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悪魔

作者: 安岡 憙弘

  悪魔

                                   安岡 憙弘

 わたしがいねむりをしているとだれか部屋の戸をこつこつと叩く者があった。わたしはねむい目をこすりながらドアの前に立ちおもいきってドアをはねるようにあけはなした。しかしそこにあるものはただ闇ばかりであった。

 わたしは魂がゆさぶられるのをかんじてただ一点にわたしの魂が集中していくかのような感覚におそわれだした。わたしはおそろしくなって耳をふさぎ後ずさりをして部屋にもどりもとのイスの上に倒れこむようにしての上にパタッとすわり目をつむってイヤなものをふりはらおうとしていた。時がすぎて古時計のきざむ音だけがしんとしずまりかえったわたしの部屋にこだました。なぜわたしは・・・

なぜ私は・・・絶望的な心持ちがしてふたたびドアをもとのごとくピタッと閉めますます孤独へとこもっていった。それから何時間がたったであろう私は物音にしずけさのやぶられたのをにハッとわれにかえりみると一羽のトリがが窓ガラスをコンコンとつついていたのだった。わたしはすこしなぐさめられたような気持ちになって冷蔵庫から冷やしたウイスキーを取り出すとなみなみと氷の入ったグラスをみたしてのどを鳴らして一気にのみほし干した。一杯、またいっぱい。飲めばのむほど私の体はあつくなり超自然的な力がすみずみまで行きわたっていくようにかんじた。わたしは目をらんらんと輝かせ生きる喜びにうちふるえはじめた。

 それはわたしにとっていとしいくらいにやさしいうさばらしだった。再び生きていく力をえた気分になれたのだ。

 しかしわたしのこころの奥底ではなにかがひっかかっていたのであった。その心につきささったするどいナイフのようなものを抜いてしまうことができればどんなに心強こころづよかったことか。

わたしは二ヤリと皮肉わらいをひとつしてまたちびりとウィスキーグラスにくちびるをつけ中の液体をペロリとなめた。


 悪魔は私の中ではしんだようにすらかんじられた。暗いくらい曇天どんてんがたちこめ私の上にたれてくるかのように強く圧迫をうけた。しかしながらそれはゆかいなことでもあった。幸福感すらかんじていた。

 今一切の時が止まり、空には時空の裂け目がカミナリのようなジグザグのヒビをはいらせているようにじっさいおもわれた。ドーン、ドーン、わたしにはそのような音さえ耳にきこえてきたのだった。


 罪人、それはわたしのなまえであった。しかしながらつみびとであるからこそわたしはここまで強くなれたのであった。わたしはここまでわたしをつよくしてくれた悪鬼に感謝こそすれにくむ気持ちになどなれなかった。


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