90 リンカーンに来た理由
評価、ブックマーク登録ありがとうございます。
「今、なんていった。」
「この町は私の生まれ故郷です。」
アンは小さな声で答える。顔を赤くし、うつむいてもじもじしている。
・・・つまり、アンは俺を生まれ故郷にわざわざ連れてきたのか。余程、故郷が好きなのだろうか?それともまさかあ両親に紹介しようとしているとか?俺がいろいろ思案しているとアンが小さな声で喋りかけてきた。
「あの、その。リリアさんがリンカーンに連れていけ、と強く勧めてきて。断れなくて・・・。その、今まで黙っててごめんなさい。」
アンは誤ってくるが、原因の大半はリリアさんだろう。基本的にアンはリリアさんに逆らえないようだ。それにしてもあの人は・・・。
「いいよ、アン。そんなに気にしなくて。気まずいんだったら、今日は宿に泊まって、明日朝一番でこの町を出てもいいよ。どうせ、目的もない旅だから。」
「あのそれはたぶん無理です。」
「なんで?」
「この町には宿屋が一軒しかないんです。」
「うん。」
「それで、その・・・。その宿屋を経営しているの私の両親なんです」
・・・なるほどそういうことか。この町で一泊したら、即両親と会うと。リリアさん、分かっていたな。それなら、もうすぐ日が暮れそうだが、町をでるか。アンに迷惑はかけれないか。
「分かった。アン、ここまで案内してくれてありがとう。俺はすぐに町をでるよ。」
俺はアンに感謝を伝え、町を出ようとした。
「えっ。ちょっと待ってください。千波矢さんが町を出るなら、私もついて行きますよ。」
アンが慌ててついて来る。
「えっ。なんで?」
俺が戸惑っていると、彼女は当然のように答える。
「私は神様に転移者である千波矢さんを助けるように言われたんですよ。千波矢さんにずっとついて行くのは当然じゃないですか」
そういうものなのか?それにしてもずっとついて行くっていいのか。もはやプロポーズの言葉じゃないか?
「もしかして、迷惑でしたか?」
アンが不安そうな顔で聞いてくる。目にはうっすら涙を浮かべている。
「い、いや、全然迷惑じゃないよ。どちらかというと俺の方が迷惑を掛けているんじゃないかと」
俺が慌てふためきながら答えると、アンは最高の笑顔で答えてくれた。
「良かったです。全然迷惑でないです。これからもよろしくお願いします。」
「それで、どうする?」
「何がですか?」
アンはすっかり忘れているようだ。
「いや、ご両親に会うかどうか。」
「・・・どうしましょうか。」
「せっかくここまで来たんだし、アンも会いたいだろう。」
「はい、そうですけど・・・。」
俺を合わせることに問題があるのだろうか。アンは渋っている感じだ。何かあるのか?
「アン。どこだー」
向こうの方から厳ついおっさんが全力で叫びながら走ってくるのが見えた。その声を聴いたアンがビクッと身震いをして、ゆっくり後ろを振り向く。
「あ、お父さん、ただ・・・」
言い終わる前に男に抱き着かれる。アンはおっさんの腕の中で苦しそうにもがいている。あれは・・・きつそうだ。周りの人が助けに入らないところを見ると変質者ではないようだ。・・・父親だよな。




