第六話 エイラの森 後編 青き終末の炎
ーーーーーールーシー視点ーーーーーーー
戦って約十分が経った、私は敵の攻撃を避けながら魔術で応戦していた。
敵の攻撃は一撃一撃が重かった、完璧に避けたつもりだったのに、いつの間にか傷が出来ていた。
服もボロボロになっていた、約十本の腕、それに加え凄まじい程のツルの数。
避けたはず……なのに当たっている、恐らく、当たっていないと思っていたのは自分だけだったようだ。
こんな化け物勝てるはずもない、自分の魔術は全部当たっているのに、敵は、『何かしたか?』と嘲笑われているかのように効かない、恐らく弱点であろう、火の魔術も通用しない、火が弱点なのは間違いない、だけど、自分が使える炎魔術は効かない、これでも全力の魔術なんだけどな、ってちょっと残念な気分になっていた。
逃げようと思っても逃げられない、魔力で足を強化して走っているのに、いつも立ちはだかる、足がないのに、なぜそこまで早く動けるんだと、文句の一つや二つは言いたい。
そう思いながらも私は、今出せる全力で、応戦した。
約十本の腕と数え切れない程のツルを避け、後ろに引きながら、魔術で攻撃している、いわゆる、ヒットアンドアウェイだ。引きつつ、魔術で敵を足止めし、徐々に逃げる、そして兄の元へ逃げる、悔しいけど、今の私じゃ到底勝てない相手……早く兄のところに戻らなくては……きっと迷惑な奴だと思われている……あっけなく、脚を奪られ、誘拐され、今ピンチな状況になっている、あそこでもっと早く対処していれば、兄と戦い、勝てたかもしれない、今思えば、私は兄に助けてもらってばかりだった、兄は皆が言うように、そんなに頭は良くないと思う、妹の私がそれをよく知っている。
でも魔術の腕は、本物だった、本気の私でも、兄の足元にすら及ばない、妹だから一番知っている。
兄の魔術の腕は、妹の私が言っていいことなのかどうなのかわからないが、ハッキリ言って”化け物だ”
その気になれば今まで、いじめてきた人達どころか、国を一つ軽く滅ぼせる、そんな力を持っているのに、なぜ兄は、やり返さないのか、と以前聞いたことがある、兄は『やり返したところで何になるんだ?』や『国を滅ぼして何になるんだ?、魔王にでもなるのか? もしできたとしても、俺はやらない、できない、何の罪もない人達を殺すなんて、まっぴらごめんだ』といつも言っている。
甘すぎる……兄は甘すぎるのだ……子供の時、欲しがっていたおもちゃを買ってもらえずに駄々をこねていたら、自分の貯金をすべて使って、欲しかったおもちゃを買ってくれた。友達と喧嘩したら、いつも慰めてくれた、兄は友達がいないのに、『友達とは何か』と語っていた、優しくて、甘くて、ちょっと頭の悪い兄、滅多に魔物が出ないといわれているリネル国に魔物の大群が迫ってきたときも、兄はずっと守ってくれた、命懸けで私を守ってくれた。
ずっと大好きだった兄を、もっと好きになってしまったのだ、そんな甘すぎる兄に、ずっと甘えていたんだ、兄に任せていれば、何とかなると。
でもそれではダメなんだと思い、兄から魔術を習った。
そしてこの歳で、狂魔とも、戦えるようになった……強くなっている気になっていた。これも甘えみたいなものだった。でも、今こんな魔物と戦って、完全に理解した、『私は弱い』と
いつの間にか、私は膝をついていた、魔力が残り少ないことと、眠気、や疲労感が、尋常じゃない。
「ああ…………死んじゃうのか……私………」
魔物が近づいてくる最中で、ルーシー・ルミナスは走馬灯らしきものを見ていた、私を産んでくれた、私そっくりの母親、いや母親に似ているのが私か、やっぱり親子だね。
そして、兄にいつも変なことを教えているのに、なぜか私には教えてくれなかった、この歳になって、やっと理解したが、小さい兄になんてことを教えてくれたんだこの父親はと、怒ってしまっている。だけど父親は父親だった、兄と母親、そして私をたくさん愛してくれていた、大好きな両親。
そんな両親はもういない、いや、もうすぐ会うんだ、会えるんだ、そう思うと嬉しいような、悲しいような。そんな感情が蘇ってくる。
「パパ……ママ……」
ルーシーは天に手を伸ばしている、『迎えに来たんだね』と……
次の瞬間魔物の腕がルーシーを貫……かなかった。
避けたのだ、ルーシーが……もう生きることを諦めたルーシーが……なぜか避けたのだ。
「え、なんで……体が勝手に」
自分の体がなぜか勝手に動いた、まるで『まだ死ぬべきじゃない』と神様が、いや、父と母が言っているように見えた。『兄を残して死ぬな、絶対に助けに来てくれる、お兄ちゃんを信じなさい!』と両親が言っている、そう聞こえた、気がしたんだじゃなくて、聞こえたんだ。、 そう悟ったルーシーの目に再び光が宿った。
生きる!生きて……また兄に会う!学校も行けずに死ぬなんてイヤ!、美味しいものをたくさん食べたい!、おしゃれだってしたい!、お兄ちゃんと結婚して子供を産みたい!、と最後は自分でも何を思っているんだと、ツッコミをし笑ってしまう。
兄も言っていた!なんか口調が先生みたいな感じで『諦めたら、そこで試合終了ですよ……』って!
だからもう諦めない!、勝って!会いに行くんだ、愛しの人の元へ!。
そう思うと、ルーシーは手に魔力を込めた……
体に残っている、全魔力を、手に込めた、恐らくこれを放てば、私は気絶する。だけど、こいつを倒すにはこれを使うしかない。もうそこには躊躇いも何もない、森なんて燃えてしまえばいい、後でお兄ちゃんに怒られるかもしれない、それでもいい!、今ここでやらなきゃ、私は死んでしまう!。やるんだ!
意を決め。ルーシーは詠唱を唱える。
「炎よ!帝よ!我に真の力を与え、その力で敵を焼き尽くせ!」
「炎帝!」
その場にいればすぐに骨に代わるほどの熱気の炎が、魔物の周囲を囲い、一瞬にして燃やした、やはり木には炎だな、これで倒れない魔物はいない……はずだった……
「ウルアアアア!」
だがそこには、燃え尽きている木の魔物ではなく、生きている、木の魔物だった。
平気で立っているように見えるが、見るからに致命傷、木の魔物もギリギリだったのだろう、だがその致命傷も、魔術であろう何かで回復していた。
だがルーシーは絶望も、何もしていなかった。
『自分の全力で負けた……もう魔力も全部使い切ってしまった、もう動けない、今にも気絶しそう、だけど、悔いはない、全力で戦って負けたんだから、それだけのこと』と
最後は笑顔で死のうと思っていたのに、涙が流れる。流したらダメなのに、どんどん出てくる、負けて悔しい、死ぬのが怖い、そんなことが頭によぎってしまう。
そして魔物が私にとどめを刺そうとして……最後に……ルーシーが言った。
「ごめんなさい、お兄ちゃん……」と言い放ち、涙が一つポロリと落ちた。
「久しぶりにお兄ちゃんって呼んでくれたな……」
「え?」
「ギュイァァァァァア!!!」
そこには魔物に思い切り蹴りをかました男がいた。
服装がボロボロはボロボロだが返り血をたくさん浴びていて怒りに満ち溢れている瞳。ルーシーの理想の男性がそこにいた。
魔物は思い切り蹴られた衝撃でうずくまっている、ルーシーの蹴りですら何の痛みを感じなかった、アの魔物がうずくまっている、どんな威力しているんだと、驚愕していると、兄が近づいてきて、思いきり抱き締めてくれた。暖かい、ちょっと血と汗の匂いがするが、そんなことはお構いなしに嬉しかった。
「ごめんな、ちょっと足止め食らっちゃって、そいつらが思いのほか強くって、遅くなった、よく耐えたな、よく頑張ったな」
と頭を撫でられた、あぁ嬉しい、諦めなくてよかった、あそこで諦めていたら、きっとこの世にはもういなかったし、兄に会えることもなかった、パパ、ママありがとうとルーシーは心の底から感謝した。
「ごめんなさい、お兄ちゃん……私勝てなかった……私弱かった……お兄ちゃん……私に幻滅した?」
レミルズは『何言ってんだこいつ』って顔で優しく微笑み。
「幻滅なんてするわけないだろ!。お前はよく頑張った、立派だった!、お前が戦ってる音で分かった!、お前は弱くなんかない、負けてなんかない、強いんだお前は!、胸を張れよ!、いつもの明るいお前をお兄ちゃんに見せてくれよ!]
そんな言葉を聞いたら、もう笑うしかないじゃないか。
「うん!ありがとう!お兄ちゃん!大好き!」
「ああ、俺も大好きだぞ!……だからこれを着ていてくれ!頼むから!」
そういうとレミルズは、自分の着ていた長めのローブを渡してきた。
なんで今?と思ったルーシーは自分の首から下を見て、ようやく理解した、服がボロボロで、下着がほぼ丸出しだったのだ。
唐突に恥ずかしくなったルーシーは急いでローブを着た。
「す、すみません、お兄様……」
「お、おう……なんつうか……成長したな!」
思わず兄を叩いてしまった、セクハラが過ぎる、と
兄はイテテと笑いながら、振り返った、振り返った先には、すでに完全に回復しきった、極魔がいた。
「ウルアアアァァァァァアァ!」
鼓膜が破れるほどの咆哮に私が怯えていると、兄は優しく撫でてくれた。
「任せろ、あいつは俺がやる!」
ーーーーーーーレミルズ視点ーーーー
俺は今怒っている、猛烈に怒っている、今までにない怒りだ、妹を、大切な人をこんなにボロボロにさせておいて、生きていられると思うなよ、このポケ〇ンもどきが…………
もうこの森なんて、どうでもいい……
そう思い、俺は手に魔力を込め、詠唱を唱えた。
「青き、終わりの炎よ、その力をもって、敵を焼き滅ぼせ」
「青き終末の炎」
次の瞬間、青い炎が、魔物を、いやその周辺の森を”焼き滅ぼした”
ハッ、と我に返ったレミルズが出した一言は。
「やべえ、やりすぎた……」
ルーシーが目と口をこれでもかってぐらい開いていた。ドン引きされた。
遅れてきたカイエンも「お前、なにしとん」って顔で見られた。
その日、エイラの森が半分以上焼き消えた……