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始動(3)

「すごい……これが、マルスの力……?」

『感動するのは後だ。奴らの動きが変わったぞ!』


 見れば、先に部屋に入っていた3人は既にいなかった。そして、アンタレスの尻尾のパイルバンカーが入り口横の柱に向けられていた。


「こうなりゃヤケだ!一度生き埋めにしてやる!」


「ちょっ……待って……」


 ハルの声は届かず、パイルバンカーは打ち出される。

 限界まで引き絞っていたそれの威力は凄まじく、一撃で柱を粉砕、残った右アームで柱を崩して入り口が塞がれてしまった。


「外の連中に連絡しろ!全弾斉射!この建物をぶっ潰せ!」


 キャタピラ音と足音が離れていく。


「どうしよう! このまま生き埋めにされたら流石にまずい!」

『落ち着け! まずはこの部屋から脱出することを考えよう』

「そんなこと言ったって! ナイフとアサルトライフルじゃ脱出するなんてできないわよ!」


 確かに、入り口の壁の厚さが基本ならば5mほどはある。高周波ブレードとはいえ刃渡り3m弱のナイフで切り刻むことはできないだろう。

 アサルトライフル60mm口径の威力は凄まじいが40発程度で壊せるなら苦労はない。


 そんな問答をしている間に、背後の壁の向こうから破壊音と振動が伝わってくる。

 奴らは斉射と言った。つまり、壁の向こうには何台もの戦車があり、それらがこの建物を潰そうと攻撃をしてきているのだ。

 この様子ではあと10分もここは持たないだろう。


 何かないか?俺にできることで、瓦礫の山やコンクリートの壁を吹っ飛ばすことができるようなことは……。


 ……

 …………

 ………………これは?


 Marsシステムの中にある機能に、一つ、気になるものがあった。

 システム名称【Ars Magna weapon : Mars sword】

 そこには膨大なアーツシーケンスが格納されている。制御システム上のものではなく、俺自身の記憶野に存在した。

 しかし、そのシステムを起動させることはできない。起動しようとすると『デバイスエラー』と判定される。

 デバイス?つまり、このシステムを起動するために必要な道具があるはずだ……。

 本来この機体の一部として存在しているにもかかわらず、現在この機体に取り付けられていないパーツがある。

 それはきっと……、


『ハル、まだ試していないことがある』

「試していないこと?何か隠された機能でもあるの?」

『まぁ、当たらずも遠からずだが。

 計算外の希望ってやつは意外と近くに転がってたようだ』


 俺はハルの前にウィンドウを表示する。それは視界の一部の拡大図。

 あの強盗団が来る直前に拾おうとしていた謎の装備ユニットである。


「あれが計算外の希望?」

『とにかく、手に取ってみよう』


 その装備ユニットは専用の容器に入れられていたが、手に取ろうと触れた瞬間、エアーの抜ける音ともにギターケースのように開き、中身のユニットが立ち上がった。


「な、なにこの反応?」

『やはり、こいつは俺専用の特殊な武装だったのか』

「何か知ってるの!? 何なのこれ?」

『いや確証が欲しい。手に取ってみてくれ』


 武装をしまうコマンド(持ち手側のブレーキレバーを握りながらA(X))を教えてナイフを納刀。

 彼女は少しの間をおいて、意を決したように両手でそのユニットの持ち手と思われる真ん中の棒を握り、ケースから引き抜いた。


『きた! デバイスエラークリア! システム起動準備完了!

 【Ars Magna(機兵) weapon(神装) : Mars sword(軍神の煌剣)】起動!』


 その武装ユニット、『軍神の煌剣』を握る腕からエネルギーが流れ込んでいくのを感じる。そして、煌剣の周りの枠、おそらく鍔と考えられる部分に光が宿り、上側の枠からエメラルドブルーの光が噴き出した。


「うわわ!なにこれ!?」

『気をつけろよ。そいつは純粋なエネルギーをそのまま熱量変換したプラズマブレードだ。触れるだけで溶断されるからな』

「なにその物騒なワードのオンパレード!?」

『なに、扱いを間違えなきゃ自分の腕を切るなんてことにはならないよ。そのためのコマンドアーツシーケンスだ』


 それじゃあまずはと、軍神の煌剣復活の記念すべき一発目を彼女に伝える。

 彼女はひび割れ今にも崩れそうな壁に向かって煌剣を振り上げた。

 煌剣携帯(バーストソード)コマンドAX(エーゼク)、両腕を上から前へ半円状に振り下ろした。


『「バーストスラッシュ!!」』



 その強盗団達は幸運だった。


 いつもの通りに自慢の戦車で物資を盗掘、略奪しながら放浪の旅を続けていた途中、食糧が少し不安だったときに大きな軍用施設を見つけたのだ。

 そこは中に繋がる門も固く閉ざされており、まだ物資が残っているだろうと期待できた。


 いつか手に入れたLT兵器アンタレス。

 動力源は石油で少し金がかかるが、それ自体が自走車として使え、ちょこっとした改造程度なら問題なくできることから重宝していた。

 コンクリートの壁も、鉄の扉も、これの手にかかれば問題なく開けることができた。


 その軍用施設の中には食糧も物資もまだ残っていた。これでまた数週間は走れるだろう。

 しかし先客がいた。謎の巨大な足跡。人型の大型兵器と考える他なく、LOT兵器の存在が疑われる。

 もし本当にLOT兵器なら脅威であり、お宝だ。なんなら自分達で使ったっていい。


 しかしこれが動いた跡があるということは恐らく先客が既に乗っているだろうと想像に難くなかった。

 それでも問題ないと思った。こちらはアンタレス以外にも6台の戦車を持っている。相手がLOT兵器だからといっても本当に強いかどうかはやってみなくてはわからないところが多い。


 LOTとは解析・複製・製造が不可能なほどに理解ができない超技術で作られているというだけであり、強力で危険なものとは限らないからだ。


 そして見つけたそれは、まさに人型機動兵器。『滅びの日』と呼ばれる戦争で用いられたLOT兵器の一つだった。

 しかしそれはどれだけ調べても中に入ることも出来ないが、微動だにしなかったため、持ち帰ってから解体して売り払おうと考えた。


 まさに順風満帆だったのだ。このときまでは。


 動き出した。反撃してきた。

 おそらく中に誰か乗っていたのだ。案山子を決め込めば諦めると思っていたやつが、ようやく尻尾を見せた。

 しかし動きが素人だ。グラグラとしているし、振ったナイフもろくに当たっていない。

 アンタレスのパイルバンカーをモロに食らわせてやればすぐに降参するだろう。そう踏んでいた。


(……なんだアイツは!?なにが起こった!?)


 急に動きが良くなったのだ。アンタレスの掴みかかりに対し後ろに引いて躱したと思ったら突進で押し返してきた。

 そして先程とは比べ物にならないほど鋭い剣線で、アンタレスの左腕を切り飛ばしてしまったのだった。


 あれは脅威だ。真正面からやっても勝てない。

 この時の判断は間違いなどではなかったと盗掘班リーダーは語る。

 その時にとった次の行動が相手を生き埋めにするためにその部屋を崩すというのも正しかったと考えている。

 アンタレスで柱を崩して入口を塞ぎ、外の仲間に連絡して戦車や爆弾でその部屋のあった一角を攻撃した。

 砲弾や爆弾で脆くなった壁。それを支えている柱にアンタレスのパイルバンカーを撃ち込もうとしていた。


 その次の瞬間、熱風、爆音と共に、壊そうとしていた壁が()()()()吹き飛んだのであった。



『さぁ、活路は開いたぞ。いきなりの実戦だが、試運転にはちょうどいい。

 アーツコマンドと状況報告はするが、勝つかどうかはハルの頑張り次第だ。気合い入れるぞ!』

「うん、ありがとうマルス。今度は私の番よ!」


「『Mars、発進!』」


 掛け声と共にキックバックアクセル。前へと飛び出す。

 敵の戦車が砲身を向けてくるが、重心を横に傾けて一瞬だけ重心と反対の足のアクセルを強く踏むことで横飛びに回避する。


 そうして煌剣の間合いにまで詰め寄った戦車2輌に対し、右手上からニュートラル前腕伸ばし、左手左から右下周り後ろ引きで、右上からの袈裟斬り、続けて切り返して逆袈裟をお見舞いする。

 プラズマブレードで一刀両断された戦車は哀れ爆発四散した。


 しかし攻撃のために止まった一瞬を見逃さなかった他の砲手達はすぐさま砲身を向けて引き金を引いた。


『3時方向、コマンドZ→Y(ゼーワイ)!』


 左足ブレーキ右足バックで左足を軸にした90度ターン。


 コマンドを伝える際にZから始まるコマンドは、形態変更コマンドだ。

 軍神の煌剣は剣と名乗っているが、実は剣だけがこの武装の姿ではない。この武装は、コマンドによってその形態を変化させ、様々な状況に対応できる武器をその場で用意できるのだ。


 そして、コマンドZ→Yによって呼び出される形態。

 俺は刃を失った持ち手を両手で握りしめ垂直に向け、敵の方へと突き出す。

 煌剣の柄を囲む鍔全体からエメラルドブルーの光が噴き出し、結晶化。まさにエメラルドのような石でできた盾となり、戦車の砲弾を弾いた。


『彼我32m。20m詰めろ!』


 盾を構えたまま前進する。

 敵は足止めのために砲弾を撃ってくるが、晶壁形態(ハードシールド)の前には無駄弾となる。


『BCY!』


 距離が詰まったところでコマンド入力。画面のガイドラインだけでなく、晶壁自体にも変化が起きる。

 鍔の周りが光り、晶壁に皹が入った。


「マルス!? これは!?」

『そのままそいつを相手に向かってぶん投げろ!』

「えぇっ!!?」


 ハルは驚き、訳がわからないと言った顔で、それでも指示に従いガイドラインに沿って操作する。

 手元で盾を半回転させながら振り抜くと、鍔から晶壁が外れた。


「えっ……?」

『喰らえ!クラッシュボム!』


 晶壁は回転しながら弧を描いて飛んでいき、敵の戦車の作る陣形の中に落ちると、ガラスの割れる音を立てて爆発した。

 クラッシュボム。晶壁の一部を崩壊させ、その中に熱エネルギーを流し込むことで爆弾化するアーツ。

 爆発した際、爆風だけでなく、砕けた晶壁の破片が周囲に飛び散り物理的破壊をもたらす、手榴弾の仕組みだ。


 これを間近で受けた戦車達は爆風でひっくり返り、破片を喰らって機関部や機体に派手に突き刺さる。確認はしてないが、中にいた人間ごとやられているパターンもあるだろう。


 あとはアンタレスだけかと思ったが、胴体に衝撃を受ける。

 1輌残っていた。車体に破片が突き刺さったりはしているが、どうやら損傷は軽微のようだ。


「大丈夫!?」

『こんな一発程度ならダメージには数えねぇよ!

 Z→B!からのAB!』


 些事は後だ。今は目の前の敵を排除することに集中する。


 形態変形コマンドを入力する。基本的に俺が右利きなのかハルが右利きなのか、右手側を上として認識しているらしい。右手側から結晶化した棒が二本伸びる。反対側、左手側からは柄を伸ばすように棒状の結晶が伸びていった。

 そして、右手側の二本の棒の間から、煌剣形態のような光が出るが、両側の棒に沿うように細長く伸びる形となった。


 続けて打ち込むアーツコマンド。

 左手で伸びた柄を掴み後ろ手に引く。右手からエネルギーと信号を流す。右のブレーキを引いて左のグリップを勢いよく前に突き出した。


『「熱槍形態(ヒートランス)、エクスティング!」』


 右手を離すとキルスイッチコマンドが作動し、充填されたエネルギーが穂先に集まる。そして左手で突き出した槍の穂先が、急速に延びた。

 延びた穂先は戦車の砲身から砲塔を貫く。これではもはやただのキャタピラ車だ。


『ハル、6時方向』

「了解!」


 左アクセル右キックバック左ブレーキ。A。

 その場で反転すると同時に熱槍を持ち直して横に薙いだ。

 真後ろにまできていたアンタレスの右アームを斬り裂く。


「くそぅ! まだだ! まだこいつにはこれがぁ!」


 アンタレスはパイルバンカーを打ち込もうと尻尾を向けてくるが、


「させない!」


 ハルは、間髪入れずにコマンドX、通常刺突で操縦室を貫いた。

 アンタレス、沈黙を確認。



 盗賊団の生き残り達は、這う這うの体で逃げていった。砲塔だけ潰されかろうじて動いた戦車に乗って。


『追わなくていいんだな?』

「えぇ、必要ないわ」


 それにしても、とハルは続ける。


「本当にすごかったわね。マルスの力。なんなのあの光は?」

『俺にもよくわからん。とりあえずあれがエネルギーの塊だということだけはわかる』


 実際のところ何なのだろうあれは。

 高周波ナイフも、アサルトライフルも、強力な武装だが、主たる動力源は内蔵電池のようだ。こちらはそのオンオフを制御しているようなものだ。

 しかし軍神の煌剣は、明らかにそれと異なる動力源で動いてるようだ。腕を通して此方の身体からエネルギーを取り込んでいた。

 あのエメラルドブルーの輝き。あれがおそらく、俺の動力源。電力や化石燃料であのような光を放つことはできないだろう。さらに言えばそれを、固体化や液体化、さらにプラズマ化など自由に変化させることができる技術など聞いたこともない。


「そう……。でもなんでもいいわ。あなたのおかげで生き残れた。今はそれを喜びましょう」

『そうだな』

「それと…」

『ん?』

「これからよろしくね。マルス」


 それは偶然だろうか? ふっと上を向いた彼女の微笑み、こちらと目があったような気がした。

 彼女に俺の意識の場所は見えてないはずだが……。


『あぁ、よろしく頼むよ。ハル』


 まぁ、可愛い笑顔が拝めたのは悪い気はしなかった。


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