第一話 さよならの前に
ーー翌日。。早朝ーー
目が覚める。
よく眠れた気がする。
「ふああ……よく寝た…………ん?」
モニュ
なぜだか手が気持ちいい感じ、なんだろ、これ、どこかで触った覚えがある……
あ、これあれだ……察したよ俺は……
毛布をどけると、案の定そいつはいた。
パジャマは着ているが、おなかとかは見えている、寝相が悪い……、そしてなぜだか、頬が痛い、恐らく、寝相が悪すぎて、俺をぶん殴ったんだな……たまにはかわいいところあんじゃねえか、いや、いつも可愛いんだけど……。こういうところは小さい頃と変わんないだなって思う。
おっと、俺はいつまで胸を揉んでいるんだ。
もうちょっと触っていたかったが、これ以上は僕の竜王グラディウスが目覚めてしまうよ。
「起きろルーシー朝だぞ」
「ふぁあ……おはようございます。お兄様」
「ああ、おはよう……ところで聞きたいんだが……」
「はい?」
「なんで俺のベッドにいるんだ?」
そう、聞きたいのはそこだ、なぜ自分の部屋ではなく、俺の部屋で寝ているのか、まあ兄妹で寝ることは不思議じゃないと思うのだが、それは小さい時の話だ、俺らはまだ心が成人仕立てだが頭は子供っぽいが、体は、大人みたいなものだ、ルーシーみたいに、スレンダーでボインな女性が一緒に寝るのはどうかと思う、俺じゃない男だったら、真っ先に襲うだろう。ルーシーが妹じゃなかったら、ビッグバンしていただろう。
「今日でこの国ともお別れになるのが、寂しくて、つい」
なるほどな、そりゃここで生まれて、ずっとここで育っていったんだもんな、引っ越し先の国で上手くやっていけるか、心配なんだろう……友達ともお別れになるんだもんな、まあルーシーならすぐあっちでも友達出来そうだけど……その点俺は友達がいないからそんなに寂しくない、だがここは同意しておこう。
「そっか……そうだよな、ここで生まれて、育ったんだもんな、気持ちはわかるよ」
「でも、ルーシーならほかの国でもすぐ友達はできるさ、そう寂しがることもないよ」
「そう……ですね!、あっちの国でもたくさん友達を作ります!」
その意気だぞルーシー、まったくどっかの誰かさんも、友達出来るように頑張らないとね。
「最後に街中でも歩いていくか?まだ時間はあるし……」
「はい!ぜひ行きましょう!」
俺たちは朝食を済ませ、街中に出る……いつも見ている光景、たくさん市場が並んでいる、まだ朝早いのに、商売をしているところもある、やはり寂しいなと思う気持ちもある、今日でさよならなのだから。
まあ卒業したらまた来れるとは思うんだけど、しばらくのさよならって感じだな。
俺はここで生まれて、ここでルーシーと一緒に育ったんだって実感がする。
小さな頃はよくここで走り回ったものだ……まあいじめから逃げるために走り回っただけなのだが。
「やあ!ルーシー!おはよう!」
ルーシーに声をかけたのは、鎧を着た兵士……というか、ルーシーの友人の『バック』だ。彼は剣術と武術が得意で、国王直々に指名され、兵士になった、いわばエリートだ。すごいものだね、同い年だってのに、もう勝ち組じゃないか、女の子にもモテモテなんだろうな……と思っていると、そいつは俺を見るや否や
「なんだ、いたのか、影が薄すぎて、見えなかったぞ、レミルズ」
そうだ、こいつは昔から俺のことが嫌いで、ずっと俺をいじめていた、今もそうなんだが……しかし、影が薄いとは失礼だろ、まったく、でも否定できないのは辛い。
まあ面倒ごとは嫌だし、笑顔で話すか……
「元気そうですね、バックさん、流石国王から指名された兵士ですね」
そういうとバックはまるで自慢するかのように、そして俺をゴミを見るような目で見て、言ってきた。
「まあ僕は、選ばれし男だからね!、君みたいなカスと違って、国王を守るという立派な仕事に就いている。王族でも貴族でもない君はせいぜいブタ箱にでも入ってたらどうだ?はーっはっは!」
と笑い飛ばしてきた、うん、いつも通りだな、ルーシーはむちゃくちゃ睨んでるけど、どうどう落ち着いて、俺は別にいいんだよと宥める。
「なあルーシー、こんな兄なんか捨てて、僕の妻にならないか?僕の妻になってくれたら、何不自由のない、むしろ裕福な生活を送れるよ?」
それを聞いた瞬間俺はこいつを『殺そう』と思った。
だが、ルーシーは憐みの目で言った。
「このような性格をしている方とは一生結婚いたしません、貴方なんかより、お兄様の方が何万倍と良いに決まっています、貴方はまずその腐った性格を直してみたらどうですか? まあ、直したところで結婚なんてしませんけど」
すごいな、友人とはいえ、国の兵士にこの毒の吐き様、てかこいつ本当に友人か? 、とは言え、俺はこいつを一生許すことはないだろうな、俺のことはまあ百歩譲って良いとして、ルーシーに求婚をするなど、兄が許さんぞ、お前なんかにやるぐらいだったら俺がルーシーと結婚してやる。
「クッ!……なら無理やり奪えばいい話だ!」
そういうと、バックはルーシーの腕を無理やり引っ張った。
だが、ルーシーはすぐさまその手を振りほどき、魔術ではなく、格闘術で相手を気絶させた、鎧を着ているのにだ……さすが俺の妹と言いたいところだが……
「はっ!」
そうだ、やってしまったのだ、仮にもこいつは国の兵士だ。こんなことをして許されるはずが……
ん?……
「大丈夫そうだな」
「そうですね、行きましょう」
バックは気絶させられているのに嬉しそうな顔をしていた、気持ち悪い。
「ルーシー強くなったな、あいつ武術はこの国でもトップクラスだぞ、流石だな」
ルーシーは魔術師だが、俺は魔術だけでは上は目指せないぞと言い、武術と剣術を教えた。
努力の結果だろうな、あのバックが瞬殺だ。
「お兄様と比べたら、私なんて……」
「人と比べちゃだめだよ、人にはそれぞれ得意、不得意があるんだから、ルーシーは得意なことを伸ばせば、俺を越えることなんて簡単だよ」
「そう、ですかね……やっぱりお兄様にはいろいろと教えられます!」
勉強熱心なのはいいことだ。
そういえば俺は、『誰に』魔術、武術、剣術を教えてもらったんだろう。
自分で勝手に覚えたとは思えない、いったい『誰が』。
『すごいよレミ!君は世界一の魔術師になれるよ!私が言うんだから間違いないわ!」
う……ぐ……また、頭が、痛い……でもこの前ほどじゃない……誰なんだ……
でも忘れちゃいけない人な気がする……『大切な人』な気がする……
「師匠?」
俺の口からふとこぼれた……