第三話 ただならぬ気配
リネル王国から発って、二日が経った、この二日間は、ただひたすらに野原を走っているだけで、まあ、なんというか……暇だった。
そろそろ僕らが目指す国、『エイラ国』に到着する予定なんだが。
その前にどうしてもここを通らないと、エイラ国には行けないようだ。
そう、『エイラの森』だ。
そのまんま過ぎる名前なのだが、そこには黒い噂がある。
「叔父さん、本当に出ないんでしょうね?」
「安心せい!、ここら辺は滅多に出ないって聞いとるぞ、多分の!」
「いや、多分って……出たらどうするんですか”魔物”」
そう、国を出る、国外に出るということは、そこはもう無法地帯、”魔物”の住処みたいなものだ。
普通、国外に外出するときは、目的地までの護衛を雇うのだが、カイエンは『魔物なんて出ないからいらんじゃろ』とかぬかしやがった。
外の世界を舐めすぎだと思ってしまった、でも、別に雇わなくてもいいのかと思ってしまった。
カイエンも元冒険者だったのだ、見ればわかることだろう、その年齢とは思えないほどの筋肉、そしてたくさんの魔物と戦ってきたであろう、背中には古傷がたくさんあった、まさに漢って感じだ。
カイエンから聞くには、『自分は中魔モンスターまでは倒せる』とのことだ。
この世界には、魔物の獰猛度、危険度、魔力度の三つによってランク付けされる、獰猛度は、そのモンスターがいかに獰猛か、危険度はそのモンスターが獰猛になったときの危険度、魔力度はそのモンスターが持っている魔力、武力、防御力と、強さで決められる。
ランクは下から、初魔、中魔、上魔、狂魔、極魔、王魔と分けられる。
幸い、ここ周辺には、魔物が出たとしても、初魔程度の魔物らしい……それならカイエンでも楽勝だろう。
何なら俺達も参戦すればいいだけだ。
「怖いですね、お兄様!」
怖いと言いつつ森に入るのが楽しみというオーラが滲み出ている……
まあルーシーはカイエンより何百倍も強いことはわかってる
初魔や中魔程度なら赤子の手をひねるほど簡単なことなんだろう……
「ルーシー……お前が強いことはわかるけど、あまり森を傷つけじゃだめだからな?」
うっ、と声を漏らすルーシー、まさか森を傷つけるつもりだったのか……まあ魔物が出なければいいだけだ、出なかったら出なかったで、ルーシーが残念がりそうだけど。
「さあてそろそろ見えてきたぞ!エイラの森じゃ!」
そういわれて俺達は馬車の隙間から顔を覗かせた。
そこには木々が生い茂った、まさに『森』って感じの森だ。語彙力がないのは察してくれ、本当に森なんだもん。
だがおかしい……
「お兄様」
ルーシーから声をかけられた、ルーシーの顔を見ると、いつも見ている笑顔ではなく、真剣な眼差しでこちらを見ている。
「ああ……」
俺はこの異変に気付いた。この森は、本で読んだことがある、この森は自然豊かで、魔物なんて、滅多に出ない森、国内並みに平和な森と記されている、だがそれは本で記されているものとは全くの別、この森には、魔力が満ち溢れている。
いるのだ”魔物”が。 しかも上魔なんて比じゃねえ奴がいる。
「叔父さん……」
馬車を走らせる漢に声をかける……
「ああ……いるな、しかもとんでもねえ奴が……」
やはりこれほどの魔力、カイエンもいつもはだらしない声を発しているが、今回は漢らしい声で真剣に喋っていた。
それほど強大な魔物だということだ。
「どうしますか?、一旦、国に帰りますか?」
「いや、戻ってまた来たところで、こいつはいるだろうな、まるでここが住処のような感じを出してやがる……」
確かに、この魔力、『ここにたまたま着きましたので、すぐに出ていきまーす』って感じじゃないな。
まさに『ここは俺の住処だ、入ったら殺す』って感じだ。
あの本嘘こきやがったな、何が平和な森だよ、作者誰ですか?一発殴らせろ。
あの頃の純粋無垢で本を読んでいた俺に謝れ、いやもう俺は純粋じゃなかったな、あのエロジジイのせいで。
「じゃあこのまま進むんですか?」
「ああ、この魔力の正体である魔物に会わなければいい……」
「一気に森を突っ切るってことですね……」
「そういうこった!流石俺の息子だな!俺に似てやがる!」
あなたの息子ではないんですが、まあ息子のようなもんか。
「でもこの魔力……」
ルーシーがとてもこわばった表情を見せている。言わなくてもわかる。
「ああ……おそらく狂魔、いや極魔かもしれない……」
「狂魔か極魔か……戦おうと思えば死か……」
「ええ、流石に無理があります。私でも本気を出して狂魔と互角ぐらいです……」
ルーシーでさえ極魔は流石に無理か、狂魔なら俺とルーシーなら勝てそうだが、その魔物がどんな魔術を使ってくるかなんだよな……相性とかもあるし、万が一相性が悪かったら……
いや、大丈夫だ、会わなければいいんだ……もし出会ってしまったら……やるしかない……俺が。
「お兄様……」
ルーシーが心配そうな顔をしてみてくる。
「なんだ?妹よ」
「いえ、何でもありません、もし戦うことになったらって……ちょっと怖気ついちゃいました……」
やはり不安なのだろう、会わなければいいとは行ったが、多分、おそらく、いや確実に戦うことになるだろう、俺には何故かわかる、そしてルーシーもそれを察しているのだろう。
もし戦うことになったら勝てるだろうか、とか、死んでしまうのではないか、とかそんなの考えたら誰だって怖気るさ。俺だってそうだ、だから負けるとか、死ぬとかは考えなければいいんだ、そう考えれば、自然と勇気が湧いてくる。
俺はそっとルーシーの頭を撫でた。
「安心しろ、兄ちゃんがぶっ倒してやるよ!」
ルーシーにそう言うと、安心したように笑った。
「ありがとうございます……ですが”やりすぎないように”」
そして会話を終えた俺たちはエイラの森へと馬車を進めた。
とてつもない轟音がした気がした……