91 いつもの光景
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「で、お前はだれだ?」
しばらく抱きしめた後、おっさんは俺の顔を睨みながら言ってきた。アンはグロッキー状態になっている。
「葵 千波矢といいます。」
「変わった名前だな。で、なんで娘と一緒にいるんだ」
その言葉にはかなりの怒気を帯びている。彼の中では俺は完全に娘に寄りつく悪い虫になっていそうだ。
「一緒に旅をしていまして・・・」
「ふざけんな。娘は神官見習いとして王都で頑張るって家を出たんだぞ。なんで旅をしてるんだ。お前、娘に何をしたんだ。」
おっさんは語気が強まり、俺の言葉を途中で遮る。アンが教会を止めて旅をしている理由は神託によるところが大きいよな。そうなると半分くらいは俺のせいか?いや、ついて来ると決めたのはアンだよな。俺がいろいろ考えているとおっさんは更に切れた。
「てめえ、何黙ってんだ。もしかして、口には言えないようなことを娘にしたのか。」
おっさんは俺の胸倉をつかんでくる。殺気を放ち始める。これは流石にまずくないか。おっさんは筋骨隆々でまさに荒くれもののような体つきだ。どうみても俺では相手にならない。などと考えていると、おっさんの後ろに更に殺気を放っている人物が立っていた。
「おい、アン。止めろ。」
俺の制止も聞かず、復活したアンの一撃がおっさんのお腹に深くめり込んでいる。実にいい角度で拳がめり込んでいる。あれは痛い。
「千波矢さんに何してんですか。」
おっさん、もといアンの父親は地に臥すと悶絶している。
「アン。親父さん、大丈夫か?」
「ええ、いつもの事なんで大丈夫です。」
笑顔でそう答えてくるが、これがいつもの光景なのか?悶絶するアンの父親を見て、俺は「アンと喧嘩をしてはならない」と深く心に誓った。
「千波矢さん。ここでは目立ちますので、家まで来てもらっていいですか。」
すでに周りにギャラリーが出来ている。もう十分目立っている気もするが・・・。
「アンちゃん。また強くなったね。」 「おっさん、だらしないぞ。」
「もっとやれ。」 「隣の人、彼氏かい?」
「実にいい一撃だった。」 「アン、お帰り。後で家にも来てね。」
「兄ちゃん。だらしないぞ。」
いろいろなヤジなどが飛び交っている。いくつか気になるものもあるが今回は無視だ。アンは知り合いの人に手を振って答えている。アンの父親はまだ悶絶中だ。
「お父さん。いつまで痛がってるの。そろそろ帰るわよ。」
アンはそういうと父親を無理やり立たせようとする。いや、まだ無理だろう。立てない父親を見て、アンはやれやれと回復魔法を掛ける。ただ、必要最低限しかかけていないな。
こうして、俺はアンの家へと向かうこととなった。




