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神の指を持つ者

「では、貴方は段銭方の小物として任官を許します」


 最後の国衆に役職を命じて私は一息ついた。

 隣には晴景兄上が座っている。

 私が彼らの話を聞きながら、役職を告げていく中で、最初の方こそ口出ししてきたが中盤以降は沈黙を貫いていた。

 

「ははー! 誠心誠意お仕えいたしまする!」


 拝命を受けた国人さんも平伏し去っていく。

 これで全員が捌けた。


「驚いたぞ、景虎。こんなに早く裁断を下せるとはな」


「上手く働いてくれるかは、まだ分かりませんけどね」


 幾つかの質問をして、彼らのステータスを見て役割を決めたのだ。今回は少しでも内政に適性があるものは文官職に回した。

 ゲームでも思っていたけど長尾家に文官適正が高い将は少ないのである。早いうちから育てないといけない。

 中にはステータスが全て30未満の者もいたけど、そんな人は厩番や草履取りなんかにした。

 もちろん文句を言ってきたが、私が与えた簡単な問題にも答えられず、武芸の腕を自慢した者には私が厳選した城勤めの足軽に相手させてコテンパンにのしていただいた。因みに弥太郎さんに相手をさせなかったのは温情であるし、また一兵卒に負けたことで自信の未熟を知ってもらうためでもある。

 国衆の皆さんには差出検地を命じて、帰しており、最低限の俸禄は約束しておいたので、どんな仕事でも食つなぐことは出来るはずだ。


「いや、しかし何時もながら景虎様の判断は即断にして果断でございますな」


 同席していた実乃さんが感心している。


「ほう、景虎は栃尾でもこのようだったのか?」


「そうでございますな。元々、判断が早いお方でございましたが、ご自身が女性であると知られてからはより一層、磨きがかかられましたな」


「なるほど・・・待て、実乃。今、景虎が女だと申さなかったか?」


 思わず納得しかけた兄上が待ったをかけた。

 そういえば、報告していなかったと心の中で忘れていたと舌を出した。


「おや、殿のお耳にはまだ入っていませなんでしたか?」


「兄上も父上から真相はお聞きになっていませんでしたか」


 私は自分の失態を父上の所為にすることにした。

 まあ、実際に為景が私の性別を偽っていたのがそもそもの原因だし、許されるだろう。


「いや、父上は景虎は男子だとしか言っておらぬ。そう言われて過ごして来たし、今の今まで以前と変わらぬ姿であったから気づきもせなんだ」


 困惑する兄上に実乃さんは、事の発端と母上の青岩院さんの文の事を話し、私が女子であったと説明した。


「俄かには信じられぬな・・・」


 それでも納得出来ぬ様子の兄上。

 ならばもう証拠を見せるしかないか・・・

 本当ならやりたくないんだけど。


「兄上、お手を失礼いたします」


 断りを入れてから着物の襟を緩めそこに兄上の手を誘導させた。

 悲しいけど服の上からでは分からないかもしれないからだ。


「む・・・これは、確かに・・・男の胸と違い僅かな膨らみと柔らかさが・・・」


「あ・・・あぅ・・・」


 兄上の手は容赦なく私の胸を蹂躙する如く揉みしだいた。


「そ、その兄上・・・もうよろしゅうございましょう?」


 私の上気した顔に実乃さんは目を逸らし、兄上もはっとしたように慌てて手を引っ込めた。

 この時代、女の胸に興味がない事は既に承知の事だったけど、性感帯である事に変わりはなく刺激されれば感じてしまうものなのは仕方ない。


「あ、うむ・・そうであるな。お前は真に女子であるようだ」


 ワザとらしい咳払いをして兄上は居住まいを正す。


「それで、父上は何故、お前を男として育てたのだ?」


「それは、私も存じておりません」


 青岩院様の文にも為景の命としか書かれていなかったし。


「某の考えですが・・・先代様は、景虎様に常とは異なる物を感じたのやもしれませぬな」


「ほう、実乃。何か根拠でもあるのか?」


「は。景虎様にはご神仏の加護が宿っておられまする」


 流石にその発言には驚愕の顔を浮かべる兄上。


「真か? 儂を謀るつもりならば、その方とて容赦は出来ぬぞ!?」


「とんでもござらん! 景虎様は矢傷を受けても一晩で傷跡さえ残らずに快癒され、弥太郎との立ち合いでは己の木刀で弥太郎の木刀を切断いたしたのですぞ!」


 互いに声を張り合う二人に「落ち着いてください」と私はやんわりと割って入った。

 その様子に兄上は、本当なのかと問うてきたので頷き返した。

 実際に何の神様かは分からないが、「毘沙門天の加護」多分スキル? があるのは事実なのである。

 以前の景虎の性格故になのか、それとも先ほど兄上の私室で会話を交わした私を信じてくれたのか、兄上は「そうか」と短く言葉を吐き、居を正した。


「であれば、父上が林泉寺にお前を入れたのも納得できるな」


 それに実乃さんが同意を示して頷いている。


「情けない話だが、儂はお前が父上に疎まれて家督から外すために僧にさせられたとばかり思っておった。浅慮であったは。許せ、この通りだ」


 いきなり兄上に頭を下げられて、私は大いに慌てた。


「兄上、当主ともあろうものが無闇に頭を下げないでください」


「しかし、儂は以前からお前を軽んじていたのだぞ」


「その様なこと、私は知りません」


「なんと、水に流してくれるというのか・・・我が弟、いや妹は・・・」


 何か勝手に感動してるけど、本当に知らないだけなんだけどなぁ。


「それよりも兄上、急ぎ接収した国衆の領地の代官を決めて派遣しなければいけませんよ。今は私の家臣が揚北との国境を固めていますが、このまま長くはおけません」

「そうであったな。では一度政務室に戻るとしよう」

______________________________________________


 政務室でテキパキと仕事をこなす兄上を見てその手際の良さに感心した。

 内政70にもなるとこれぐらいは可能になるのか・・・

 ゲームでは知りえない内容だ。

 私の内政値は86だから仕事を覚えれば、兄上以上の処理能力を発揮できるのか・・・信じられないな。


「うむ。郡代と代官はこれでよいだろう。この者たちならば過不足なく土地を治めてくれよう」


 暫くして兄上が筆をおいて肩を回した。

 ちらっとみると兄上の生命力が33,体力47,精神力40となっていた。

 最大値を確認してなかったから消耗したのかわからない。


「兄上、肩をお揉み致しましょう」


 小姓さんが立ち上がったけど、それを制して私は兄上の背後に回る。


「お前がその様なことをする必要はないのだぞ」


「いえいえ、この件に付きましては私が面倒ごとを兄上に押し付けました故」


 それにこれでも私はマッサージが得意である。伊達に武芸なんかしてるから素人よりは達者なのだ。


「では、失礼をして」


 兄上の方に触れた直後、脳内にメッセージが現れた。

 『体力がかなり減っています。指圧による回復術をしようしますか。効果は1分間につに1ポイントです』

 お?

 新しい能力の発現だ。

 これは試すしかあるまい。

 すると、兄上の肩や首周りに赤い点が現れた。

 無難にここを刺激すればいいのかな。幾つかの点は私の記憶しているマッサージのツボと一致しているし。


「むぅ・・・心地よいな。お前にこの様な才能まであったのか・・・小姓たちにしてもらうよりずっといいぞ」


 約五分で5ポイントの体力が回復した兄上は満足したように言った。部屋の隅で小姓さんが衝撃を受けた表情をしてるけど。


「そうですね・・・これは薬師如来様のご加護かもしれませんね}


「神仏の加護とはこの様な事にもあるのか? 確かに肩が随分と軽くなった様に思えるが」


「意外と細やかな所にも影響が出るようですよ」


 兄上に応えながら自分の状態を調べてみるけど精神力も体力も消費していない。これは使える能力だな。

 しかし兄上は生命力が低いですねぇ・・・病弱だったということですから、これが最大値で、体力が落ちると生命力にも影響してくるとかですかね・・・

 色々と検証したいところですが、事が命に直結するだけに危険な真似はできませんか。


「兄上、少し横になって下されませんか? 私が見るにお身体の至るところにお疲れが溜まっているようにお見受けします故」


「そうだな、確かにここしばらく、体がだるく感じていたが・・・」


「ではうつ伏せに、お願いします」


 私の言うとおりにうつ伏せに寝転んだ兄上の赤い点をゆっくりと親指に力を入れて揉み解していく。

 う~ん、凝り固まってるなぁ・・・

 優しく施療を施して約10分。兄上の身体から赤い点がなくなると体力は72までになった。


「どうでしょう、兄上?」


「ああ、体がとても軽くなったようだ」


 起き上がって伸びをした兄上が体をひねったりして調子を確かめた。

 その表情は晴れやかだ。


「いや、すまなかったな景虎よ。また、頼んでも良いか?」


「ええ。勿論ですとも。兄上のお役に立てるのであれば喜んで」


「そうか、重ね重ねすまぬな」


 私は一人っ子であった。

 その所為か、今日あったばかりの晴景さんを兄上と呼ぶのはなんか変な感じがしていたのだけど、存外に悪いものではない。

 彼からしてみれば妾腹の子と言えど妹なわけであるし、当然なのだろうけど親しみを感じられる。

 史実で仲が悪かったらしいけど、それは先程、謝罪してくれたし、私にとっては知らない過去より今現在が全てなのである。

 早く越後を統一して、これから一層激しくなる戦乱の世から長尾家を守るために兄上にも活躍してもらわないといけないと思う。

 その為には私のできることは何でもやっていこうと誓うのであった。

 なお、後日、私が神の指を持つとして春日山城で有名になるとは予想外の事であったと記しておく。


話が進まないけど、主人公が戦国時代と能力に慣れていく過程は飛ばせないと思うので、しばらくこんな感じで話が進むと思います。

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