きる条件を探し続けてた。足取りを追ったりしてさ。あの依頼を先に受けた事もあったんだけど、タルミスが同じ内容で違う依頼を出したりしてたんだ。あ、これは、今回の周で分かったんだけどね。駄目だったから、マドールの行動を追い続けたんだよ。荒み続けるマドールを見るのは本当に辛かったな」
彼女は、本当にしらみつぶしで頑張ってくれていたんだろう。
私は、彼女にパーティを組んで欲しいと言われた時を思い出した。
「私、あんたに『やっと見つけた』って言われた時は、その言葉通りに探し回っていたと思っていたけれど、まさか同じ時間を繰り返していただなんてね。もしかして、その鎧の呪いもそのスキルのおかげ?」
「そうだよ。この鎧は一番最初の時間で手に入れたんだ。初めて世界を渡ったらさ、呪いが消えちゃった。呪いは世界を超える事は出来なかったみたい」
そんな解呪法があるなんて、誰も分かる訳が無い。
「何だか凄い子とパーティを組んでたのね」
ラボの事も、何週もしている間に見つけた事かもしれない。私が想像出来ない程の苦労をしてまで、私を助けてくれたんだと思うと、感謝しかなかった。
「ねえ、マドール。もうパーティは組んでられない?」
不安そうに彼女が私を見た。彼女の暗い顔を見たら、思わず笑ってしまった。
「あー、笑うなんて酷いよ」
「分かり切った事を聞くんだもの。ついね」
レムッタは、どういう事か分からないといった表情。
「昔の約束を果そう。世界を越えられるような相棒と一緒に冒険なんて、こんなに面白そうな事は無いじゃない。それに、まだ貰った剣も使ってないしね」
仮に解散したら、レアな装備を貢がれただけになってしまう。
「ありがと、マドールッ!!」
パーティ継続が嬉しいと、抱きついてくるレムッタ。
気持ちは分かるけど、一つ問題がある。
「じゃあ、旅立つ前に仕事を探しに行くよ」
「ええー。ここは旅立つ所でしょ」
「準備資金も心許ないのに、そんな無茶する訳無いでしょ。途中で困らないためにも依頼を探すよ」
「もう、世知辛いなぁ。でも、そうだね。がんばろー!!」
私達はギルドへ向かった。
あの日見た夢の扉がやっと開く。その向こうへ進むため、私達は手を取り合った。