表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/28

戦国大名の野望・入魂

 私の名前は長尾景虎(ながおけいこ)。あだ名は謙信である。何故かは察してほしい。

 というか、両親が悪いのである。

 男子が産まれたら景虎(かげとら)で女子が産まれたら景虎(けいこ)にしようと決めていたって言うのだから。いくら、姓が長尾でもそんなに謙信が好きなのか! って、物心ついた時に叫んだ私は悪くないと思う。

 そんな私だが、新当流師範の祖父と師範代の父を持つ身として、2歳から身体の基礎作り、3歳で身の丈に合った木刀を素振りする毎日を過ごし幾星霜・・・高校生にして少女剣聖なんて二つ名まで持つに至ってしまった。

 剣道ではなくあくまでも剣術家である。因みに長刀も弓も扱える、一体何時の時代の武将だよ!

 因みにメディアでは美少女剣聖と表記されるが、自分で言うのは恥ずいので少女剣聖なのである。

 剣聖の部分は否定しない。それだけの腕前を14年以上の歳月を犠牲にして磨き上げてきたからだ。

 さて、大層な肩書を持つ私であるが、別に剣術馬鹿ではないのである。

 人生・・・といっても約16年間だが・・・を剣の道に捧げた反動で、滅茶苦茶に遊びたい年頃なのだ。

 何を遊びたいのかって?

 それは、ゲームである!

 何のゲームか、ですか?

 もちろん!

 戦国SLGに決まっているではありませんか!

 だてに17歳まで「長尾景虎」していたわけじゃない。

 名前で揶揄われることもあれば、歴史の授業で問題に当てられたり、毎年8月の上越市の謙信公祭りに鎧着てのコスプレ参加もしたりした。

 興味がないわけではなかったのである。

 というわけで、早速買ってきた最新作「戦国大名の野望・入魂」をプレイする。

 長いインストール時間をおいて、先ずすべきは、顔グラ作成ツールの作動。

 そこで自撮り写真を加工した画像を登録。

 で、史実武将の変更を選んで「上杉謙信」の顔を私の顔写真に、声を凛々しい乙女ボイスに。

 ステータス他の変更はゲームクリア時の記録に残らなくなるのでやらない。

 他人に見られれば、イタイ子認定を免れないかもしれないけれども、ここまで来たならトコトン成り切りプレイするのみ。

 で、プレイ大名は上杉家・・・スタート年代が1544年の景虎初陣では、まだ長尾か。

 景虎はまだ大名じゃないので、兄の晴景でのプレイになる。


「それじゃあ、スタートっと」


 ん?

 なにこれ?

 重々しい戦国時代をテーマにしたBGMが流れるかと思ったら、真っ黒な画面に浮き彫りになった白い文字。

 ディスプレイの画面に現れたその選択肢に私は注目する。


「上杉謙信女性説を信じますか? かぁ・・・」


 この話は出所が小説家の人で、幾つかの根拠を上げて新聞で広めたから、創作物関係者の中では根強い人気を持っているんだけど、私は信じていない。

 でも、まぁ・・・私は成り切りプレイをするつもりだし、男性と女性でどう違うのかにも興味はあるんで・・・


「はいっとね」


 一瞬の躊躇があったけど直ぐに「はい」をクリック。

 そして今度こそ始まるゲーム。

 先ずは、ムービーが流れた。

 場所は栃尾城の評定の間。緊張した様子の鎧甲冑をまとった男たちが左右に居並んでいた。

 この配置具合だと上座から見てる風だから景虎目線なのかな?


「景虎様、三条長尾平六郎の軍勢が傘松に布陣いたしました」


 上座に一番近い30代ぐらいの男が声を上げると20歳くらいの体躯隆々の若者がそれに続く。

 小柄な熊ならベアハッグで仕留められそうである。


「虎様の言うとおりになったな!」


「これ! 弥太郎、何時までも景虎様をその様な幼少のみぎりのあだ名で呼ぶではないと日頃から申し付けておろうが!」


 先の武将が弥太郎と呼ばれた青年を一喝した。

 ふむ。この若者がもしかしなくてもあの「鬼小島」と恐れられた小島貞興か。

 熊のような豪傑かと思ったがゴリマッチョのイケメンである。


「私は構わぬよ、弥太郎にはいつまでもそうであって欲しいとすら思う。それより、実乃。敵の先陣が動き出したら策の通りに別動隊で傘松の本陣の背後を突け」


 おお。景虎の声が女っぽい。男バージョンも用意してるなら無駄に容量とってるな、なんて思った。


「その辺りは抜かりありません」


「ならばよし。敵陣が乱れたら我らも討ってでる。皆に用意させておくように」


 それだけ言い残し、景虎は評定の間を立ち去った。

 城内の喧騒を聞きながら山城である栃尾城の矢倉に上っていき、傘松の敵本陣がある方角を見やる。


「出来るなら、夜の方が仕掛けやすかったのですが・・・城攻めに夜を選ぶほどには愚かではなかったですね」 


 虚空に景虎の呟きが溶けていく。

 そこから私は考えた。今作では昼と夜の概念も導入されているのかなと。

 だったら、戦略の幅も広がって面白そうだとわくわくしてきた。ま、ムービーでの話だから実際にはまだわからないけど。


「幸いにしてここ栃尾は山城。城門に続く道を大きく迂回して兵を伏せることは出来た。長秀ならば、巧くやってくれよう」


 暫くの沈黙の中、戦前の高揚感溢れるBGMが流れる。

 主人公景虎の目線は城下に集う兵と遥か先の傘松を行き来していたが、不意に言葉を漏らす。


「初陣か・・・私の心に怖れはない。ただこの身を焦がさんばかりの灼熱にも似た昂ぶりを抑えるのは苦労しそうだ」


 そんな言葉を聞いて私は何とまぁ猛々しい事だと感心する。

 ここから上杉謙信の怒涛の軍神伝説がスタートするわけか。


「うむ・・・北の方で兵気の乱れを感じる。長秀、仕掛けたか」


 突然、そんな言葉を宣う景虎さん。

 すると画面が栃尾城をモデリングした3Dマップを中心に山や谷の情報が正確に描写された物に変更され、青い点と赤い点が随所に散りばめられた。

 どうやら、戦闘開始のようだ。

 えーと、敵は城の北を少し行った所に400程、その後ろに600。こっちが本陣らしい。それに400の青い点が突撃をかましている。カーソルを当てれば安田長秀の名前が記され、攻撃74,防御58、機動66、士気98と表示された。


「兵種は足軽350に弓兵50か、騎馬はなしっと」


 対して敵本陣は豪族(笑い)。ムービーでは長尾平六と言ってたのにここでは雑魚扱いですか。

 攻防機がオール50で士気が既に60まで減ってるし。

 数は優位だけど負ける気はしないかな。

 で、城に向かった部隊は本陣と同じ能力値に士気90っと。

 まだ本陣が攻められた事に気づいてないっぽいね。


「景虎様、出陣の支度が整いました。御下知を!」


 矢倉に上がってきた実乃さんを伴って城門前までやってくると戦闘マップの青い点に九曜巴紋の旗が立った。どうやら総大将の部隊につくようだ。さっきの豪族さんにはなかったな・・・データ不足かな?


「聴け! 勇敢なる栃尾の兵どもよ! 敵はこの景虎を若輩と侮り何の策もなく挑んできている! この景虎、如何なる策を弄されようとも打ち砕く自信があるが、この戦いでは不要である! 故に、私にただ付き従うがいい! 正面から敵を討ち滅ぼし、我らに歯向かった事を地獄で後悔させてやろう!」


 景虎の激に大音声で皆が応じる。

 見れば旗の立った青の部隊の名前が長尾景虎になり、攻防機が150,125、138、士気200となっている。因みに顔グラも表示されてるが、これは私の顔であった。さっきの豪族さんは山賊の親分みたいだったな。しかし・・・

 チート過ぎる!

 これは、触るだけで敵が溶けて行くのが想像できるわ。


「城門開け!」


 そして怒涛の如く、進軍していく長尾景虎軍は程なくして敵先陣部隊に接触。この頃になると本陣が奇襲されたことも知れ渡っていて、瞬く間に混乱マークが表示された。それによって戦闘力が低下し士気があっさり崩壊。

 蜘蛛の子を散らす様に逃げ出してく敵兵を前に行軍は止まった。

 さて、どうしよう?

 これまでも操作は出来たんだけど、先の景虎の激じゃないけど只管に直進するだけで充分だと思ったから前進の支持しか出さないで見守っていたけど・・・

 逃げた兵は本陣が襲われてるからか、後ろには戻らずに左右に数人から十数人になって逃げだしていた。

 一方敵本陣ではまだ450の敵が安田長秀さんと戦っていて細かい点が入り乱れての乱戦になってる。

 そこで私は戦略を練る。リアルタイム制だけに悠長に考える時間はない。


「よし、安田さんに部隊を纏めて貰って敵を南側に押し出してもらおう。で、こっちの本陣は前進して挟撃だ」


 乱戦に突っ込んでも効果は薄いというか、味方も混乱しそうなのが怖い。

 そんな私の判断は功を奏し、見事に豪族を打ち破り、景虎の初陣を勝利に飾れたのであった。

 そして、またムービーが始まる。

 ここまでが戦闘のチュートリアルだったのだろう。そして、これから本編に突入するわけだ。


「見事な戦ぶりでしたな、景虎様」


「ああ、長秀も良くやってくれ・・・!?」


 景虎が安田長秀を讃えようとした瞬間だった。

 夕日が山影に隠れようとしていた黄昏・・・いや、逢魔が時。

 数本の矢が道脇から放たれた。

 光と闇の絶妙なバランスの中を飛来する矢は酷く見づらく、景虎は直感なのか何なのか辛うじて躱していたが、彼が乗っていた馬はそうはいかなかった。

 右脇腹に矢を受けた馬は棒立ちになり、馬上の景虎を振り落とさんばかり。

 ところが景虎の騎乗スキルが高いのか落馬しなかった彼は不幸に見舞わられた。

 矢の一本が右脇の下付近に突き立ったのである。


「景虎様ー-!」


 本庄実乃が、小島弥太郎が、安田長秀が、他にも彼らの家臣も中には矢を受けたものまでが大声を上げて遂に落馬した景虎に駆け寄る。

 私はどうなるのだろうとハラハラしながらディスプレイのムービーを見つめていたが、不意にスタートした時と同じ様に画面がブラックアウトし白文字でこう表示された。


『長尾景虎が討ち死にしました。このまま本編を続けますか?』


 は?

 どういうこと?

 景虎が初陣で討ち死にするわけないじゃん。

 だったら、これはゲームの仕様?

 もしかして、先陣部隊を倒した後に逃げて行った残兵を討ち取りにに行かせなかった事でBADENDになったとか言うのだろうか?

 選択肢は出なかったけど確かに幾つかの大き目な赤い点が散り散りに逃げていく様子は見てたけど、これをプレイヤーの判断で追いかけて落ち武者狩り見たいなことまでやらないといけないとか、結構ハードな作り込みだ。

 取り合えず、どうしようか・・・

 最初からやり直してもいいし、このまま続けてどうなるのか見てみるのも一興だ。

 ゲーマーとしては一通りのエンディングは網羅したいし。

 それになにより、私は成り切りプレイをするって決めた。なら、どんな判断ミスでも受け入れて続けようじゃないか!


「よし!」


 気合を入れなおして、ゲームを続ける決意をして「はい」をクリックするのであった。


 



 



 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ