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私が守るもの  作者: 四ノ宮楓
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発現

(home)


 「ただいまー。」


 さっきの恥辱感を引きずってそっと家に入った。幸いなことに父も弟も自室にいるのか姿は見えない。今彼らに会ったら私は自分の幼稚さに押し潰されそうだ。さっさと買った荷物の中から自分のものを取り出して部屋に向かう。


 「あ、姉貴!おかえり。」


 自室に入る直前で隣の部屋のドアが空いた。


 おぅ…今、このタイミングで、ドアを開けなくてもよかったんじゃないか弟よ。


 「な、直樹。ただいま…。」


 ごめんなさい、バレバレなのに隠しててごめんなさい。自分カッコイイとか思ってて恥ずかしバカヤロー!


 頭の中がぐるぐるしている。謝罪?反省?罵倒?よくわかんないけど、爆発寸前よ。なんかフラフラしてきた。


 「って、大丈夫!?姉貴すんごい顔色悪いけど!やっぱり体調悪いんだ。」


 顔色が悪いのは絶対それだけじゃない。確信を持って言えるけれど直樹に私の恥辱の葛藤は伝わらないだろう。


 「…体調悪いの知ってたんだ。」


 意を決して言ってみる。


 「バレバレだった。いつも元気な姉貴が最近やけに明るく振る舞って空回りしてたし、家にあるはずのないパブ〇ンの空瓶が台所にあったしね。空になるまで飲むなんて、1日何錠飲んでんだよ。」


 「うっ。」


 「それに、見りゃわかるって。何年付き合ってると思ってんだよ。15年だぞ、なめんなよ。」


 グサグサと言葉がささる。ええそうよ、私の自己満足でしたよ、ごめんって。…だけど口撃している直樹の方が辛そうに見えるのは私の思い違い、かな。よっぽど心配かけちゃったんだなぁ。


 「うん、ごめん。どうしても旅行に行きたかったから。」


 「知ってる。それ以外に考えてられねぇし、俺も行きたい。だからまだ夕方だけど今日はもう早めに寝ろよ。今も辛いんだろ?これ以上悪化するとさすがにかーさんに止められる。」


 その通りだった。私の症状は帰ってからどんどん悪化している。こんな状態では到底アメリカには行けない。


 「そーだね。明日の朝早いしもう寝るね。」


 何としてでもアメリカに行きたいので素直に言うことに従うことにした。私はフラフラしながら何とか明日の準備を終わらせた。





 「ふぅーー。まさか、こんなに悪くなるなんて。」


 ようやくベッドに入り、体を休ませる。さすがにまだ明るいし、すぐには眠れない。


 「明日から、大丈夫かな…。」


 滅多にない体調不良のせいか、1人でベッドにいると不安しか感じられない。自分の体がいつもと違って上手く操れない。重いしフラフラするし、怖い。


 こんな状況でアメリカになんて行けるかな。行っても迷惑ばかりかけるかも…。やっぱり行くの考え直した方がいいかもなー。ぼんやりとそんな弱気なことを考えながらいつの間にか眠ってしまった。





 あたりが完全に暗くなり、家族も眠りについた頃、突然、激しい痛みに襲われて目が覚めた。


 「っはぁぁ!い、たい…くっ。」


 誰かに直接心臓を掴まれているかのような痛み。掴んでいる人はいないだろうけどこの痛みの犯人を探るべくまわりを見ようとするが眩しすぎて目が開かない。…光の中にいるのだろうか。


 「!?な、んで…。ぐぅっっ…。」


 全身を縮めて身悶えしているうちに冷静さを失っていく。このありえない状況に混乱する。私はどうしてしまったんだ!心臓病?なんかの発作?助けて痛い苦しい!


 部屋の壁をドン!と拳で叩く。誰か気づいて!


 「凛々子、大丈夫、大丈夫だよ。」


 予想とは違う声が聞こえた。家族ではない、知らない男の人の声。優しいけれどしっかりしている。


 「はあぁぁ!あ、ぐっ!」


 「うん。うん。苦しいね。大丈夫、もうすぐ終わるよ。」


 大きな手で頭を優しく撫でられた。この人はきっと全てわかっている。この痛みがわかっているんだ。


 「た、だす、けて……。」


 眩しすぎて見えないけれど知らない彼にすがるしかなかった。必死で頭に置かれた手を握る。


 「うん。もう、終わるからね。あとちょっと。」


 精一杯握っていた手がギュッと握り返された。


 「はっ、はっ、…うぅ!」


 呼吸が上手くできない。


 終わるの、痛みが?でもその前に私、このまま死んじゃうんじゃないかな。そんなことが頭をよぎり出した時、私の意識は暗闇に落ちた。

 






 ふっと握られていた手から力が抜けて凛々子の体を覆っていた光が消えた。


 「あら、気失っちゃった。やっぱりこの状態では覚醒は上手くできないよね。」


 意識を失った凛々子の腕をそっと撫でる。


 「ちょっとごめんね。」


 手早く用意した注射針を力のない腕にチクッとさす。この半年間凛々子を観察していたが、凛々子の特殊体質についてわかったことは何ひとつない。意識のない今のうちに血液をとっておく。


 「よしっ、と。あ、セオドリックにもう1回連絡いれなきゃ。」


 覚醒が始まってすぐにセオドリックには1度連絡をいれた。もうそろそろダミアン隊長からの返答がきているはずだ。


 「もしもしセオ?うん俺、アッシュだけど。」


 『終わったか?』


 「うん、何とか。一応バレないように部屋に防護魔法かけたんだけど、凛々子がパニックになっちゃってドア突き破ったからオレが直接接触した。」


 『そうか。隊長からの許可は降りた。まあ、降ろさざるを得ない状況だが。詳しいことは来てから言うから早く帰ってこいよ。』


 「はーい。」


 『…長い1日になりそうだぞ。』


 「いいじゃん!不測の事態だけど、オレはこの日を待ちわびてたよ。」


 返事はなく電話が切れた。


 「あ、切っちゃったー。ま、戻りますか。」


 地上には普通はマグアはない。異常を起こさないためにも、アッシュは魔力を使わずに滞在しているホテルに向かった。


ありがとうございました!

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