四話 感慨にふけってみた
再度訪れた明るい闇が段々と終わり、視界が晴れると俺は一人で立っていた。だが、そこは先程のような狭い空間では無かった。目の前に広がるのは石造りの街並み、そして、行き交う無数の人々だった。しかも、その光景だけではない。心地よいと言っても良いくらいの喧騒が俺の耳をくすぐった。正直、インターネットの巨大掲示板でも『Lunatic brave online IV』の名前は全く見なかったし、あまり人がいないんじゃないかと少し疑っていた俺は、目の前の人の多さに安堵すると同時に胸を躍らせた。せっかくVRMMORPGをやるんだ。過疎ってたら嫌だからね。これならサービスもすぐに終わるってこともなさそう。楽しかったら運営にお布施も兼ねて課金してもいいかもな。
と、感慨にふけり、『Lunatic brave online IV』の世界を全身で味わう俺に不意に声がかけられる。
「冒険者さん、セフトの街へようこそ」
ふとその言葉を耳にして俺は辺りを見渡した。俺に声をかけてきたのは門の横にいる門番だ。頭の上にふわふわと何か漂っている。『トーマス』か……名前かな? と、同時に先程行き交っていた人たちにも同様に何か文字のようなものが浮かんでいる人たちとそうでない人達がいることに気づいた。この門番にも浮いている。浮いている人と浮いていない人の違いは、多分NPCかNPCでないかだと思う。この声をかけてきた門番は恐らくNPCだろう。この『Lunatic brave online IV』の世界に降り立ったプレイヤーに最初に声をかけるようにプログラムされているのだろう。
『Lunatic brave online』はメインクエストがあった。そのメインクエストに沿ってプレイしていくことにより、チュートリアルのようなものも兼ねていた。その系譜は変わってないみたい。また、そのメインクエストをクリアしていくことによって経験値を獲得することも出来た。敵を倒して得られる経験値、メインクエストをクリアして得られる経験値、あとはサブクエストと呼ばれる、様々なNPCから依頼されるクエストをクリアして得られる経験値でレベルを上げていく。そんなシステムだった。恐らくこの門番からそのメインクエストが始まるのだろう。
「この街の長であるカストル様は優しい御方だ。冒険者にも寛容だし、冒険者の話を聞くこともカストル様の楽しみの一つだ。もし時間があるなら是非会ってくれないか?」
そう言った門番は目の前の大通りを指さす。恐らくこのままカストルという者にあうとメインクエストが進むのだろう。ただどうしたものかと俺が悩んでいると大きな声が聞こえた。