ペグとチャイム
今日の雲はかたいな。
そんなことを言いながら、ペグは仕事をしていた。
向こうから少年がひらひらと飛んでこっちにくる。
少しして少年は雲に腰かけた。チャーミングな笑顔をペグは見ないふりをした。
「どうしたんだい?空に用のある者は限られてるんだがね」
「僕はチャイム。こんにちは。空の世界ははじめてで、とても素晴らしいんだね。おじさんはここで何してるの?」
チャイムは少しも間を空けずにそう言った。
ペグは少し考えて、それから答えた。
「わしはここで今日の雲の量を数えてるんだよ」
「雲の量??すごいね!僕にもやらせてくれる?」
「おまえさんがどうしてここでこうしてるのか聞きはしない。だがね、おまえさんの為にできることはわしにはないよ」
ペグは立ち上がると、初めてチャイムのことを見るようなふりをして、場所を移ろうとした。
「友達を守ったんだ。友達の、あの…犬のミニッシュが死にそうだったから、それなら僕がかわりに死ぬって泣いたんだよ。そしたら、本当に僕が死んだみたい」
チャイムの話を聞いたペグは、小さな声で言った。
「あと何日ある?」
「あと1日だよ。全部で2日。それが神様との約束だよ。あのね、言われたわけじゃないけど、なんとなくわかるんだ。そうだって」
いつのまにか立ち上がったチャイムは、少し空に浮きながら足先をバタバタさせて、ちょっと飛んだ。すぐに慣れると、突き出た雲をふわりとかわしてその次の腰かけやすそうな雲に座った。と思ったらまたすぐに浮いて、ペグの周りをまわるように飛んだ。
ペグは表情を変えないまま、柔らかい声で聞いた。
「他に人間のようなやつに出会ったか?」
「うんうん、誰にも会ってない。おじさんがはじめて。まだ僕、空の世界も少ししかわからないんだ」
「それならな、残された時間は好きに使うがいい。空は楽しいだろ」
「おじさん、僕はミニッシュがまだ生きているのかを知りたいんだよ」
「そうだろうな」
「うん」
「力にはなれないと言っただろ」
「一緒に願ってくれる?」
チャイムが笑顔のままあまりに変わらない声で言うものだから、ペグは驚いた。それからペグは頷いた。
チャイムはほっぺたを上げてにこっとした。
「おじさん、ありがとう」
雲の量を報告する相手はペグにはいない。ペグは自分の仕事をはじめて見つけた気がした。