一話 プロローグ
「月守 葵さん、お届け物でーす」
その声はインターホン越しの宅配便のお兄さんの声。俺もインターホン越しに返答をして、すぐさま玄関に向かった。昨日買った荷物が届いたようだった。四十前にもなって年甲斐もなくワクワクした気持ちは配達員のお兄さんにはバレないようにと必死に押し隠したから、多分大丈夫なはず……
早速届いた荷物の封を開けると出てきたのは『Lunatic brave online IV』というVRMMORPGのゲームの機体である。
「おお、今はこんな感じになってるのか……ゲームなんて久々だからなぁ。この十数年と馬車馬の如く働きっぱなしだったから」
俺はつい感嘆の言葉を漏らしてしまった。ここ十数年はゲームをやる時間などなく、毎日二十時間や三十時間は働きっぱなしだったからなぁ……ん? 計算がおかしい? いや、大丈夫、あってるあってる。朝から夜まで働く日と夜から朝まで働く日が毎日続いてただけだから……
いや、今考えるとやっぱおかしいか。よく生きてたなぁ……なんか視界がぼやけるなぁ。目から汗かな……
「って、今はそんなに働くこともできなくなっちゃったんだけどね」
馬車馬の如く働いた俺は先日リストラされて今は無職。気も抜けて転職活動にも身が入らない。だから気分転換で昔馬車馬の如く楽しんでたゲームでもやろうかと思い立ったワケだ。
この『Lunatic brave online IV』は俺が最後にハマった『Lunatic brave online』というゲームの続編らしい。ま、仕事に忙殺されて強引に現実世界に引き戻されることになったんだが……で、せっかくやるならかつて楽しんだゲームの続編にしようと思ってコレにしたんだ。まあ、『Lunatic brave online』はVR要素は無かったし、十年前以上前の作品の続編だから、仕様も変わってるだろうから前の知識は役に立たないかもしれないけど。ただ、あれからシリーズ四作目ってことは評判は悪くないはず……
でも、一つ気になることがある。仕事で忙しくてネットを見る暇も無かった俺は購入を決めてから、にちゃんねるという巨大掲示板で色々情報を漁ったのだったが、情報を全く見つけられずにいた。あまり人気が無いのかな……とは一瞬思ったもののやると決めたらテコでしか動かない俺の性格! せっかく思い立ったんだしやらずに後悔するならやってから後悔しよう! と速攻でポチッたのだった。で、今に至ると……
「ま、やってみないとわからないか」
説明書をパラパラと捲りながら使用方法をざっと確認しながら俺は呟いた。そして俺は意を決したかのように勢いよくゲーム機を装着して電源を入れた。