9 アンとの出会い
「なにするんですか。」
声の方を向くとびしょ濡れの少女が立っていた。
どうやら、先ほど掴んだのは彼女の足だったんだろう。どうやら俺が池に引き落としたみたいだ。
「悪い。溺れてて必死だったんだ。」
俺は素直に謝った。どう考えても非はこちらにある。
それにしても、改めて見てみると、なかなかの美少女だ。赤毛のショートカットで瞳の色は黒で澄み切った眼をしている。
身長は低く150程度だろうか。服が濡れているため、体に張り付いて体形がよく分かる。ほっそりとした体で、スレンダーな体型だ。胸はあまりないか。・・・俺の好みとかなり被っている。
「ちょっと、何見てるんですか。」
少女はあわてて胸元を隠すと、平手打ちを放つ。体力が限界だった俺はかわすこともできず、見事に頬を叩かれる。思った以上の力だった。情けないことに俺はその場でのびてしまった。
「ん。うーん。」
俺は目が覚めると同時に頬がジンジンしているのを感じる。
「目が覚めたみたいですね。大丈夫ですか。」
声を掛けてきたのは、先ほど俺をノックアウトした少女だった。
俺の服は乾いており、横には焚火が燃えていた。彼女は服を着替えており、心配そうにこちらを眺めていた。
「ああ、頬がちょっとジンジンするけど大丈夫だ。」
「それはあなたが悪いんでしょ。」
彼女は頬を赤らめて睨む。
「悪い、見るつもりはなかったんだって。」
「まあいいです。あなたどうして池で溺れていたんです?」
「ああ、ちょっといろいろあったんだ。それより助けてくれてありがとう。」
「助けるのは人として当然のことです。
しかし、こんな辺鄙な場所の湖で荷物を何も持たず溺れているなんて変じゃないですか?」
少女の追及が続く。これは正直に言うしかないか。どうせ大神殿に送られるはずだったんだ。隠す必要はないか。
「いや、実は俺は転移者で、なぜか地下の洞窟に転移させられて・・・」
俺の言葉が終わらない内に少女が泣き出した。
「私、あなたを探しに来てたんです。でも、何時間も探しても見つからなくて諦めかけてたんです。」
そういうと泣き崩れてしまった。
泣き止んだ少女に事情を聴くと思いもしない返事が返ってきた。
「つまり、神託で俺がこの世界にくることを知り、大神官と神官長に伝えたら、『嘘の神託だ』と言われて、神殿から追放された、と。
そして、俺を見つけて神殿に連れて帰ったら、追放を取り消してもらえると思い、探していたと。」
「はい、そうです。」
「一つ聞きたいんだが、俺が転移者であると証明できるのか?」
「えっ。偽者なんですか。」
「違う。俺は確かにラインハットって神にこの世界に転移させられたけど、それを証明する方法があるのかって聞いているんだ。」
「ないと思います。」
「だったら、俺を連れて行っても無駄だと思うぞ。また、『嘘をついた』、と言われかねないぞ。」
少女は俺の言っていることを理解したようだ。顔が暗くなる。
「いえ、もしかしたら何か方法があるかもしれません。お願いします。いっしょに王都の大神殿まで来てもらえないですか。」
少女は必死だった。その願いを無視することは俺にはできなかった。
「わかった。いっしょにいくよ。俺の名前は葵 千波矢 だ。よろしくな。」
「はい、私はアンといいます。」