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九話 領主と話してみた

「へぇ……ここがカストロの館か」


 館の門を潜ると、一瞬だけ視界が暗転する。次に視界が晴れると俺は館の入口に立っていた。恐らく画面切り替わったようなものなのだろう。『Lunatic brave online IV』は延々とフィールドが続いているといった感じではないようだ。各々に設定されたポイントを通過すると、隣接したフィールドへ転移する形を取っているみたい。まあ、大抵のゲームがそうだし、俺自身が慣れれば特に違和感はないだろう。


 そんなことを考えている俺の前に一人の髭を蓄えた男性が立っている。カストロという名前が頭の上に浮いていた。どうやらこの男性が領主のカストロのようだ。そのフサフサの髭とは裏腹に、浮いている名前の下にある頭頂は可哀想なことになっている。毛自体が無い訳では無いが、頭頂が……よし、カストロ改めて通称kenashiと呼ぶことにしよう。


 しかし、俺は四十間近とはいえ、毛に関しては心配しなくて良いからありがたいことだ。少し白髪は多くなってはきているが……って今の俺はどうなんだ?と、頭頂部に手を置いてみると……大丈夫、毛は生えている。一安心だ。


 ってそれはおいといて……クエスト進めないとな。


 と俺は思いkenashiに近づくと、kenashiが話し出した。


「セフトの街へようこそ。私がこの街の領主であるカストロだ」


 ああ、そうだった。kenashiじゃなくてカストロだった。いや、kenashiはあってるんだけど……と心の中で自分に対してツッコミを入れるが、kenashiにはそんなの関係ない。構わずに会話を進めてくる。


「私は冒険者のことを心から応援しておる。宜しければそなたの旅路を教えてくれないか?」


『冒険者になったばかりなので、お話できることはありません』『カッパか! はっ!』


 選択肢が目の前に現れてきた。なんと! kenashiじゃなかった! カッパだった! しかも公式公認。ってか仮にもゲームのキャラクターとはいえ、初対面の相手に向かってカッパ呼ばわり出来るのか? 普通失礼じゃないのか? いや、それ以前にkenashiも充分失礼か。kenashi、kenashi言ってた俺が言えた義理じゃないなぁ……


 し、しかし気になるぞ……この選択肢。普通に考えたら『冒険者になったばかりなので、お話できることはありません』の方だよな。というか実質一択。『カッパか! はっ!』こっちはない。ただ、展開は気になるなぁ……


 と、『カッパか! はっ!』に手を伸ばそうとした俺は急に正気に戻った。


 いやいや、待て待て。普通はこんなこと初対面の相手に言わないだろ? しかも相手は領主。捕えられたっておかしくない。気になる……気にはなるけど! ここは我慢して『冒険者になったばかりなので、お話できることはありません』をタップするべきだろう……って我慢? なんでゲームでまで我慢しなきゃならない? 最悪何かあってもアカウント作り直せばいいじゃないか? 悪魔のような囁きが俺の脳内を駆け巡る。


 いいや! 限界だ押すね! 今だッ!


 俺は覚悟を決めて『カッパか! はっ!』をタップする。


「カッパ? なんだそれは? カッパとはなんだ? 詳しく話を聞かせてくれないか?」


 意外な反応とともにまたも選択肢が現れてきた。どうやらこの世界にはカッパはいないらしい。じゃあ何故こんな選択肢を作ったんだ? 運営さんよ? しかし、まだ選択肢は続く。


『いえ、特にお話するようなことではありません』『カッパと言うのはですね……』


 おーい! ここでカッパについて掘り下げるのかよ! まあ、ここまで来たら次も見てみたい。と『カッパと言うのはですね……』をタップする。


「ふむ……よく分からん。もう少し詳しく話してくれるか?」


 その後の選択肢は先程と同じ『いえ、特にお話するようなことではありません』『カッパと言うのはですね……』だった。ここからは無限ループかな? もういいか。運営のただのお遊びだったみたいだな。


 俺はそう思って『いえ、特にお話するようなことではありません』をタップする。


「ふむ。なるほど。ならば頑張ってくれたまえ。あ、そうだ! もし良かったら街の者の頼みを聞いてくれないか? トーマスが最近何か困ったような様子で……」


 トーマスというのは門番か。次のクエストはトーマスに話しかけると進むみたいだな。

 となると、ここでのイベントはここまでか……


 俺はメニュー画面を開いてメインクエストを確認すると『門番のトーマスに会え』に変わっている。これでメインクエストが進んだことを確認出来た。


「じゃーなー! kenashiさん!」


 俺は一言領主に声をかけて館を後にした。

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軟弱王子は前世の力を隠したい~実は世界で唯一の魔法を操り、大軍すらも蹴散らす力を持つが、今世はのんびりと生きたいので喜んで軟弱王子を演じます。でも、なんでこんなに厄介ごとばっかりやってくるんですか?~」という作品の投稿を開始しました。宜しければブックマークと評価をお願い致します。 またこの作品も宜しければブックマークと評価をお願い致します。
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