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私が守るもの  作者: 四ノ宮楓
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不調



 ーー聞いたことのある声。とても心地いい、優しい声が私の中に溶け込んでくる。


 『ねえフリージア聞こえてるでしょ、あなたよ。よく聞いてね。私、これ以上あなたを守れないの。』


 え、なに?どうして?


 『…ごめんね。詳しいことは何も言えない。でも、あなたは今とても危険な状態だわ。それに、そこは危ない。早くそこから逃げて。』


 なんで?私は今のままで十分。何も困ってないし、ここは安全だよ?


 『そこにいたらあなたはすぐに見つかって捕まってしまうわ。だから…、だから……。』


 見つかって捕まる?


 『ああ、早くしないと私もすぐに見つかってしまう。

…っごめんね。ちょっとしか、いっ…には、いら、れなかったけれど、…わた、し、ちゃんとあなたを、…のこと、を、大切にしている…。だから急いで遠くに逃げて…!決して、…たち、に、捕まってはいけない…。』


 え、待ってよく聞こえない。なんて?…あなたは誰?





 ジリリリリリ!!!


 けたたましい目覚ましの音ではっと目を覚ます。


 「またこの夢かぁ…。」


 はっきりとは覚えていないけれど、最近、同じような夢をよく見る。


 「私のことを何て呼んでたっけなぁ…。うーん思い出せない。それにしても、ここから逃げて!って言われてもねぇ。怖いわぁ。」


 毎回場所や言い方は違えど、何故か女の人が私に逃げて!と訴えてくる夢ばかりを見る。こんな夢が1回や2回ならまだしも、既に2桁になるほど見るとさすがに単なる夢だとは言いきれないような気がする。


 だが考えすぎても手の打ちようがない。最近は体調が芳しくないから変な夢ばかりを見るのかもしれない。


 「ま、でも明日からはアメリカ旅行だし日本にはいなくなるけどね!た、の、し、み〜!」


 明日への期待を込めてうきうきしているとドアの外から声がかかった。


 「凛々子、まだ寝てるの?今日は買い物行くって言ってあったでしょ!」


 「はぁーい!」


 明日から私たちは家族でアメリカに行く。今日は明日からの旅行でいるものの最終準備の日。母と買い物に行く約束をしていたのだ。さっさと起きてご飯を食べないと、明日の自分が困る。私は飛び起きてご飯を食べに行った。



 



(in shoppingmall)


 「それにしても1年に2回もアメリカに行けるなんてラッキーだなぁー。」


 混雑したショッピングモールで母に聞こえるように大声で話しかける。


 「本当にサスペンダーさんに感謝しないとねぇ。道に迷ってたら丁寧に地図を書いて教えてくれて、その上今度は家に泊まりにおいでよって言ってくれるなんて、そんな親切な人なかなかいないよ。」


 本当にその通りだ。


 半年前、私たちは家族で初めてアメリカに行った。その時に出会った私たちの恩人、サスペンダーさんのお誘いがあり、今回再びアメリカに行くことにしたのだ。


 「サスペンダーさんから連絡があった時はさすがに家族みんなで驚いたよねー。お礼として日本流に菓子折りでも持ってく?」


 「うん、そうね。日本文化を学びたいって言ってたし、そういうものでいいかな。あ、でもお菓子は口に合わないかもしれないからちょっとにして、高級な日本製のタオルもプレゼントしましょう。」

  

 買うものは決めていたのか母は素早く店をまわり、必要なものを買い揃えていった。






 「お父さんに頼まれていたものも買えたし、サスペンダーさんへのお土産も買えたし…うん、このくらいかな。あ、あと凛々子。あんたどうなのよ?生理」


 胸がずきんとした。


 「あー、いつもと同じ。…一応、セットは持っていくけど。」


 母の顔は見ずに応える。


 「そっか。うーん、アメリカから帰ってきたら1回病院行ってみよっか。」


 私は月経を経験したことがない。17歳でまだ生理が1回もきていないのはちょっと遅いという自覚はある。クラスで私以外に生理きてない子はいないし、多分。でも、病院は行きたくない。


 「え、病院は絶対に嫌。18、19歳で生理くる人もいるってネットで見たし…。まだ大丈夫だって!」


 インターネットという非確定的な情報を元に母にささやかな抵抗に出る。


 「だーめ。1回ちゃんと診てもらった方がすっきりするでしょ!あんたは大事な娘なんだから。」


 ちぇ、こりゃ駄目だ。母はこうなったらすぐには意見を曲げない。


 アメリカから帰るまでに作戦を立てないと、と考えていたら追撃がきた。


 「それにあんた最近体調悪いでしょ。明日からの旅行行ける?不調が続くようならどの道、病院には行かなきゃね。」


 げ、バレてたのか…。確かに体が重だるくて、貧血っぽい症状が続いている。熱はないからパ〇ロン飲んでやり過ごしていたけれど、正直高校に行くのも辛かった。ゲームでHPをどんどん減らされていくように、力がなっていく変な感覚。健康良児の私にとって、今までにない怖い不調だったが、アメリカ旅行にどうしても行きたかったから隠していた。


 「だ、大丈夫に決まってるでしょ!旅行、すっごい楽しみにしてたんだよ。今日は早く寝るからさ!」


 必死になって頼む。


 「そう?そんなに顔色悪い人に言われても安心出来ないけどね。…辛くなったらちゃんと言いなさいよ。」


 「うん。」


 よかった。旅行には行かせてもらえそう。


 「ちなみに隠してたつもりだろうけどみんな気づいてるからね。」


 「は!?」


 今日何度目かの衝撃をくらう。


 「あんたの体調が悪いことは直樹もお父さんも知ってるよ。凛々子が隠したがってたから誰も何も言わなかったけど…。」


 まさか家族全員にバレていたとは…。なんか恥ずかしいじゃん!父も弟もいつもは鈍感なくせして余計なことに気づくんだから。


 私は辛いけど、そう見えないように頑張ってます!って自分の中の自分にアピールしてた。こんなに体調悪いのに耐えてる私カッコイイー!って思ってた。…私、自分に酔ってたんだ。誰にもバレていないと勝手に思い込んで達成感に浸ってたし。17歳にして厨二病じゃん。この上なく恥ずかしい。家族には心配をかけて申し訳ないという気持ちももちろんあるけれどそれ以上に羞恥感と屈辱感が半端ない。


 私は早足で帰るための車に向かった。

ありがとうございました!

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