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真の勝者

挿絵(By みてみん)



 森を抜け、城壁の眼前まで来た一行。シュラが立ち止まり、開口一番に・・・


「おい、城ないじゃん!」と絶句した。確かになかった、城壁の後ろには虚しく空が広がる。見間違いかもしれないので、振り向いて必死に同意者を探すシュラ。反面、レウルーラは冷静だった。歳こそ同じであっても、犬であった期間を合わせれば十歳も年上であるし、なにより魔術師なのだ。短絡的に動く脳筋戦士とは訳が違う。


「まあ、落ち着いてシュラちゃん。おそらく魔法の結界で隠してあるのよ。しかし、これほどの規模を隠しきるなんて相当な手練れの術者か、人海戦術で行っているのか・・・」そう言って、魔法探知を唱えるレウルーラ。すると、城の方に向けた彼女の右手の先が一瞬光を帯びた。


「・・・!!あれ・・・おかしいわね。反応がない」


「え、どゆこと?」見えないし魔法探知にも引っ掛からない。二人は顔を見合わせた後、ソドムに説明を求めた。


 ソドムは馬上からシュラを見下ろして


「ん?城があるとは言ってないのだが・・・」と言ってのけた。


「えー!どう考えたって、万全な城ができたから安心して暮らせるっていう話の流れだったじゃん!」そう言ってうずくまる。かと思えば、立ち上がり激昂するシュラ。

「ないの?あたしの城ぉー!」


 レウルーラは得意げにうんちくを語った手前、恥ずかしくて知らないふりをした。ソドムの背中に顔をうずめ、犬だった頃のクセを装って、顔をすりすりと擦り付けて甘えて見せる。都合が悪くなると、よくやる手だった。


「いや、防衛体制が出来たって言っただけだろ。嘘はない」

(てか、あたしの城ってなんだよ・・・。大丈夫かコイツ)


「そりゃ・・・そうだったかもしんないけど、普通は城ができてると思うってば・・・」確かに、その通りなので肩を落とすシュラ。


 レウルーラもガッカリはしているが、野宿に比べれば全然ましなのでショックは少ない。

「私はかまわないけど。これから、みんなで造ればいいじゃない」

(こんなもんよね。逆に私抜きで全部出来ていては つまらないもの。このくらいで丁度いい)


「岬の先端だから守りやすく、見た通り攻城兵器も入りにくくしてある。頃合いを見て木々を伐採すれば、敵が隠れる場所はなくなり、こちらから一方的に攻撃できるようになるはずだ。それに背後には海があるため、戦争しながら釣りも出来るぞ」と言って笑うソドム。

 籠城の基本は水と兵糧、これなくしては堅固な城でも意味はない。穀物は保存できるとしても、いつも硬いパンや薄めた粥では士気が下がる・・・そこで釣り!楽しみながら、新鮮な栄養源を支給できる仕組みである。


 それと、皆にはまだ説明していないが、階段で崖下の白砂ビーチに降りることもできて、浜は他の陸地と接していないため、安全に潮干狩りや浜遊びができる理想郷であった。(といっても、ビーチの敷地は家で例えれば数軒分程度なのだが)


「でも、それって海側から簡単に攻めれるってことじゃない?」シュラは当たり前の質問をした。


「ハハハ、そこは手を打ってある」


「幽霊船で迎撃する・・・とか?」レウルーラは、そうみていた。


「それもいい。だが、経費がかからない方法をおもいついてな」


「もったいぶるわねぇ~」


「あれだ・・・、お前の好きなデスリザードマン達に干潟から引っ越してもらったのだ」竜王の眷族であるリザードマンは、「同じく温暖な気候ならば」とあっさり了承して移り住んだ。竜王が人の姿になっていると勝手に勘違いしているのを上手く利用したわけである。


「げっ、アイツらを・・・ね」


「確かに泳ぐ重騎士みたいなデスリザードマンが哨戒しているなら、誰も手出しできないわね」


「うむ、女子だけで遊んでいても、モンスターに襲われることもなかろう」と、付け加えた。ついでにサラリと言ったが、ソドムの本当の狙いは女子の浜遊びにある。


 長い年月をかけて、女子が水遊びする場合「白い薄絹を身に着ける」という風習を根付かせるため腐心してきたものである。胡散臭い突如湧いた風習だが、絹が水切れが良いのは確かで、薄ければ更に水をあまり含まないので、多少の説得力はあった。

 白なので濡れると透けるという問題は、「そのほうがセクシーでクール」と、強引に突破した。すぐには無理でも、ファッションリーダーとしてレウルーラやシュラにも協力してもらったり、連邦王都では流行はやっているなどど茂助に噂を広めさせたり普及に努めてきた。


 そして・・・ようやく、収穫の時を迎えて、ソドムはご機嫌であった。


「いいわね、気分転換に海で遊べるって」


「だろ?ギオンの頃は護衛付きじゃねーと浜でリラックスなんてできなかったからな」


「うんうん、ワニにならエロい水着を見られても全然平気だし!」


「そ、そうね。種族が違いすぎるってことは、そういうことよね。まあ、水着くらいなら誰に見られてもかまわないけれど」と、すっかり白絹水着に慣れているレウルーラ。

 普段からハイレグレオタードを着ているのだ、今さらなんとも思わないのかもしれない。ましてや、ソドム以外の男は芋みたいなもので、彼女にとっては どうでもよかった。



 雑談に花を咲かせていると、城壁の上にいる見張りの兵が跳ね橋を降ろして門を開き、皆を迎えた。

 守りに特化しているだけあり、城壁の外側には深さ2mほどの空堀。普段は城門を固く閉ざし、跳ね橋を上げており、力技では攻略できない造りだった。それを突破したところで、二つ目の壁と城門があるのだ、不意打ちや内応があっても、一気に侵入することはできない。


「ご苦労!」と、ソドムは兵たちに手を挙げて、彼らを労う。ゲオルグ達はレウルーラ等を安全圏に送り終えたので、哨戒任務に戻っていった。



 城壁の上にはアレックス達の来訪を聞きつけた女性たちが群がる。


「アレックス殿下ぁ~」とりわけ若い女子が手を振って騒ぎ立てている。容姿端麗、血筋、性格など申し分のないアレックスは、どこへ行っても人気なのだ。面倒見もいいため、男にすら好まれる稀有な人であった。


「は・・・はは。やあ、ありがとう!みんな」と、手を振り返すアレックス。笑顔のつもりであるが、果たして笑顔になっているのかは自信がなかった。何しろ、十年前に死んだと思われた少女達が実は生きていて、手を振ってるのだから・・・感情の処理が追いつかない。


 シュラは小声でつぶやく。

「あ~、カレンちゃんにミカちゃん・・・他の子達も。昔の友達がみんな生きていたんだよね・・・。あっちは何ともないんだろうけど、なんかモヤモヤしない?アレックス」


「そうですね。なんだか夢でも見ているような・・・そんな気分です」


 レウルーラは住民たちの明るさに驚いている。

「ねぇソドム。十年もここにいた割には皆の士気が高いっていうか・・・元気よね」


「ああ、給与や休みには相当気を使っているからな。ギオンに残した家族への手紙をやり取りできるサービスや、ゾンビのコスプレして街との中間地点で落ち合うのを許可したりと、ストレスが少なくなるよにう努めてきたつもりだ」


「小規模なアンデットの迎撃は、民間志願者に任せていた訳がわかったわ」


「永きに渡って掘削三昧さいくつざんまいでは気がおかしくなってしまうしな」と言って、ソドムはツルハシを振り下ろす仕草をしてみせた。


「掘削?井戸の?」


「いや、岬の先端であるこの崖をだ。海面から・・・建物にしたら6階ほどの高さである この崖に穴を掘り、移住空間を確保しているんだ」


 それらの説明をしつつ、一行は二つ目の門をくぐり岬の先端である崖にでた。そこは城の建設予定地なので ただの平地であるが、下へ掘り進めるための拠点たる建物と、作業員たちが寝泊まりする木造住宅が立ち並んでいた。


 ソドムは地面を指さし、

「この下は仕上がっているぞ。食堂や兵舎、略式ながら謁見の間もある。そうさな、崖のイメージとしてはアリの巣・・・蟻塚ありづかみたいなもんだ」手振りでアリの巣の断面を例えて説明した。


 シュラは直感で分かったようで、

「あ!崖そのものが城ってこと!?」と核心をつく。


「そう!それ!!偉いぞシュラ」ビシッっと指さすソドム。なんだか今日は褒められっぱなしで、シュラは照れてしまい、視線を泳がせた。


「なるほど、大掛かりな資材の搬入がいらないわけね。掘るのも大変でしょうけど」


「そうだな、随分と時間もかかった。あとは防衛のためにも、地上に城を造れば完璧になる。城には、我々が住む見晴らしのいい豪華な部屋も造るぞ。あと、城と 崖の先端とのスペースには、ちょっとしたパーティができる庭を造ろうと思う」


「素敵!」そう言って、レウルーラはソドムの背中にしな垂れた。


「はは・・・」ソドムは、ようやく秘密を打ち明けることができてホッとしていた。そして、喜んでもらえて嬉しかった。ようやく、安全な場所で美女と戯れて美食に舌鼓を打つという夢が叶う。

 この温暖な気候、しかも下には白砂のビーチがあり、エメラルドグリーンの海が広がる・・・加えて女子には薄絹の水着・・・まさに楽園であった。

(ふはは、完全勝利だ。連邦と帝国とは不可侵条約を結び、城壁は堅固。海にはデスリザードマンが護衛代わりにいる。兵は最強の作品であるトロールゾンビと魔人シュラ。これに大陸でも指折りの魔術師である妻レウルーラ。どうだ、参ったか連邦や帝国の野郎どもー!最後に勝てばいいのだよ、最後になぁー!)と、ソドムは心の中で誰かに自慢して悦に入っている。



「ねぇねぇ!!あたしの部屋もあるんでしょ!?」と、シュラはジャンプして騎乗のソドムの肩を叩いた。心の中で勝利に酔いしれていたソドムは、無理やり現実に引き戻され少し不機嫌になる。


「あ!?」将来 嫁に行くんだから あるわけねーだろ、っと言いそうになったソドムだが、眷族として愛人として傍に置く計画を思い出し、

「ああ、もちろんだ」と微笑んだ。

(絶対服従の兵にして、遊び相手だ。これほど都合のいい女はおるまい)


「・・・あ、何でもない。贅沢言わないで同じ部屋でいいよ」と、思い直すシュラ。

(おっと、忘れてた。明日にでも結婚することになるんだった。出羽守じいさん、迷わないで来れるかな)


「ん?変な奴だな・・・」

(まてよ・・・、いっそのことアレもオープンでいくか!?影武者シャドーサーバントもいるから、乱入歓迎なわけだし。見られながら・・・というのもいいかもしれん)


「ななな、なに言ってるのシュラちゃん。せっかくのチャンスじゃない。アパート代も取らないだろうし、ね?」と、ソドムの脇腹あたりをつねるレウルーラ。良からぬ気配を感じ取ったようだった。

(じょ、冗談じゃないわよ。居座られたら、夜の営みができないじゃないの!)


 ソドムはレウルーラと一緒に馬から降りて、シュラの話から逸らすため城の構想を語り始めた。生真面目なレウルーラは術中にハマり、これからの必要経費と収入に考えを巡らせた。

 どう考えても予算オーバーな気がして、念のため借金残額を尋ねる。


「老師に借りた資金で足りそうなの?」


「それは・・・」と、説明しようとしたソドムの声をシュラが遮った。


「あぁぁー!!アイツは!!」そう叫んで、破邪の剣を抜き放つシュラ。

(コロス・・・)

 彼女の視線の先には中年の酔っ払いがいた。髪が薄く、顔の凹凸が少ない。その男は、贅肉を揺らしながら こちらに歩いて来た。

「これはこれは、綺麗どころの到着ですな・・・ソドム卿」のそのそ現れた男は、かつて敵対していたハンドレッド元伯爵であった。


 レウルーラは取り巻きがいないか確認して、召喚よりも近接で仕掛けたほうが早いと判断し、飛び掛かりやすい態勢をとった。ドロスは、退路を断つため回り込もうと後退りしている。


「おっと、丁度良かった。紹介しよう、ここでの第一号の特権階級であるハンドレッド卿だ。称号は検討中だがな」ソドムは旧知の友を紹介するように、笑顔で彼と肩を組んだ。


「いったいどういう風の吹き回しかしら?」レウルーラは珍しく怒気を放った。かつて侮辱されたこともある上に、戦争までした敵なのだ。はいそうですか、と言って仲良くなれるものではない。シュラなんて、どう殺すかしか考えていなかった。


 過剰な反応に驚いたソドムは、すぐさま弁明を始めた。

「いや、何でも秘密裏に動いていた俺が悪い。まずは剣を納めて・・・だなぁ、座って話をしよう」といって、近場にあった作業員休憩場のイスを指さした。


「伺いましょうか・・・」と、言葉では素直に応じたレウルーラ達であったが、眼は獲物を追うようにハンドレッドに向けたままであった。少し前まで戦争をし、結果 領土を失ったのだ無理はない。



 円陣を組むように座ったのを確認し、ソドムは事の経緯を話し始める。例外的にレウルーラはソドムの膝の上に座り、感情を押さえられないシュラはソドムの隣に座っているハンドレッドの背後で仁王立ちしていた。

 気分よく ほろ酔いだったハンドレッドも激しい殺気で酔いが醒め、戦慄している。ソドムの大恩人として紹介されるはずが、まさかの針のむしろに座らされ逃げ出したい衝動に駆られていた。

(ま、まさかソドム卿にハメられたのか?)



「さて、この岬の開発やギオンの街の整備は、借入金によってなされたということは皆もわかってもらったと思う。そして、借りたものは返さなくてはならない。もちろん、コツコツとは返してきたが・・・到底返済できる額ではない!そんな時にハンドレッド伯爵領の裕福さを見て気がついたのだ」ソドムは皆を見渡した。


「エルドラドの街の富を全て奪おうと・・・」ニヤリとして、横にいるハンドレッドに頷いた。


 次はハンドレッドが話し出した。

「当時、竜王山脈の開発に行き詰っていた儂は、稼いだ財宝を持ち出して安全な場所での楽隠居を考えていた。そこに、ひょっこりソドム卿が現れて、まさかの利害の一致で密議したわけだ。なんといっても、楽園が如き この城塞に俄然興味が出てなぁ・・・。我が領は海もなく、温暖でもない。山に面した田舎ゆえに、実につまらぬ。そこで、儂の財産はそのままに移住し、エルドラドの富裕民の財産はソドム卿が総取りすることで話は決まった」


「うむ、ハンドレッド卿には我々への挑発と連邦への参戦要請、あとは享楽に溺れやすい惰弱な部下にエルドラドの財を一か所にまとめさせることを頼んだのだ」


 全てが芝居ということに呆れつつも、レウルーラはソドムに向き直り

「じゃあ、DJが伯爵領の財宝を根こそぎ持ち逃げした、というのは・・・」


「そうしたくなるように隙を作って盗むよう仕向けたのだ。そして、郊外まで逃げおおせたところを、即座に襲撃して財も奪った。ただ、襲撃したは公国軍でも伯爵軍ではなく野盗か山賊だから、民の憎しみは逃走したとされるDJのみにいくわけだ。ま、実際に彼らを狩ったのは借入元である老師の弟子たちであり、今回の手数料を含む借入金は、その財で完済できた」


「エグいことするわねぇ~」シュラは感嘆の意味で口笛を吹いた。ソドム達への軽蔑はなく、「上手いことやったな」という印象を持ち、警戒を解いて頭の後ろに手を組み、今後の事に思いを巡らせていた。

 ソドムが借金王ではなくなったのなら魅力も増すというもので、今後の生活が楽しみになってきていた。


「しかし、数百の正規兵を殲滅するのは大変だったのでは?」と、アレックスは質問した。彼は民を犠牲にした事への不快感があったが、それも戦の惨さであると自分に言い聞かせている。


「問題ない。ザーム老師の一党が悪魔王の洞窟ダンジョンで雑貨屋を営むということは、時節湧き出てくる凶悪なモンスターを撃退できる武力があるということだからな。ロクに戦したことのない兵など、物の数ではない」


 レウルーラは十年前にソドムとザームの下へ訪れているから事情に詳しい。

「確かに・・・。魔術師だけでなく腕利きの私兵もいるものね。あとは、ダンジョンに挑んでる猛者たちにも加勢を頼んだのかもしれないわね」


「これは辛辣ですなソドム卿」と、旧部下たちの弱さを恥じてハンドレッドは苦笑いをした。


「で、DJは殺したの?」


「数名の部下と共に捕えた」


「で?」


「だが、闇夜に紛れて逃げたと聞いている。結局、脱走先で市民に捕まったらしいが・・・」と、涼しい顔でソドムは言った。


「こりゃまた酷いことしたわねぇ~。わざと逃がしたんでしょ」シュラは笑った。


「ご愁傷様。きっと今の領主アジールさんには内密に、市民たちに私刑リンチされたわけね」死人に口なし、こちらの陣営は恨まれずに済み、大いに潤ったためレウルーラも機嫌が良かった。基本、闇魔術師ダークメイジであるため、彼女の倫理観は一般とはズレているかもしれない。


「ああ、実行犯であり 自発的にやったことだから言い逃れはできまい。ただ、今作戦の心残りは豪華絢爛なハンドレッド卿の居城を運べなかったことくらいだな」


「言えてる!凄かったよねぇ~あの城」


「そうよね。まるで天界のような素晴らしさだったわ」金品に興味を示さないレウルーラでさえ、感慨に浸る名城であった。


「ガッハハ。そのように気に入っていただけましたかぁ」と、ハンドレッドは膝を打って笑った。自分の美的センスを褒められたのが、よほど嬉しかったらしい。

「よっし、これから造る上物である城に再現しようではありませんか、我がガランチャ城を!」


 ソドムも釣られて笑いつつ、

「いくらなんでも、そこまで資金がない」と、率直に現状を言った。


「なんのなんの、作戦とはいえ二人の美女への非礼の数々。そのお詫びに私財を投じましょうぞ」ハンドレッドは、ふんぞり返るように座りなおした。


「よ、よろしいのか?いや、そこまでしてもらわ・・・!?」人のいいソドムは、つい断ろうとしたが、すぐさまシュラに頭を叩かれた。すかさずレウルーラもソドムの顔を反対方向に押して、話の主導権を奪った。


「ありがとうございます、ハンドレッド様」そう言ってレウルーラはハンドレッドの膝にやんわりと手を置いた。ソドム以外の男に触れるのは、異例中の異例であった。美女には慣れているハンドレッドだが、レウルーラから邪険にされてきただけに、新鮮な喜びがあった。


「すげーな、オッサン見直した!」シュラはハンドレッドの両肩を後ろからガッシリ掴んで顔を近づける。正直、魔獣にでも捕獲されたような痛みなのだが、ぶっきらぼうな賛辞を贈るシュラですら今のハンドレッドには可愛らしく映った。


「これから住む我が家と思えば、なんてことない投資というもの。お気に召さるな、ガーハハハハ!」ハンドレッドにとって、城は自宅でありソドム達は自分を守る傭兵か何かだと思えば、それに私財を投じることは惜しくもなんともなかった。


 そして、彼はソドムが欲深き男ではないと見抜いている。ただ金を欲する野盗が如き男なら、とっくに金品を奪えたはずなのだから。念のため、自分が老衰で死んだとき、ソドムに一定割合の遺産を渡す契約をしているので、急いて命を狙われることもない。


 となると、真の勝者はソドムではなく、ハンドレッドなのかもしれない。

 

 見晴らしのいい岬は隣国との不可侵条約で平和が約束されており、ソドム貴下の強兵と華麗な城、新鮮な魚介に山の幸、下に降りれば白浜のビーチに透ける水着の女子達・・・それらを最も楽して手に入れたことになるのだから・・・。



★長らくお付き合いありがとうございました。

いよいよ、20年後を描いた本編

「英雄の影 ~魔竜、勇者を育ててしまう~」がスタートです。

是非、ネットで検索してみてください。二か月更新予定です!

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