第四話 エイラの森前編
「なんつう轟音だ!」
森が悲鳴を上げているのではないかのように、森中に響き渡る轟音。
「一気に突っ込んで森を抜けるぞ!」
そういうとカイエンは、速度を上げた、このままではお馬さんの悲鳴が聞こえそうだなってぐらい速度が上がった。
この森はとてつもなく広い、100エーカーある、うん100エーカーの森だ、いや、まあ、それ以上に広いと思うけど、測ろうなんて奴はいないだろう、こんなでかい森測りたくもない。
しかし、妙だな……
魔物はおろか、動物すらも出現しない、ここではよくオオカミが見れるって噂なんだが、……いやオオカミでるんかい、あぶねえじゃん!、ってなってしまう、やはり、極魔級がいるからか、魔物や、動物は隠れているんだろうか、こんなところで馬車を走らせてたらすぐに見つかりそうなんだが。
ここでカイエンさんの持っている自作魔術”影薄”
”が役に立つってわけだ。自作魔術とは自分で自作の魔術、そして稀にだが魔術が派生してスキルをを生み出す魔術、とてつもなく、強い魔術だが、使える魔術師は世界でも少数らしい、少数なのに、こんな筋肉ムキムキで、明らかに魔術苦手そうなのに、自作魔術使えるのは正直凄いな、カイエン曰く、これを習得するのに、五十年掛かったそうだ、自作魔術を使えるとしても、作れるかどうかは、その人の努力次第、使えたとしても、努力しなければ使えない、ある意味、最強で最弱の魔術かもしれない。
どんなに努力しても、何年、何十年掛かったとしても、作れる魔術は一つか、二つ、もしくは、生涯を終える前まで努力しても、使えない、作れない者もいたとか。
それほどまでに自作魔術とは、努力の先に実る魔術なのだ、使えたとしても、努力しなければ、作れない、努力したとしても、作れないかもしれない、作れなきゃただの意味のない、”最弱の魔術”。
それ故に、使える体質なのに、使わない者もいる、どんなに努力しても作れないのだから、当然といえば当然、ほとんどの者が、その魔術を諦めた。
だがカイエンは、五十年の間ずっと努力をして、”影薄”を作ることができた。
影薄の能力は、その名の通り、影を薄くする能力だ、簡単に言えば、影の薄い陰キャになるってことだ、……おい誰だレミルズみたいだなって言ったやつ。
だがこの能力は非常に優秀だ、俺は何度かカイエンと模擬戦をしたことがあるのだが、影薄でなかなか見つけることができなかった、そしてこの能力のおかげで、人が知りたそうな情報を、影薄を使うことによって、だれにも見つからずに、情報を得ることができる。
人の知られたくない情報とかも、もしくは国が隠している極秘な情報も得ることができる。
この能力のおかげでカイエンは、冒険者をやめ、情報屋を経営することになった。
カイエンの情報収集能力は折り紙付きだ。おかげでその辺の家より稼いでいるように見える。
その能力をエイラの国でも振るってほしいからという友人の頼みで、転勤という形になった。
まあ、そんな便利な能力のおかげで、なんとかこの森を抜けたいところだが。
「叔父さん、森を抜けるまでに持ちますか?」
「どうだろうな、全速力で馬車を走らせても、半日以上はかかる……俺の魔力量で影薄は十時間ぐらいしか持たない、ちと厳しいな……」
なるほど影薄は比較的魔力消費が少ないが、カイエンの魔力量でも十時間しか持たないか、いや十時間も、持つんだ、兵士よりは多い魔力量ということだ。
「どこかで隠れながら魔力を回復しましょうか」
「ああ、その方がいいな、あと四時間ぐれえしたら、隠れるところを探すか」
俺たちは四時間ほど進んで、隠れるところを探し、洞窟のようなものを見つけて、そこでカイエンの魔力が回復するのを待っていた。
「すまねえな二人とも、俺がもっと魔力量があったらな」
カイエンは申し訳なさそうにしていた、だが申し訳ないのはこちらの方なのだ。
「何を言っているんですか、自分は何もせずに叔父さんに任せっぱなしで……」
「そうですよ!、カイエンさんがいなければ、ここまで見つからずに進むことはできませんでした……」
「ハハ!ありがとのう!そう言ってくれるのは嬉しいぞい!、さっさとこの森から出らんとのう!」
いつもの口調に戻ってる……やはり緊張していたのだろう、緊張は死を意味する、緊張したら、死ぬと思えって父さんに言われたな、『夜の』緊張だけどな。
その後しばらく休憩して、カイエンの魔力が回復したところで、出発する。
「オルォォォォン!!」
とてつもない咆哮が聞こえた。
「近いですね……」
「ふむ……変な鳴き声じゃな!ハハ!」
いや確かに変な鳴き声ですけど、これ聞かれたら殺されてしまいますよ。
遠いのに体がピリピリ痺れてる感覚だ。これは極魔の確立が高くなってきたな。
「さっさと抜けてしまいましょう」
「おう(はい)!」
そして俺たちは再出発をした。
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約六時間は走った。あともう少しで出られそうなんだが。ここで事件だ。
そう”夜”だ、まあ当たり前のことだよな、ずっと日が昇ってるなんてことはないし。
「暗くなりましたね、どうしますか?このまま進みますか?」
とルーシーが聞いてくる。
正直このまま進んで、森を出たいのだが……
「いや、夜は視界が悪くなり上手く進めない、危険だ、ここら辺で野宿するしかない」
とカイエンが答える……流石熟練の冒険者だな、夜の危険性をよくご存じだ。夜の怖さはよくわかる。
夜は魔物が活発に動く時間帯、むやみに動こうものなら喰い殺される、おそらく、夜になったらさっきまで動かずにいた魔物も活動するだろう。
俺たちは魔物が昔住処にしていただろう洞窟を見つけ、そこで野宿をし、夜を過ごした。
「お兄様……」
今後のことを考えていたところルーシーが話しかけてきた。ちなみにカイエンはもう寝ていた、魔力を消費しすぎたんだ、仕方のないことだ、ゆっくり休んでもらうために、あまり大きな声を出さないように、小声で喋った。
「どうした?眠れないのか?」
いつ現れるか分からない大魔物がここら辺をうろちょろしているんだ、そりゃ怖いだろうなと思い、頭を優しく撫でた。ルーシーは嫌がらずに、むしろ安心したような表情を見せる。
「すみません、やはりちょっと怖いみたいです……」
「ああ、極魔級だもんな、ルーシーは怖いよな……」
「ええ、極魔なんて戦ったことがないので、どれぐらい強いのか、わからないもので」
「極魔は狂魔より凶暴性が高く、さらに魔力量も狂魔とは比にならないぐらい強い、とだけは言っておく、正直、叔父さんはもちろん、ルーシーですら勝てるか分からない……」
「そうなんですか……やはり狂魔よりワンランク上の極魔……強くないわけがないですよね、というより、よく知っていますねお兄様、まるで極魔と戦ったことがあるような……」
「………………本で……読んだことあるだけだよ……」
その時のルーシーは知りもしな、いやもう知っているのかもしれない、彼は極魔、そして王魔なんかを何度も倒していることを…………
「そうですか……すみません変なこと聞いちゃって!」
「ああ、それより早く寝た方がいい、明日は早いからな、俺が見張っててやるから、安心して寝ろ」
「お兄様はおやすみにならないんですか?」
「ああ、俺は叔父さんと交代に見張るから、後でちゃんと寝るよ」
「だったら私も!」
「大丈夫、二人で見張ってるから、ルーシー……寝不足は美容の大敵だぞ?」
「今はそんなのんきなこと言ってる場合じゃ!」
「シー……」
ハッと咄嗟に口をふさぐルーシー、カイエンがすごい不機嫌そうな顔で寝ているからだ。
起こしたらどうなるか知ったこっちゃない。そして小声でルーシーに伝える。
「何かあったら起こすから、ね?」
「わ、わかりました、……でもちゃんと起こしてくださいね?」
「ああ、わかったよ、お前のいびきがうるさくならないことを祈るよ」
ルーシーが頬をぷくっと膨らませ、そっぽを向いたまま寝てしまった。
すまないねルーシー、でも本当にお前のいびきと、寝相の悪さには手を焼いているんだ。
さて、明日は平和に森を抜けることができるだろうか。