第五話 エイラの森中編
朝になり、俺たちは再出発した、交代ずつの見張りだったのだが、カイエンの魔力回復が優先、というわけで一晩中俺が見張っていた。
カイエンは申し訳なさそうにしているが、カイエンの魔術がないと俺たちは森から出ることができないので、別に問題はない、夜更かしは慣れっこだ。三日は寝ずに動けるぞ、夜のレミルズはさながら王魔級だ。
そんな頭のおかしいことを考えていること四時間が経った。そろそろ森から出られる……
「よしもうすぐで森から出れるぞい!」
カイエンもいつもの口調に戻り、森から出られるという、安心感が出てきている。
もちろん俺とルーシーも安堵している。
ルーシーは眠れなかったのか、目の下にクマができている。せっかくの美人がクマのせいで、台無しだ。
無論美人で可愛いのは変わらんがね、目の下にクマができようとも、クマになろうとも妹を愛して見せるさ。
「やっと……森を抜けることができますね……」
とルーシーが、安心して、眠そうにしている、まあ眠いよな……俺も周囲を警戒しながら一晩中起きていたから、集中力が落ちている。
流石に眠いな、もうそろそろ森から抜けるし、もう魔物の気配はない……少し……眠るか……
そんな時だった……
バキィ!!
馬車の荷台の真下から、何かが貫いてきた、触手……いやツルのようなものが、そのままルーシーの脚を掴んだ。
「お兄様!」
「ルーシー!」
手を伸ばそうとしたが遅かった……意外にもそのツルは早かった、いや俺が遅かったんだ、判断するのが遅かった、やはり一晩中見張りをしていたこともあったのか、集中力が続かなかった……こんな時に何やってんだ俺は……大事な時に判断を怠っていた……。
ルーシーはそのまま引きずられ森の奥に連れ去られていった。
「何があった!」
「叔父さん!ルーシーが攫われた!」
「なにい!俺の影薄がバレたってことか!?」
「おそらく!」
カイエンの影薄が通用しなかった? だったら最初から襲うはずだ、なぜ……
もしかして、狙っていたのか、俺たちの集中力が途切れる瞬間まで、ずっと……襲おうと思えばいつでも襲えた……あのツルの微量な魔力を気づけさせないぐらい、俺たちの脳を弱体化させ、今襲ってきたのか。
だとしたら相当頭がいい……だが、頭はいいが、頭が悪いな、俺の妹を攫った時点で……お前の死は確定している。
「叔父さん、待っていてください、ルーシーは必ず連れ帰します……」
「待て、俺もい……ッ!!」
カイエンはレミルズの目を見た瞬間に感じた、レミルズの目にはどす黒い闇が広がっている、必ず奴を殺すといわんばかりに殺気に満ち溢れた目、長年冒険者、情報屋としてたくさんの人や、魔物の目を見たことある、カイエンですら見たことのない、殺気に溢れた目、止めようとしたら、逆に殺される、『ついてこなくていい、足手まといになるだけだ』と言っているみたいなものだ……カイエンは瞬時に考えた後
「わかった、だけど絶対無理はするな、いいか?」
「はい、わかってます、必ず戻ってきます”ルーシーと一緒に”」
カイエンの頼みに俺は肯いた
必ず助ける、俺はそう誓い、地を駆けた……
ーーーーールーシー視点ーーーー
暗い……ここはどこ……そうだ、さっきツルのようなもので脚を取られ、引きずられているときに、どこかに頭をぶつけて気絶していたんだ……「うっ」……まだ頭が痛い。昨日、寝れなかったのと連なり、思考が上手く回らない、でも、ここから逃げなくちゃ、早くお兄様と叔父さんのところに行かないと、そういうことに頭をフル活動させ、今は逃げることだけを考えた、暗闇の中でようやく目が慣れてきた。
だが、慣れて、周囲を見渡して、後悔した、慣れなければよかったのに……と。
そこにはまるで木を自在に操る巨大な木の化け物がいた。
木そのものだが、全身はツルで覆われていて、目は今まで見たことのないぎょろぎょろした目が十個以上、口は私を嘲笑っているのか、三日月のような形をした口、腕の形をした腕が左右に五本ずつ合わせて十本はある、足はないのか、這いずって動いている、こんな化け物、普通の人が見たら、嘔吐したり、失禁したりするだろう、ルーシーも思わず嘔吐いてしまうほどだ、そしてこの化け物の強さも確定した。
「極魔……」
そうこれほどに魔力があふれ出ている魔物なんて、見たことがない、以前ルーシーは仲間と共に国の外を歩いていたところに狂魔に襲われたことがあった、幸いルーシーは仲間を守りながら狂魔を撃退することに成功した、……だが今回は違う、狂魔なんかより強い敵だ、戦って勝てるだろうか、あまり思考の回ってない状態で勝てるだろ、不安になり、緊張で震えが止まらない……だが兄の言葉を思い出した。
『緊張なんて死ぬと思え』
そんな言葉が頭をよぎった、それを思い出すと、緊張がなくなった……不安はあるが、戦うしかない、勝つしかない、必ず兄の元に帰ると。そう誓い、ルーシーと極魔との対戦が始まった。
ーーーーーーレミルズ視点ーーーーーー
森の奥から爆発音的な音が聞こえた、戦っている……おそらくルーシーとルーシーを攫った魔物だろう。俺は音を頼りにその方向へと走った……だが……
「なんだ、これは……」
レミルズの視点の先には、恐ろしい数の魔物、500、いや1000以上はいる、その中には上魔と狂魔そして極魔も百匹以上混じっていた、極魔がまさかの100体以上もいる、だが、これだけの大物がいるにもかかわらず、奥にいるであろう極魔の方がここにいる1000体の魔物より強い……ルーシーはあんなのと戦っているのか……おそらく、ルーシーは勝てない、狂魔なら倒せるだろうが、極魔は狂魔の10倍は強いという情報もある、ここに居る魔物も極魔、しかも中位種には勝てないとわかって、配下になった、だとするとここにいる極魔は極魔の下位種みたいなものか、そして、俺の足止めをしていろって命令をしたのか、流石頭はいいな、極魔ぐらいになると天才の域まで達しているのかもしれない。
だがさっきも言ったように、ルーシーを傷つけようもんなら、手加減もくそもないね。
「悪いけど、ここで時間をつぶす暇はないんだ。お前らは……死ね!」
ルーシーと極魔との戦いとは別に大規模な爆発が起きた。