93 歓迎会
客室に案内された俺は暇を持て余していた。アンに案内された部屋は質素な部屋だったが、しっかり掃除が行き届いて快適であった。
「夕食の準備が出来たらお呼びしますので、それまでここでゆっくりしておいてくださいね。」
アンはそういって出て行った。それからすでにかなりの時間が経っている。外を見るとすでに暗くなっている。俺は部屋に設置されているランプに火を灯す。
「忘れられてないか?」
俺はさすがに不安にかられてきた。お腹もかなり空いてきた。「そろそろ降りようか」と思ったところドアがノックされた。
「千波矢さん。遅くなってすみません。お待たせしました。」
入ってきたアンはそうそうに俺に謝る。
「何かあったの?」
「いえ、やっと宿泊客の食事時間が終わったです。」
「えっ。食事時間が終わった?」
夕食の準備が出来たら呼びに来ると言ってた気がしたが、食事時間が終わったってどうゆうことだろう?
「さあ千波矢さん、こちらです。」
俺は疑問に思いつつも、アンに連れられて、食堂に向かった。
「「「「ようこそ、リンカーンへ」」」」
俺は食堂に入るなり盛大な歓迎を受けた。30人近くの人が俺を出迎えてくれた。
「あの、アン。これは一体?」
「お母さんが歓迎会を開くと言っていろいろな人を呼んだの。だから、夕食が遅くなったの。」
アンはやれやれといった顔で母親を見ている。
「でも、大げさじゃないか?」
「そういえば、そうですね。」
アンも不思議そうにしている。どうやら詳細は聞いていないようだ。とりあえず、アンに言われて席に着く。そしてアンは隣の席に座る。すると、マーサさんが部屋の真ん中まで進むと手を叩いた。
「今日はみんな集まってくれてありがとう。娘のアンが王都から帰って来たんだ。フィアンセを連れてね。今日はちょっと早かったアンの帰還とフィアンセの紹介の宴だよ。楽しんでおくれ。」
俺はマーサさんの言葉にびっくりして立ち上がる。ちょっと待て、フィアンセってなんだ。アンも聞いていなかったようで目を白黒させている。立ち上がった俺をちょうど良いと思ったのか、マーサさんは手招きして呼び寄せる。
「マーサさん。フィアンセってなんですか?」
俺が小声で抗議すると、マーサさんは不思議そうに答える。
「あら、リリアさんの手紙に寿退社って書いてあったわよ。」
原因はまたしてもリリアさんだった。マーサさんは俺の手を取ると周りの人に紹介を始めた。
「彼が娘のフィアンセ、千波矢さんです。彼は・・・」
向こうではアンが捕まっている。顔を真っ赤にして何か話している。向こうは向こうで大変そうだ。
「彼は冒険者兼調剤師で調剤の腕は王国軍に卸せるほど優秀なの。」
マーサさんによる紹介がどんどん続いていく。この情報もおそらくリリアさんの手紙か。この宴が終わった時、俺は完全にアンのフィアンセで凄腕の調剤師として周りに認識されていた。




